『明治のサーカス芸人はなぜロシアに消えたのか』あとがき

2013年08月 08日 (木) 14:00
 30年近く追いかけてきたヤマダサーカス団について、もう何も新たなことは出て来ない、完全な袋小路に陥ってしまい、先の展望がまったく見えなくなった時だった。いままで調査したことを一回まとめて、始まったばかりの桑野塾で報告してみようと思い立った。せっかく長年調べてきたことなので、一区切りをつけたかった。いま思うとこのとき、それまで眠っていたヤマダ一サーカス団の芸人さんたちの霊が呼び覚まされたのだ。そう思うしかないことが次々と起こるのである。
 桑野塾で報告したのが2010年3月だったのだが、このあと9月に10何年ぶりかで訪れたサンクトペテルブルグで、偶然シマダの孫とめぐり合うことになり、そしてこの孫のマスリャーノフが書いたシマダ一家の秘史によって思いもかけぬ事実が明らかになった。帰国してまもなく、桑野塾の参加者のひとりから、シマダ・パントシが、日本人ではなく朝鮮人だったことを証明する資料の提供を受けたり、さらには何度も通っていた外交史料館の資料のなかに、ヤマダサーカスロシア公演に参加した女芸人が、ロシア革命に巻き込まれてしまったときの外交文書があったことを教えてもらったりと、次々と新事実が明らかになった。もうこれ以上の展開はないだろうと、ほぼあきらめかけていたヤマダサーカス団追跡調査に道が開いた。それはヤマダの人たちのまだ諦めるなという地下からのメッセージでもあったと思う。
 桑野塾での報告をまとめた「アートタイムズ−特集・桑野塾はいま」で、このときの報告とそのあと明らかになったことをまとめ、「シマダの謎を追う ロシアに渡ったサーカス芸人列伝2」と題し、掲載した。これが日本経済新聞文化部の記者の目に留まり、2012年暮れに「海外驚かせた離れ業−100年前のロシアで活躍したサーカス芸人を追う」と題して記事が掲載された。
 記事が掲載された翌日今回この本を出してくれることになった祥伝社の書籍編集長の岡部さんからfaxで、これをテーマに書いてみませんかというお手紙をいただいた。「海を渡ったサーカス芸人」をテーマに本を書くというのは無理だろう、あとはなにか賞に応募するしかないだろうと思っていただけに、この申し出はありがたかった。ありがたい申し出を受けながら、いろいろ無理を言わせてもらった。岡部さんにはほんとうに感謝している。
 そして今回このような本に仕上がった。先に書いたように、シマダやヤマネの眠っていた霊が呼び覚まされて、書けた本だと思う。いま出来上がった本を見ながら、ひとつ実感していること、それはまだヤマダ一座を追いかける旅は終わっていないということである。本文の最後で「終わった」と書いてはいるが、まだこれで終わりには出来ないぞという新たな意欲が湧いてきている。
 第一ヤマダカメキチという、一座の座長、一番怪しげな男が、バクーをあとにして、グルジアで消えたままではないか。願わくば、あのときと同じようにこの本が出たことによって、ヤマダの眠っていた霊が蘇ってくれないだろうか。
 そんなことを夢想している。
 今回もいろいろな方たちから応援していただいた。
 榎本武揚の貴重な手紙を紹介していただいた中村善和先生、ウラジオストックでのヤマダサーカス公演観覧記録をご教示いただいた澤田和彦先生、そして海を渡ったサーカス芸人研究の第一人者である畏友三原文さん、モスクワ芸術座博物館・スタニスラフスキイ博物館の学芸員の皆さん、サンクトペテルブルグのサーカス博物館の学芸員・アンナ・ズズコワさん、ヤマダについて調べたときからずっとお世話になっている阿久根巌さん、ほんとうにありがとうございました。
 本書をこの研究テーマを与えてくれた、私のサーカスの先生、故スラフスキイ氏に捧げます。

                                       大島幹雄(2013年8月5日記)

 
 
  • URL:http://yaplog.jp/deracine/archive/3545
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