梅咲けば(二十七) 風間→千鶴

June 19 [Wed], 2013, 20:20
風間現代転生話。
ノーマルED前提。


《設定》
風間 男女共学高校三年生。生徒会長。
千鶴 他校の女子高一年生。
薫 千鶴の双子の兄。
新選組の面々 近藤道場に通う。



−−−梅咲けば(二十七)


晩春の休日。
近藤道場は、いつもの週末にも増してにぎやかだった。


「へーぇ、平助、ついに千鶴ちゃん誘うのに成功したのか! やるじゃねぇか」

弾んだ新八の声が上がったのは、試合前に仕度と称して雑談をしているときだった。
喜ぶ兄貴分に、刺し子の道着を着た平助がびしっと親指を立ててみせる。

「だろ!? やっぱ一人だと来にくかったみたいでさ、友だち連れてくるみたいだけど」

「そりゃこんな男所帯じゃあな…」

得意げな平助の隣で、呆れたようにため息を吐く原田の目がぐるりと道場を見渡した。

道場の広さは体育館の半分ほど。
そこに道着姿の男が二、三十人ばかり動いている。
普段の鍛錬の倍以上だ。
年齢は、平助のような学生から原田や新八のような社会人まで様々だが、如何せん暑苦しい。

ただでさえ、千鶴は女子校通いの高校生なのだ。
こんなむさくるしい空間とは無縁の彼女はそりゃあ尻込みするだろうと、原田は少々同情していた。

時折に差し入れを持ってきてくれる彼女が、それでも楽しげに道場での時間を過ごしているように見えるのが救いだが。


平助が近くに越してきたという雪村兄妹を初めてここに連れてきたのは、もうずいぶん前のことだ。
越したばかりでまだ友人もいないらしいから、と平助が張り切っていたのを原田は憶えている。

彼女の双子の兄は見るからにインドア派そうで、最初の一度っきりで来なくなった。

きっと千鶴もそうなるのだろうと原田は思った。
大人しげな彼女は人見知りをしていたのか、初めはまったく原田たちに近づこうとはしなかったから。
かと言って平助にひっついているのかというとそうでもない。
ただ戸惑ったように言葉少なで、道場の隅にちょこんと座って稽古を見ていた。


それでももしかして彼女がこの道場を気に入っているのではないかと原田が思ったのは、彼女が初めて差し入れにと大きな包みを持ってきたときだった。

中身は確か、当時中学生になったばかりの彼女が覚えたての焼き菓子だったはず。
それを昼食の後に皆で食べて、まあいつものようにやかましく過ごしたのだが。
千鶴も同じくいつものように、その輪の中に入るでもなく笑っていた。

その笑い顔が楽しそうで幸せそうで、ああ、もしかしたら自分たちは千鶴に思いのほか好かれているのかもしれないと思ったのだった。


そうなると不思議なのは千鶴がこの催しに参加したがらないことだった。

平助が何度も誘っていたが、その度に用事がある、邪魔になる、また今度、とはぐらかされてばかりだったらしい。
まあ普段の倍の人数が集まるこの日は慣れない人間ばかりで気が休まらないのかもしれないと、原田たちもある程度納得していたのだが。


「しっかし、千鶴ちゃんが連れてくる友達ってのはどんな子なんだろうな。なんか聞いてるのか、平助」

千鶴が道場に慣れてきたというのならいいことだと原田がひとり考えていると、平助と新八の会話は千鶴とやってくるという友人の話に移っていた。

「聞いてねぇけど、たぶん高校の子とかじゃねぇの? それ以外で千鶴の友達とか聞いたことねぇし」

その平助の言葉に、新八の目が輝いた。
すでに成人している男が舞い上がるにはいいキーワードだったようだ。

「おっ、そんじゃあ女子高生かー! テンション上がるな、おい!」

「新八っつぁんが言うと犯罪くさい……」

「なんだよ、俺が犯罪なら左之だって犯罪だろうが!」

同い年なんだからよ! と声を上げた新八の背後に、影が差す。


「あのさぁ、さっきから馬鹿なことばっかりしゃべってないでちょっとは手伝ってよ三人とも」


冷めきった声にそちらを向くと、呆れ顔の総司が立っていた。

「げ」

「ああ、悪い」

「本当にね。新八さんはさっさと外に床几出してよ。力仕事が売りなんでしょ」

「おう、よしきた!」

そう応えて、新八が庭のほうへ駆けていく。
大人数の休憩場所を確保するだけでも一苦労だ。

「まあ、売りっていうかそれしかできないっていうか、ね」

「ひでぇこと言うな、お前……」

「それで? 今日は千鶴ちゃんが来るんだって?」

新八の背を見送りながら呟いた総司に平助が戦いた顔をするが、それもきれいに無視して総司が言う。
どうやら噂はしっかり聴いていたらしい。

「おう! 友達と来るってさ。そろそろじゃねぇかな」

「ふうん……」

興味があるのかないのかわからない相槌をうって、総司の視線が大きく開いた戸に流れる。

「あんまりちょっかいかけるなよ、総司」

意味ありげなその動きに、原田は思わず声をかけた。
この男はどんな不穏なことを考えていても不思議ではない。

「かけないよ、面倒くさい」

「千鶴にも、だ」

千鶴の友人だけに、という意味ではないと重ねて言うと、総司は悪戯っぽく笑って原田を見た。

「それはどうかな」

「お前な……」

言っても無駄なんだろうとはわかっていたが、改めてそれを感じると何と返していいのかわからない。
原田が脱力すると、総司が鼻歌でも歌いそうな顔でまた戸のほうに目をやった。

と、総司の表情が変わる。
同時に道場の中にすぅっと静けさが降りた。

「どうしたんだよ、総司」

平助が言いながら無表情になった総司の視線の先を追って、今度はぱかりと口を開けた。

「なんだ……?」

原田もつられてそちらを見ると。


見知らぬ男が立っていた。

道着ではなくグレーの薄いニットを着た、およそ道場の関係者ではなさそうな男。
道場に集う人間たちの視線を一身に受けても臆する様子もない。
鋭い目つきは抜かりなく道場を見渡し、睥睨している。

何かを審判するようなその目は、この場では異質以外の何物でもなかった。

誰だ、と原田は口を開きかけた。
だが原田が誰何の声をあげる前に、ひょこりとその男の後ろからもう一人の人物が現れる。


「ち、千鶴……?」


見知ったその姿に、口を開けていた平助が驚きから立ち直れないままに呟く。
若草色の風呂敷包みを抱いた彼女は、間違いなく見知ったその名の人物だ。


「こ、こんにちは……」

静まり返った道場の男たちの視線を浴びながら、ぺこり、と千鶴が頭を下げた。


ふうん、と原田のそばで、無機質な声がする。


「友達、ね」

総司の猫のような目がきらめいた。


【終】
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ながしん
続きが、続きがきになりますううううう!!!!
June 23 [Sun], 2013, 14:11
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