タイムスリップ森鴎外

January 28 [Sun], 2007, 23:59
【作:鯨統一郎 講談社(文庫) 本体価格695円】

 病に侵され、あともう一作を書き上げたいと願いながらも限界を感じていた森鴎外。
 ところが彼は夜道で何者かに殺されかけ、なぜか大正11年から現代の渋谷へとタイムスリップをしてしまった。
 さらには道玄坂で若者に袋叩きにされ、そこを助けてくれた女子高生・うららと友人たちの手を借りて、彼は自分の時代へ戻ろうとするのだが――

 明治の文豪から見た現代日本。
 その視点の面白さもさることながら、非常に軽快なテンポと込み軽さでぐんぐんと読み手を引き込んでいく手腕が素晴らしい。
 スピードに乗って、キレイに役割分担のなされたキャラクターたちの掛け合いを楽しめる。
 何より、あの気難しげな顔をした森鴎外が女子高生に『モリリン』と呼ばれ、しかも、自分の作品への評価を気にし、同じ時代を生きた作家たちと自分を比較してしまうのだ。
 可愛らしいとすら映すその姿と、このちょっとしたエピソードが、彼を身近な存在に変えてくれる。
 そして、興味深いのは『誰が森鴎外を殺そうとしたか』という、ミステリとしての展開方法だ。
 元の時代に戻る方法と並行し、文学史上に浮かび上がる疑問に突き当たり、それと絡めて行われる調査方法。
 現代から過去の謎を紐解くための手段は、なるほどと頷ける。
 もちろん、意外な犯人の名と、その動機にはニヤリとしてしまった。
 そして、タイムスリップものとしては付きものだろう、『いるはずのない時代にいる自分という存在』の危機感がまたいい緊張感を与えてくれる。
 タイムリミットとの戦い。
 不安と焦りと、森鴎外の見せる聡明さと、少女達が見せるほんわりとした優しさ。
 様々な要素を取り混ぜながらもバランスがよく、陰惨さがドロドロとしたおぞましさを出さずに、最後まで気持ちよく一気読みさせる引力を持った一作だ。
 なお、調査の過程で次々と登場する『近代文学』に興味をそそられてしまった。
 授業で教わるのではなく、自らの意思で、その作品が書かれた背景、作者の人となり、そういったモノを手繰り寄せた上で読めば、更に楽しめるだろうかという期待を持つのだ。
 とっつきにくい文学史への、コレはさりげなく差し出された案内状なのかもしれない。
  • URL:https://yaplog.jp/takatsuki/archive/374
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