黒い仏

September 06 [Tue], 2005, 21:18
【作:殊能将之 講談社(文庫) 本体価格552円】

 九世紀の天台僧にまつわる秘法探しの依頼が、名探偵・石動戯作の元に舞い込んで来た。
 同じ頃、福岡のとある場所にある八畳一間のアパートでは、全ての指紋が拭き取られた部屋でひとりの男が死んでいた。
 一見無関係とも取れるふたつの物語が、やがて奇妙な邂逅を果たす――

 事前に入手した情報により、様々な状況を想定しつつ、かなり構えて挑んだ作品である。
 宝探しに重点を置き、寺の成り立ちや仏像の在り処などを古書から探ろうとする石動の視点。
 そこではいくつかの不可解な事象がさりげなく横行し、謎めいた言動、密やかな囁きが、彼の前を掠めて行く。
 だが、彼はあくまでも蚊帳の外に置かれたままだ。
 面白いくらいに、彼は秘宝を探すことだけに熱中出来るし、もちろん、名探偵として事件に関わる瞬間が訪れるが来たとしてもその立場は変わらない。
 いっそ作りすぎるぐらい作られた助手の設定とも相まって、なんともこの徹底ぶりにくすぐったさのようなものを覚える。
 もうひとつのメインである殺人事件を追いかける刑事の視点では、ひたすらに謎ばかりが先行していた。
 そして、意味深な人物が浮かんでくるたび、読み手はその糸を辿り、散りばめられたヒントを元に別の人物へと推理を繋げていく。
 それを探る過程は幾分地道ではあるけれど、ちょっとした情報が石動とリンクする為に彼ひとりの視点とするよりは流れがスムーズとなって面白い。
 また、野球を知らない刑事が、ひたすら福岡ダイエーホークスの優勝で沸きたつ関係者たちや同僚に引き気味となる辺りは、妙なリアルさとシュールさで笑いが漏れた。
 全体を通して、前述した三作とはかなりカラーが違うように思う。
 おそらくは、『純然たる推理小説(ミステリー)として読んではいけない小説』のひとつに数えられてしかるべきだろう。
 いわゆる『論理的な解決』を求めてはいけない。
 常識的な整合性を求めてもいけない。
 だが、それを踏まえることさえ出来れば、小説として充分楽しめるのではないだろうか。
 奇抜な発想と、思いがけない仕掛け。
 個人的には、あり得ないと思いつつも、ふとした瞬間に分かる伏線の意味にニヤリとさせられた。
  • URL:https://yaplog.jp/takatsuki/archive/192
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