蒼天航路〜三国志夜話〜(下)

2006年02月15日(水) 10時05分
 さて、そういった背景を受け、日本の三国志ものは吉川氏の内容をなぞったものか、史実考察を無視した奇抜なものかに別れてきた。その是非は問うまい。ただ、蒼天航路における直接原典に当てる姿勢は三国志のリニューアルに大きく貢献できた。もちろん、苦悩も深い。自身も、極力自分の物語に持っていこうとしながら、演義に絡めとられそうになる苦悩を巻末で述べる時もある。

 ただ、それによって既成概念を叩き潰しながらも、愛すべきキャラクター曹操が出来上がった。曹操はよく笑い怒る。詩を詠み、戦場を駆け、政務をこなした。料理人に混じって作業する場面は微笑を禁じえない。それは現世、ひいては人間そのものへの興味を全開にした姿だ。

 良くも悪くも人を押さえつける儒教への反発は、どこか劉邦を思わせる。40過ぎまで酒場で管を巻き、行き当たりばったりで天下を取った劉邦。人間への興味と、人間をそのまま受け入れる器の違いはあるにせよ、人間にスポットを当てる時、儒教はどうしてもその魅力を失う。劉邦は儒家の頭巾に小便を垂れて罵倒したという。

 それでも広大な国家を支える秩序を形成するのに、これほど便利なものはない。かくて儒教は既成勢力の牙城となる。ただ、これも善悪では計れない。ただ、彼らが一種の特権階級と化したことは事実である。彼らを根こそぎ揺るがす曹操は、天下を取っても皇位に付かなかった。家臣の反逆を恐れた等仮設は色々立つが、ここで息子曹否を後継者として継がせた時の場面を取り上げたい。

 死んだ魚のような空ろな目で、「もう、心に潤いは望めぬぞ」と告げる姿は曹操という人間をよくあらわしている。権力闘争は、人間の心を枯らす。特に、既成概念を叩きつぶそうとする改革者には、常に現実という厚い壁がつきまとう。酒と詩を愛し、人を愛した曹操は、そうすることで平時も絶え間ない戦場を戦いぬいた。それが、超人的でありながら、どこか愛すべき魅力を感じさせる所以ではないかと思う。

 蒼天航路は、新しい三国志の描き方を示した。三国志ものは巷に溢れるが、安直な模倣の域を超えていないものが大半だ。ぜひ、今後の全てのクリエイターに期待したい。現在、少し期待しているのは武論尊の覇〜LOAD〜である。これについてはまた後日触れるとしよう。
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