プロローグ

July 02 [Thu], 2009, 5:44
 10万人の観客の前に立つ、僕の右手は少し震えた。
「Thank you!!」
 喉から、喉からしかでない僕の声はマイクロフォンからスピーカーへ、スピーカーから観客の前に押し出される。

「さんきゅう?さんきゅうってなんやねん?」
 糞むさ苦しい顔の― 髭は剃れっての ―彰浩が笑う。
「Rock bandやろ?こんなんはな、Fuck youやで。Fuck you。」
「意味分からないだろ。それじゃ。」
 篤志がつっこむ。
「馬鹿だろ。」
「馬鹿って何や、あほ。」
 篤志と彰浩。ギターとドラム。ギターとドラムの争いはよくない。僕は知っている。ギターとドラムの喧嘩はバンド活動の危機だ。
「帰ろうよ。」
 唐突に眠たげな眼の裕也が呟いた。
 こいつの眼はいつも眠たげだおまけに眼鏡が曇っていて眼から何の情報も伝わってこないそんな眼を俺に向けるこいつの眼鏡の奥の奥にあるものは俺には俺だけには分かる。

「時間遅いよ、続きは明日、ね?」

 優しい声の裕也。

「なんやねん盛り上がってきたのに、帰るけどな。」

 耳障りな関西弁の彰浩。

「帰るんかい。」

 癇に障る喋り方の篤志。

 知っている。見なくたって分かる。
 彼らは、それでもそこにいるから。

 振り向き、僕は言う。

「Thank you!」
 10万人の歓声分の、彼らの笑い声が返ってきた。
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