夢にも思わない

November 11 [Sun], 2007, 20:30
【作:宮部みゆき 角川書店(文庫) 本体価格619円】

 片想いのクドウさんに偶然を装って会うために、『僕』こと緒方雅男は、九月末に行われる『白川庭園』の虫聞きの会にひとり出かけた。
 ところがそこで目撃したのは――『彼女の死体』だった。
 親友の島崎ともに、『僕』は彼女の為に真相解明に乗り出したのだが。

 中学一年生という『子供の視点』で綴られているため、どちらかといえば軽めのテイストなこの作品、『今夜は眠れない』の続編にあたるのだが。
 読後感はほのかに苦い。
 犯人当てがメインなのではなく、まして緻密に張り巡らされたトリックに取り組むワケでもないのだ。
 突如現れた名探偵が、どんでん返しをしてくることはない。
 警察は、警察の仕事をする。
 大人は大人の領分で、子供は子供の領分で、ときおり共同戦線を張りつつも、日常レベルで互いを侵すことはない。
 自分が置かれた境遇、自分がいまここにいる場所、手の中にある幸福と幸運をじっと眺めながら、考えさせられる瞬間もあるかもしれない。
 それほどに、身近な社会現象や社会問題を含みながら守られたリアルな距離感が、そのまま世界になる。
 そのうえで、謎は積み上げられていく。
 あくまでも日常の範囲内で、覗き見えてくる関係性の構築は秀逸だ。
 そして、普通の人の、悪意のないささやかな行為が、結果として罪となってしまった瞬間に至る。
 ここで描き出される『小さな罪』は、理解しがたいモノではけしてない。手が届くからこそ、知っているからこそ、自分の中にあるものと比較し、痛みに変わる。
 罪によって生まれた波紋が、どこまでもどこまでも広がっていくのに、怯えてしまいたくなる。
 中学生の領分でやりとりされる微笑ましいかけあいや、ささやかな恋の予感、その年頃だからこそ育まれていく友情のカタチを追いかけながらも、最後の最後で棘が刺さる。
 罪を許せなかった、潔癖な心。
 元通りにはけしてならない、事件のためにできてしまった微妙な心の距離が何よりも切なかった。
  • URL:https://yaplog.jp/takatsuki/archive/444
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