グレイト?ギャツビー 

October 11 [Fri], 2013, 12:46
ぼくはその名前を最後まで聞かなかった。電話を切ってしまったから。

その後、ぼくはギャツビーに対して、ある意味、恥ずかしく思った――ぼくが電話をしたある紳士は、自業自

得だと言わんばかりの返事を返してきた。といっても、間違っていたのはぼくのほうだ。なぜなら、その紳士

はギャツビーの酒の力をかりてギャツビーをてひどくこきおろしていた連中のひとりだったのだから、ぼくも

電話などするべきではなかったのだ。

葬儀の朝、ぼくはメイヤー?ウルフシェイムに会うため、ニューヨークに出た。それ以外に、かれと連絡をとる

方法を思いつけなかったのだ。エレベーター?ボーイの案内にしたがって、「スワスティカ持株会社」とあるド

アを押したところ、最初、中にはだれもいないように見えた。が、ぼくが「すみません」と何度かむなしく叫

んでみると、背後のどこかで言い争う声がし、まもなく、きれいなユダヤ人の女が奥の扉から出てきて、黒い

瞳に敵意をみなぎらせ、ぼくをじろじろと見た。

「中にはだれもいません」と女は言った。「ミスター?ウルフシェイムはシカゴに行っておられます」この発言

の前半は明らかに嘘だった、というのも、奥で調子はずれの口笛が「ロザリー」を演りはじめたから。

「キャラウェイがお会いしたがっているとお伝え願えませんか」

「シカゴから連れもどしてこれるわけないでしょう?」このとき、ウルフシェイムに他ならない声で、奥のド

アから「ステラ!」という呼びかけがあった。

「そこの机に名刺を置いていってください」と女はあわてて言った。「おもどりになり次第お渡ししておきま

すので」

「でもかれがそこにいるのはわかってるんですが」

女はぼくのほうに一歩踏み出し、腰に手をあて憤然と立ちふさがった。

「あなたがた若い人たちは、ここにきたときも、いつでも強引にいけばなんとかなるとお思いのようですけど

ね」と女は叱るように言った。「こっちだってそんなのにはもう慣れっこなんですから。シカゴにいると言え

ば、シカゴにいるんです」

ぼくはギャツビーの名をだした。

「あ、ああ!」女はふたたびぼくを眺めた。「ちょっと――お名前はなんと言いましたか?」

女は消えうせた。と、メイヤー?ウルフシェイムがしゃちほこばって戸口に立ち、両手を差し出していた。ぼく

をオフィスに招じ入れると、真面目くさった声で悲しいことになったと言って、葉巻をぼくに差しだした。

「あいつにはじめて会ったころのことを思い出す」とかれは言った。「軍を除隊したての若い少佐でな、軍服

の一面に戦争で獲得した勲章をはりつけていた。ひどく金に困っていて普通の服も買えず、軍服を着つづけて

いたのさ。はじめて会ったのは43番街のワインブレナーのビリヤード場でのことだった。あいつは職を求めて

あそこまでやってきたんだ。もう2日なにも食べていなかったらしい。『一緒に昼でも食おう』とおれは言った

。あいつは30分で4ドル以上食ったな」

「で、かれに仕事を紹介したということですか?」とぼくは訊ねた。

「仕事を? 違うね、おれはあいつを作ったのさ」

「なるほど」

「おれはあいつを無から育て上げた。それこそ、どん底からね。あいつの容貌がいかにも紳士らしい若者だっ

たのにすぐさま気づいたよ。それでオッグスフォードの出だと聞かされたときは、これは使えると思った。在

郷軍人会に加入させてみると、うまく地位を得てくれてな。ただちに、オールバニーのおれのお得意のために

ちょっとした仕事をやってくれたもんだ。なんにつけても、おれたちはそういうぐあいに緊密だった」――か

れは2個のボタンを指で摘みあげた――「いつも一緒だった」

ふと、そのパートナーシップの中に1919年のワールド?シリーズ買収も含まれていたのだろうかと思ったりした



「そのかれが亡くなりました」ぼくはちょっと間をおいてから言った。「あなたはかれのもっとも親しい友人

でしたから、午後の葬儀にも参列したいとお思いだろうと」