インシテミル

August 30 [Mon], 2010, 20:57
【作:米澤穂信 文藝春秋(文庫) 本体価格686円】
 そのアルバイト情報誌には、あり得ない条件でのモニター募集が掛けられていた。
 内容は、『ある人文科学的実験の被験者』になること。
 そうして、とある施設に一週間という期間、完全隔離されることとなった12人の男女。
 しかし、彼らに提示されたのは、より多くの報酬を得るために参加者同士で殺し合うというゲームで――

 探偵小説であり、推理小説であり、米澤氏には珍しい直球勝負となったミステリーは、たまらなく魅力的な試みとして描き出されている。
 あつらえられた施設。
 クローズドサークルに集った十二人の、一見互いが無関係に見える男女が放り込まれた、現実離れした空間での一連の用意されたシチュエーションに先ずニヤリとできる。
 そうして、『ミステリたらんとするモノ』を追求するあまりに垣間見える違和感ごと、綴られる世界に惹かれてやまない。
 この施設にはモチーフが存在し、出典があり、独自の趣向が凝らされている。
 どこか悠然とした謎の女性、そんな彼女と関わることになった青年、そして、当たり前すぎるほど当たり前で平凡な日常を生きているモノたちを取り巻く、理解と無理解とすれ違いにニヤリとできる。
 ヒトが死に、捜査し、推理し、思考力と指導力と人心把握能力が試される中で、不思議なほどリアリティのある登場人物たちの動きを追いかけていくのは楽しい。
 仕掛けられた《ゲーム性》にも着目したくなる。
 誰の視点に立つのか。
 そこになにを見るのか。
 現実感とは一体何なのか。
 謎解きは存在する。
 トリックも存在する。
 けれど、求めるべき『真実』は、実のところ『皮肉的』であるのかもしれない。
 ひとしきり物語世界にのめり込み、そうして、この物語を振り返ったとしたら、
 《空気の読めないミステリ読み》
 この一言にすべてが集約される気がした。
 感覚のズレ、認識のズレ、現実のズレ――これはおそらくもう、そう簡単に修正などできないだろうこともひそかに感じた。
 ミステリー体質を持ち、古今東西のミステリーをある程度読んでおり、いわゆるミステリーの世界観、空気感、定石とパターンが蓄えられていれば更に楽しめるだろう作品だった。

<読書記録⇒7月期に読んだ本(含漫画)の厚さ:計13.9cm>
  • URL:https://yaplog.jp/takatsuki/archive/622
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