ジェネラル・ルージュの凱旋 [上][下]

July 03 [Sat], 2010, 21:09
【作:海堂尊 宝島社(文庫) 本体価格476円】

 東城医大救急救命センター部長、速水晃一が特定の業者と癒着している。
 不定愁訴外来担当の田口のもとへ届けられた匿名の告発文、その真相を探るべく、田口公平は院長の命を受けて動く羽目となってしまった。
 人の命を守るために戦い続ける将軍(ジェネラル)の前に立ちはだかる《不良債権》という名の赤字勧告。
 秒刻みで変化していく過酷な現場から見えてきたものとは――

 《ナイチンゲールの沈黙》と対をなし、同時系列で語られるもうひとつの事件。
 しかし、救急救命センター、そして速水晃一を軸として展開するのは、殺人事件の捜査ではなく、救命医療の理想と現実と危機であり、《倫理》とは何か…であるのかもしれない。
 収賄疑惑が絡んでは来るけれど、提示される謎はソレが誰の手によって為されたものか、その裏に何があるのか、といったもののみである。
 ミステリーとしての謎解きの要素よりはむしろ、登場人物たちによる現場の空気と、医療エンターテイメントとしてのあり方が強い。
 TVドラマではかなり大胆な枠の組み替えが行われており、患者を通して『救命=究明』としての姿を描くが、原作となるこちらは舞台を救命に限局しない。
 また患者自身にスポットが当たるのではなく、東城医大という大学病院の体質を巻き込んでいく事態となる。
 読み手を引き寄せるのは、速水晃一のカリスマ。
 傲慢で傍若無人でワガママで、けれど誰よりも真摯に患者と向き合う姿勢に惹かれずにはいられない最強の将軍(ジェネラル)。
 彼の《能力》は色鮮やかで眩しい。
 田口・島津との関係もまた暗示的で、緊張感と清涼剤の両方のバランスをうまく調整してくれる。
 そして、院内政治の駆け引きと、ひそやかに見え隠れする謀が、彼らを取り巻く様が秀逸な演出を生んでいく。
 ナイチンゲールと合わせて読むことで完成するのだろう物語からは、《オレンジ新棟》が抱える特殊性、人間ドラマの切なさと温かさと怖さ、切り捨てられていく痛みへの咆哮、そうして、医療の理想と現実を大きな隔てる《弊害》の苦しさがあふれている。
 《病院》という枠組みは、あまりに重い枷をつけられている。
 けれど、物語は重苦しく終わるのではなく、痛みをただ訴えるのでもない。
 これは、エンターテイメント。
 ラストシーン、まさしく《凱旋》の名にふさわしい展開が、すべてを包括し、魅せてくれた。
  • URL:https://yaplog.jp/takatsuki/archive/620
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