その頃彼は、闇の中を歩いていた。
暗くて寒く、道が見えなかったが、彼は前に進むしかなかった。
不安とあせりで苦しくて、時々やけになりそうだったが。
・・・なぜ生きていかなければならないのだ。
その意味も目的もわからずに、
あるいはそういったことを考えること自体を放棄して、
なぜ大人たちはそんなに平気な顔をして生きていられるのだ。
(生きる意味が欲しい。
人生を賭けられるものが欲しい。
それがなければ自分は生きていけない。)
この世で人間だけが醜い存在だという思いが、彼の心の奥底でうごめいていた。
彼が最も願っていることは、早くこの世から去ることだけだった。
(学生時代に語っていた希望や夢は何だったのだ。
あの頃の自分を、今は力のない目で見ている。
胸がいつも苦しくて、頭が締め付けられそうだ。)
この世のいのちを握り締めている最後の力を、
ふっと抜いてしまいそうな誘惑に何度も駆られた。
―――だめだ。
このままで終わらせたくない。
こんな自分のまま、一生を終わらせるわけにはいかない。
ぎりぎりのプライドが、闇の中に沈んでいこうとする彼の手をつかんだ。
・・・・「彼」とはもちろん、かつての私のことだ。
あの頃の思い出は、心の倉庫に古いフィルムのようにしまっている。
私は時々それを取り出して、スクリーンに映して一人で楽しんでいる。
・・・・あの日あなたは私を闇から救い出してくれた。
そして愛する家族とすてきな仲間が与えられた。
私の新しい人生は、あなたがいなければありえなかった。
先日、ずっと苦労をかけていた妻が、
その頃の思い出を何人かの人の前で話す機会があった。
その後にコーラスがあって、歌を聴きながら私は急に胸が熱くなった。
そして涙を抑えられなくなって、それからずっと泣きっぱなしだった。
こんなことは初めてだった。
私は最近泣くことが多くなった。
もしかしたら私の中で、何かが新しくなろうとしているのだろうか。
私はやっとこれまでの日々に、ありがとうと言えそうだ。