人狼城の恐怖 第一部=ドイツ編

April 02 [Thu], 2009, 18:48
【作:二階堂黎人 講談社(文庫) 本体価格933円】

 ドイツとフランの国境にある渓谷、そこに佇むと言われている伝説の城《人狼城》――
 音楽学校のピアノ教師であるテオドール・レーゼは、とある製薬会社の懸賞に当たったとして、ドイツ国内旅行7日間の旅の招待状を受け取っていた。
 優雅な旅の末、テオドールを含む招待客たちは、双子の古城のうち《銀の狼城》へと案内される。
 しかし招かれた彼ら十人を待ち受けていたのは、二重密室での首切りや石弓による射殺といった、凄惨きわまる殺しの宴だった――

 全四部からなる長大な本格推理小説の、これは第一の事件編という位置づけになるだろう。
 冒頭に人狼やハーメルンの笛吹き男の伝説が配置され、物語そのものは優雅なライン川のクルーズから始まる。
 どことなく不吉な影がわずかにちらついてはいるが、古城の成り立ちやドイツの背景、招待客たちの位置関係などの説明から入り、中盤までは、大掛かりな舞台装置を作り上げていく過程を楽しむような感覚で進む。
 何かが起こるだろう気配はありながら、その実態がつかめないのだ。
 趣向を凝らした旅行を楽しむように、読み手もまた、半ばいつ事件が起こるのだろうかという疑問を抱きつつも、様々なうんちくなどに耳を傾けるのみだ。
 ところがひとたび惨劇の幕が上がってしまえば、あとはもうどうしようもない速度で血染めの舞台で彼らを翻弄する。
 中世を思わせる残忍極まりない『処刑』のような『死』が、徐々に忍び寄るのではなく、まさしく次々と襲い掛かってくるのだ。
 それまで紡いできた人間関係が崩れ、これまでの平穏だった時間が敗れ去り、肉体的にも精神的にも疲弊していく。
 思考する時間、調査する時間、落ち着く時間、安寧さを得られるありとあらゆる機会が次々と奪われ、圧倒的な《死》によって希望という希望がのきなみ引き剥がされていくのだ。
 物語はどこへ着地しようとしているのか、不安も煽られる。
 そんな惨劇の中心に繊細な青年であるテオドールの視点が置かれているのもいい。
 彼によって語られていく人物像は多少の偏りはありながらも鮮明であり、容易に関係図を思い浮かべられる。
 彼が何を考え、何を思い、何を感じているのか、それらを共有することで、追いつめられていく城での異常性が浮き彫りとなるのだ。
 これは、物語の終盤においては、非常に興味深い演出へと切り替わる。
 長い長い物語の第一章、それは確実に異様なホラーとしての体裁を持っている。

<読書記録⇒3月期に読んだ本(含漫画)の厚さ:12.1cm>
  • URL:https://yaplog.jp/takatsuki/archive/536
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