勝負の日

January 13 [Fri], 2012, 10:42


今日は、勝負の日だ。



髪型は少しだけ、サイドのみつあみとかしてみて。
仕事中は目立たない程度に、ピンで横に留める。
これを仕事終わってから、全体をアップにするとかわいくなるはず。
というか、私の技術ではその辺が限界。
器用な子が羨ましい。
制服がある会社なので、私服は多少はりきっても大丈夫なのが有難い。
制服なんて面倒だとずっと思っていたけど、今日だけは制服のある会社だったことに感謝する。
約束は余裕を持って午後19:30。
特に大きな仕事もないから、余裕で18時には終わるはず。
ふぅ、と息を吐く。
何だか気が張って、時々息を吐かないと緊張ばかり募ってもたない。
まだ午前中だというのに、今日は時間がなかなかたたないような、でも時間が近づくにつれて焦る。
ドタキャンされたりしたらどうしよう。
そんな人じゃない、と思うのにもう思考がマイナス方向へ行って仕方がない。
「今日なんかため息おおくないですか?」
隣の後輩ちゃんに指摘され、笑ってごまかす。
いい返しなんか浮かぶはずもなく、そんなことないよーと言うのが精一杯。
やっとお昼になって「ご飯行きましょう」と誘ってくれる後輩ちゃんと一緒にパスタを食べる。
そういえば夜もイタリアンじゃなかったっけ、と思ったのは半分以上食べてからだった。
緊張しすぎだから、自分。
今日は何度心中冷や汗をかけばよいものやら。
会社に戻って、午後からの仕事スタート。
流石に5分ごとに時計を見ているのは挙動不審だろうな、でも我慢できない。
あー、今日は仕事なくてよかった。
これで仕事があったら能率低すぎて遅刻するかもしれない。
いや、もしかしたら仕事に集中して時間があっという間だったかも。
今さらそんなこと考えてみても、どうしようもないんだけど。
やっと3時、もう早退したい、そして家に帰って布団かぶっていたい。
そんでもってそのまま寝て朝になればいい。
いや、約束すっぽかしてんじゃん。
何のためにこんな緊張しているんだよ。
頑張れ、自分。
うだうだ過ごさないために決心したんでしょ。
「ふぅー」と大きく息をつく。
隣の後輩ちゃんがコピーに立っていたおかげで突っ込まれずに済んだ。
斜め向かいの席の人がちらっとこっちを向いたのは気付かないフリでスルーだ。
だから、今日の私は余裕がないんだってば!
そんな思考を何度も繰り返して、やっと5時。
今日は予定通り定時で上がれたけど、落ち着かないので30分くらい机の上とか給湯室の整理をしてロッカールームに引き上げた。
着替えをして、化粧を直して。
鏡を見て、髪をアップにして、息を吐く。
告白とか、学生のとき以来なんですけど。
今さら小娘のようにドキドキしたって、誰も可愛がってなんかくれないんだから。
きもがられることはあるかもしれないけど、と自分で思ってへこむ。

18時、会社を出て待ち合わせ場所の近くで時間をつぶすことにした。
雑貨屋さんを見て、服を見て、本屋に行く。
どこでも何も買う予定はないのだけど。
うろうろと挙動不審だったかもしれないけど、何とか19時。
そろそろ早めについたってメールしても大丈夫だろうか。
待たせるのはイヤだし。
けどあまり待った感も出したくないし。
ドキドキしすぎて気持ち悪くなってきた。
近くのベンチに座り、バッグの中に入っていた小さなペットボトルのお茶を飲み、携帯を開いたところに「早いね」と声をかけられた。
顔を上げると、待ち合わせをした彼が目の前に。
なんで、ここ待ち合わせ場所じゃないんですけど。
「早く来たから、本屋に寄ろうと思ったんだけど、いたから声かけちゃった」
そうだった、この人本好きだって聞いていたのに。
不意打ちくらって、逃げ出したい。
ただでさえ逃げ出したかったのに。
ああもう、情けない。

「あの場の勢いだったとはいえ、律儀に誘ってくれなくても良かったのに」
彼はそんなことを言う。
仲間うちで集まる中に、友達の友達の友達で参加するようになったのが彼だ。
この間みんなで飲んだときに、3連休何も予定ない人が私と彼だけだと判明した。
というのも、お互い仕事がシフト制でカレンダーの連休はあまり関係ないからだけど。
「そこ2人で遊べば良いじゃん」ということになり、私はバカ正直に飲み会の次の日メールしたのだ。
『もしよければ、本当に遊びませんか?日曜の夜でもいかがでしょう』
『いいね!オレ映画みたい』
そう返事をもらい、浮かれて次の日服と靴を買って何度かメールのやり取りをして今日に至る。
まず彼が美味しいからとパスタ屋さんに連れて行ってくれ、人の少ない遅い時間で映画を見て、お酒を飲んだ。
映画館のイスってあんなに隣近かったっけ。
気遣い上手の彼のおかげで楽しく、映画鑑賞中以外のほとんどの時間を笑って過ごせたけど。
そろそろ言わなきゃ、と思うと手に汗をかき始めた。

「あの、ね」
ん?とこちらを見る彼はお酒のせいか少し距離が近い。
「今日、一緒に遊んでくれてありがとう。すごく楽しかった。・・・・・・あの、今日聞いて欲しいことがあって。
 突然何だって思うかもしれないけど、私あなたのこと前から気になってて、好きな、のね・・・・・・」
お酒に伸ばしかけた手を、テーブルの上に置いてこちらを見る彼。
「うん」
うんって何だー、告白されても自然体か、コラ。
「だから、良ければまたこうやって会えないかな?・・・・・・私のこと知って欲しいんだ」
付き合ってと言えるほど、近い距離だとは思えなかった。
でも何も言わなければ、またみんなの中のひとりになっちゃうと思った、から。
言うだけでも言おうと、決めてきたんだ。
少しずつでも、距離を縮めたい。
ダメならダメで、みんなの中のひとりとして仲良くなれたら嬉しい。

「・・・・・・ありがとう。だけどごめん、好きな子がいるんだ」

ああ、やっぱりいい人だった。
私の勝負の日は、こうして終わった。


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