朱色の研究

January 12 [Sat], 2008, 23:42
【作:有栖川有栖 角川書店(文庫) 本体価格590円】

 臨床犯罪学者たる火村英生に持ち掛けられたのは、『2年前の未解決殺人事件』の解明だった。
 夕日をはじめとした毒々しいオレンジ色に恐怖を覚えるゼミの生徒からの依頼を受け、友人アリスを伴い、火村は関係者への事情聴取というカタチで調査を開始する。
 しかし、その矢先、彼はアリスの家で自分宛の不可解な電話を受け、支持された場所に辿り着くと、そこには何故か死体が転がっており――

 目の前で起きた事件はひとつ。
 後はすべて2年前か、それ以上の過去において既に起きてしまった出来事であり、リアルタイムで次々と死が訪れるといったことがない。
 探偵役が登場した時点で、ある意味全ての事件は終わっており、万全に整えられか状況で、『用意された問題』、もしくは『犯人からの挑戦状』が火村へと差し出されているといった風だ。
 それゆえか、時を遡るように過去の情報収集を行っていく過程は、危機感を煽るような緊張感というよりも、物語の中の矛盾点を探しだしていく静かな思索の赴きがある。
 しかも、ソレはけして退屈ではないのだ。
 様々に入り組んだ事件、情報、意思、違和感、その他に提示された謎の数々が、どのように繋がりを持ち、どのような意味を持ってくるのかを追いかけるのが事のほか面白い。
 その中では、罪と罰のあり方、死生観、犯罪の概念、そして相手を想うということについて、ひどく叙情的に綴られていく。
 様々な登場人物の内面に深く踏み込んでいき、それによって見えてくる〈景色〉を吟味する時間が与えれているかのようでもあった。
 もちろん、そこには理解できる心情と理解できない感性があり、賛同できる主義と首を傾げたくなる主張とがある。
 誰の何に共鳴し、誰の何に反発を覚えるのかは、そのまま読み手が自身の内面に触れる行為にもなるだろう。
 人の死を扱う『推理小説』という存在が持つ引力と、世界を覆い尽くすほど鮮烈な夕日の存在が非常に印象的な作品であり、そしてm出だしからどこか幻想性を秘めたこの物語は、読後に透明な『悲しみ』が余韻のように残る。
  • URL:https://yaplog.jp/takatsuki/archive/455
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>らぶほんさま
はじめまして、こんにちは。コメントとTB有難うございます〜
『朱色の研究』は作品の構造が面白くて、すごく引き込まれますよね。
一体謎がどんなカタチでまとまるのかと、ドキドキしながら読み進めてしまい、止まりませんでした。
有栖川作品に嵌られているということで、こそりとお邪魔してレビュー読ませて頂きましたv
ものすごくたくさん読まれていて、まだ一作も読んだことのない作家さんの名前も多く、参考にさせていただこうと思ってますv
January 25 [Fri], 2008, 3:06
こんにちは。
最近すっかり有栖川さんにハマってしまい、立て続けに読んでいます。
この作品は、読み進むにつれ引き込まれていき、事件の二重性が明かされたときには、驚きました。
本格派と呼ばれる作品、今年はもっと読んでみたいと思っています。
January 16 [Wed], 2008, 15:49
P R
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