梅咲けば(三十二) 風間→千鶴

October 29 [Tue], 2013, 20:56
風間現代転生話。
ノーマルED前提。


《設定》
風間 男女共学高校三年生。生徒会長。
千鶴 他校の女子高一年生。
新選組の面々 近藤道場に通う。



−−−梅咲けば(三十二)


鋭い音の余韻は、静けさに消えた。

二人の動きもともに止まっていた。
ただ肩だけがその呼吸に揺れている。


ざ、と庭の木々の葉擦れの音が大きく聞こえた。


確かに見ていたはずの千鶴には、彼らの動きのすべては見て取れなかった。
見えたと思ったのは、飛び込み合った二人。

その動きの結果として、風間の剣先が土方の小手に留まり、土方の剣先が風間の肩に留まっていた。


「勝負あり!」


審判役が赤い旗を上げ、風間の勝利を告げる。
響いた声と共に、観衆となった輪からどよめきが起こった。

詰まっていた息を吐くと、千鶴の肩から力が抜ける。
場の緊張に思った以上に呑まれていたようだ。

「へぇ……なかなか」

呟いたのは、千鶴の隣に立つ原田だった。
見上げれば、その口元には笑み。
好戦的とも取れるその表情に、千鶴はああと思った。

「昔」から、原田は千鶴には優しく気を配ってくれる人物だ。
兄貴分と呼ぶにふさわしく、面倒見の良い器がある。
だが喧嘩や争いごととなると人が変わる。
頭に血が昇りやすいのだと新八がぼやいているのは、「昔」も「今」も変わらない。

「なかなか、だね」

そう応じたのは総司。
彼もまた、「いけ好かない男」というだけだったろう風間への印象は、「闘い潰しがいのあるいけ好かない男」にランクアップしているのだろう。
その双眸は狙いをつけた猫のように爛々と輝いている。
今にも舌なめずりしそうなその表情は千鶴を苛めるときにも似て、千鶴はそっと目を逸らす。


土方は弱くない。

この道場での年長者として不足のない人間だ。
その土方を紙一重に破ったのだから、原田や総司が風間に興味を持つのも仕方のないことだろう。


だがこれはまずいことになったのではないか。
そういう千鶴の胸騒ぎを他所に、場外に出た風間と土方が面を取る。

二人の視線は見合ったまま。
睨み合うというには毒のない、どこか落ち着いた表情で。

そこにかけられたのは、やはり道場主のものだった。

「いやあ、いい試合だった! こんな立ち回りはなかなか見られないな!」

他意なく興奮した様子でそう言った近藤が、立ち上がって手を叩く。
つられたように、呆然としていた門下生たちも手を叩いて、場はしばらく試合を讃えて拍手が満ちた。

整い始めた息の下、風間と土方は道場主に視線を向けている。
打ち合いの最中の鬼気迫った棘がなくなった、清々しいと言ってもいい空気に、千鶴はなんとなくほっと安堵した。

そんな自分に、何を安堵したのかと千鶴は内心不思議に思う。
緊迫した場が揺らいだことは確かに一因ではあるけれど、それだけではないような気がした。


なぜだろう、と思いながら千鶴が視線を巡らせると、道場主から目を逸らした風間と目が合った。

剣呑としたものではない、波のない静かな双眸。


(ああ、「風間さん」のままだ)


その確信が心に浮かぶと同時に、千鶴は自分の疑問に合点がいった。

千鶴は緊張していたのだ。
土方と交わす剣が思惑を越えて透明に重なるとき、風間がどうなってしまうのかがわからなかったから。
剣を手にした風間が「昔の風間」に戻りはしないだろうか、人の土方と剣を交えて鬼の己を取り戻しはしないかと。

だが風間は人としての理性を保ったまま試合を終えた。
目を見ればもっとそれがわかって、千鶴は安堵したのだ。


鬼の風間は、きっと女鬼でもない自分など目にも入れないから。


現世での、初めて過ごす風間との穏やかな時間が千鶴には惜しかった。
風間からかけられた言葉も、向けられた笑みも。

それはどういうことなんだろう。

疑問ばかりが渦を巻く胸が苦しくて、千鶴はぎゅっと手を握った。


「千鶴ちゃん? どうしたの」


千鶴の様子に気がついた総司が声をかけてきたけれど、首を振った。
代わりに小さく「いい……試合でしたね」とだけ返す。

「そうだね。まるで真剣みたいだった」

素直に同意する総司の言葉に、千鶴ははっと息を呑む。
隣の原田が意外そうに口を挟んだ。

「へえ、えらく正直だな」

「僕だって素直に物を誉めるときはあるんだよ」

二人が軽口をたたいていると。


「さて、これだけの一戦の後なんだ。頃合いもいいし、ここらで飯にでもしようじゃないか」


道場主の提案に、年少の門下生たちは瞬時に気を緩めたようだった。
浮足立ったらしいさざめきが起こったが、物言いたげな年嵩の男たちの空気にやがて静まる。

その男たちの不満が伝わったのか、近藤は苦笑した。

「まだ動き足りない者もいるだろうが、皆少し頭を冷やしたほうがいい。こんな立会いの後だ、このまま試合を続ければ血でも見かねん」

道場主としての指示は揺らがないのだとわかって、諦めた門下生たちが立ち上がった。
昼食の支度に移るのだろう。


風間も面と竹刀を手に立ち上がる。
土方も立ち、二人は道場の奥へと消えていく。


振り返らない背中に声をかけたい衝動を、千鶴はそっと噛み締めていた。


【終】

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ながしん
…待ち続けたかいがありました。ありがとうございます。堪能いたしました! 知る者と知らざる者、二人の間に、言葉にできなくとも、しっかりとした絆が感じられて、嬉しかったです。
October 30 [Wed], 2013, 1:32
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