祈り U

June 07 [Thu], 2012, 20:43
別れの場面に出くわしてしまった。
彼女は、だらしなく服を着崩した男の人を睨んだ。
男の人はへらへらと笑って、じゃあとか何とかごにょごにょと言いながら去っていく。
その出て行ったところを見届け、たっぷり30秒は出口を睨んだままでいた。
そして、全身の力を抜くように大きくため息をついた。
店の端と端にいるというのに、ここまではぁと聞こえそうなため息だった。
通路が一直線でなければ、見えなかったはずなのに。
気になってチラチラ見ていると、彼女と目が合ってしまった。
ぱっと目をそらすも、彼女が近づいてくる。

「ひとりなのー?隣いいー?」
声をかけられた。
綺麗な色の髪、膝丈のスカート、細い体。
返事をする前に隣に座られてしまう。
「あたしねーふられちゃったのー」
騒がしい音楽に負けない大きな声で、話しかけてくる。
またか、今日は失恋によく行き会う日らしい。
「ふられたっていうかねー2股発覚でコッチからふってやったんだけどー」
ケラケラと笑いながら話す。
先ほどの大きなため息が頭をよぎった。
「カノジョはー?」
さらりと嘘をつける性質ならよかったのだが。
いない、と正直にアッサリ答えてしまった。
きゃあと盛り上がる。
「カッコイイのにもったいなーい」
どんどん身体の距離が近づいてくる。
元彼より全然かっこいい、スタイルもいい、と褒められる。
大した反応もしてないのに、よく喋り続けられるものだ。
少し身を引くと、少し距離をつめられる。
「いいじゃなーい、お互いひとりなんだし。楽しくいこーよ」
上目遣いに身体をさらにすり寄せてくる。
「誰かと付き合う気はないんだ」
そっと肩を押し戻して、手を放す。
彼女の目が縋るようになって、少し間が空く。
ちょっとだけうつむいて、長いまつげが何度か上下した。
そしてぱっと顔を上げる。
「付き合ってなんて言ってないしー」
ケラケラとまた笑う。
笑い終わって、小さくつぶやく。
「誰かと一緒にいたいだけだよ」

「誰か、でいいの」

いいの、と返ってきた。
「いくつ?」
気を取り直したように聞かれる。
「さぁ、忘れた」
そんなわけないじゃーんと背中を叩かれる。
本当に覚えてないんだけど、とは言わずに曖昧に笑う。
「何か昔好きだった人に似てるー初めての彼氏!」
またか、と思った。
誰もが誰かを重ねて自分を見ている。
それから元彼の二股相手のことを彼女は話した。
「私と同じタイプなの、やんなっちゃうでしょー」
似てようが似てまいが嫌だと思うが、そこは触れてはいけないだろう。
「でもまー、早めに分かって良かったよね?」
やっぱりケラケラと笑いながら言う。
目が潤んでいても、見ないふり。
慰める言葉なんて持ってないから。
「さ、そろそろ帰ろーか!聞いてくれた御礼におごっちゃう!」
別にいいよ、と言ってみたのだが、頑として譲らなかった。
少しでもスッキリしたんだろうか。
笑っている。

店を出て、彼女と向かい合う。
「ごちそうさま」
「ううん、こっちこそありがとー!」
元気良くぶんぶんと手をふる彼女。
小さく手をあげて、彼女とは反対方向へ。
しばらくして振り返ると、彼女の背中は人ごみに紛れて見つけられなかった。
まっすぐ帰っただろうか。
いっぱい食べたから、きっと明日は元気だと、思うことにした。
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