昨日の「イル・チェントロ」のイタリアワインセミナー、テーマは「熟成に木の香りを生かしたものと、そうでないもの」でした。もっと端的に言えば、オークの小樽「バリック」をつかったものと、そうでないものを比較して、明らかな違いを体感してみる、ということです。
まずは、白ワインでの飲み比べ。種類は、トスカーナの「ヴェルナッチャ・ディ・サンジミニャーノ」で、しかも、同じ「イル・パラジョーネ」という生産者が造ったものを比較しました。
最初に出て来たボトルは、冒頭の写真の、「イドラ・ヴェルナッチャ・ディ・サンジミニャーノ DOCG 2014」です。グラスにそそぐと、こんな風です。
わずかな緑を感じる反射を伴った、ごく薄い麦わら色で、非常にクリアな印象ですね。
香りを取ってみると、まず柑橘系の香りがふわりと来て、それから白いイメージの花の香り。そして、青リンゴのような香りが追いかけてきます。清々しいですね。
口に含むと、非常にドライですが、グレープフルーツのような、軽い苦みを伴ったかんきつ類の香味が感じられます。ゆっくりと舌の上で味わってから、のどに流し込む時には、青リンゴや洋ナシのような、フルーティーさが際立ちます。そして後味は、やはり白い花のような、フローラルな香味が長く続きます。とてもフレッシュで、美味しい!
これは、「バリック」を使っているでしょうか、いないのでしょうか、というクイズは、かなり簡単。実際、参加者の大半がわかりました。これだけシンプルかつストレートに、にヴェルナッチャブドウのキャラクターが前面に出ているのですから、「木」は使っていない、が正解です。ステンレスタンクと、瓶内熟成だけで出来たワインですね。
次は、こちら。同じ「イル・パラジョーネ」の、「オリ・ヴェルナッチャ・ディ・サンジミニャーノ DOCG リゼルヴァ 2013」です。
グラスに注ぐと、こんな風になります。
ブドウは、同じヴェルナッチャ100%ですが、「イドラ」にあった、わずかなグリーンの色合いは消えて、少し濃い麦わら色になっています。反射は、ほとんど金色。
香りは、ヴェルナッチャらしいグレープフルーツのような香りや、フローラルなところもありますが、ちょっとブランデーのような熟成香が前面に出てきています。
口に含むと、先ほどの「イドラ」よりも複雑で、角の取れたまるい感じがします。ミネラルっぽさも加わって、同じブドウを同じ蔵で醸した、という感じがしないくらい、別物になっています。そう、こちらは「木」を使ったもの。フランス産の、オークの「バリック」、すなわち、225リットル入りの小樽を使用して熟成を加えているのです。
こちらの「オリ」も、もちろんとても美味しいワインなのですけれど、個人的な好みから言うと、ステンレスタンク仕立ての「イドラ」の方を、どちらかというと選びたいですね。
それから、試飲は赤ワインに移りました。比較対象に選ばれたブドウは、バルベーラ種。生産者は、ピエモンテ州、モンフェラートのカネッリにある、「コッポ」です。
ちなみに、ランゲ、ロエロ、モンフェラート地域のブドウ畑の景観はユネスコ世界遺産に登録されていますが、今度、カネッリ村一帯にある、数百年前に作られていまだに現役バリバリで使われている、トンネル式のワインセラーが、世界遺産の候補として暫定リストに載ったそうです。
ワインの保存に最適な、温度16〜17℃、湿度80%前後が、年間を通して自然に保たれる構造になっているのだとか。これは余談ですが。
赤の最初に出て来たワインは、こちら。「コッポ」の、「ラッヴォカータ・バルベーラ・ダスティ DOCG 2014」です。
「ラッヴォカータ(アッヴォカータ)」というのは、イタリア語で女性弁護士さんのこと。このワインを造っているブドウの畑が、元はある女性の弁護士さんが所有していたものを、コッポ社が買い取ったものだということから、こういう名前が付けられたんだそうです。
グラスに注ぐと、こんな感じ。
少しザクロ色がかった、暗めの赤ですね。香りは、ブラックチェリーやラズベリーなどに似た、ちょっと甘い、フルーティーなものです。
口に含むと、フルーティーな香りから想像するよりはドライな第一印象を受けますが、口の中で空気と混ぜながらじっくり味わうと、酸味と渋みと果実味のバランスが非常によく取れたワインであることがわかります。スパイスやミネラルなどの複雑なニュアンスはあまりないですが、極めて上等なバルベーラブドウの香味をそのまま生かして、ストレートにワインに醸したという感じ。私的には、ストライクゾーンにバッチリ来ました。
これも、「木」を使ってはいないというのは、香りと味ですぐにわかりました。熟成は、ステンレスタンクの中でのみ行われたものだとのことです。
とくれば、やはり次に出て来るのは、「木」すなわち「樽香」を生かしたワインだろうな、と想像がつきます。出て来たワインはこちら。
同じ「コッポ」の手になる、同じ「バルベーラ種」100%のワイン、「カンプ・ドゥ・ルス・バルベーラ・ダスティ DOCG 2013」です。ちなみに、「カンプ」というのは、イタリア語のカンポ=「畑」のピエモンテ方言で、「ドゥ・ルス」は、ディ・ロッソ=「赤の」という言葉のピエモンテ方言です。
グラスに注ぐと、こうなります。
暗いガーネット色。エッジには、先ほどの「ラッヴォカータ」よりも、レンガ色が強く出ています。
香りを取ると、よく熟した黒や赤系のベリーのような、フルーティーな香りの中に、軽いスパイスのような香りと、バニラのような、明確な「樽香」が出ています。
口に含むと、やはり木樽による熟成を経たのがすぐにわかる、甘やかで洗練された味わいがありますが、ただ樽熟成をして味を強引に丸くした、というのとは違って、しっかりとした骨格があり、バルベーラブドウらしい香味も残されていて、とても美味しいワインでした。そう、個人的好みは、どちらかというと「非バリック派」の私ではありますが、バリックを使っているからと言って、全てが嫌い、というわけではないんです。
ファブリツィオの解説によると、この「カンプ・ドゥ・ルス」の場合、フレンチオークのバリックで12か月の熟成をしてはいるものの、樽の材料は、新しい木材が20%、残りの80%は、二度目か三度目の使用になる、古樽を使っているのだそうです。バルベーラらしい香味が隠れてしまっていないのは、その辺に秘密があるのでしょうね。
「木の香り」をワインに付けているかどうかは、こうして飲み比べてみれば、比較的簡単に見分けられます。ただ重要なのは、小樽による熟成を経ているかどうかそのものより、「上手に造られているかどうか」なのだな、ということがよく実感できた、今日のワイン会でした。