デモンドリーム・マンハッタンの悪夢ー371 愛の死を願う

June 28 [Fri], 2019, 10:07
「私の父親が誰であるかを見届ける。」
 ハーバートはそれを見届けて、だからどうなるんだ?と批判的な考えを持った。
 クリスの母と浮気していた男たちが妻の前で処刑されるのを見に行きたいらしいが、
 それで気が紛れるとは思えない。
 むしろその惨劇の主役は間違いなくクリス本人だからクリスが一番傷つく展開しか見えない。
 クリスには悪い癖があり、自分自身を嫌悪し痛めつけたがる。そうやって血反吐を吐き、
 苦しみもがくのはある種のマゾヒズムの極みと言った感がある。
 サディストのハーバートはもがくクリスを見て楽しめるだろうが、結局クリスのお守りで
 手を焼くのも予想出来て面倒だ。
 とはいえ自虐だけが今のクリスを支えているのかとハーバートは
 しょうもなくついつい皮肉な事を考えてもいた。
 空港のVIPラウンジから二人でクリスのプライベートジェットに乗り込み、来て数時間で
 また忙しく再び来た国アメリカのニューヨークに戻るのだから、クリスのジェットを
 操縦する機長たちは金持ちの坊ちゃんの我がままにさぞかし呆れているだろう。
 ジェットが離陸し、窓には小王国の景色が機体の上昇とともに遠のいていく。
 ここにやって来た時はレオンが小王国にいる恋人・万里子を思って狂おしい愛情で景色を見た。
 今は全てに裏切られ絶望したクリスが余りにも深い万里子への愛憎の情で呪いながら
 小王国を離れる機内から景色を見ている。窓に自分の顔が王国の景色に重なる。
 自分の顔にクリスは悪霊レオンの笑う顔を浮かべて憎んだ。
 しかしレオンは今どこにいるのかもうクリスには見えず、分からないが、
 少なくともクリスは宿敵のレオンの願いを打ち砕いてはやれた。
 あのままむざむざと敵の罠に落ちて自分の肉体を明け渡していたらと思うとゾッとする。
 それだけは唯一良かったことだ。
 そうして少年のような恋心でドキドキしながらやってきたレオンは、二度と万里子の
 小宮殿には入れないのだと考えれば、レオンにクリスが唯一一矢報いた気分だ。
 しかもそれが地獄から這い出た悪魔・レオンの人生の全てと引き換えていい望み
 だったのだから心底いい気味だとクリスは黒い喜びを胸に抱く。
 永遠に二度と会えない苦しみに悶え苦しむがいいレオン。
 クリスの口の端が僅かに吊り上がった。
 万里子と別れることでクリスはもしもの時、自分はレオンの侵略に負けて肉体を奪われた
 時の保険を掛けた。
 自分が捨てられたのだから、レオンにも万里子は渡さないのだ。
 皮肉にも、もしくは恐ろしいことだが、今セオドア・スワンの呪いのような嫉妬心が
 分かるクリスだ。
 何十年もの間、激しい憎悪を隠して復讐を果たした男の気持ちがわかるとは。
 しかもその最大の被害者はクリス、自分自身であるのに。
 余りに愛した時、その愛情の対象に裏切られた時、絶望は死と殺意を生み出すと
 クリスはセオドアに今酷く共感した。
 もはやこの世に何一つ執着するものは残っていない。
 何もかも万里子の愛を得る為に耐えてきたが、レオンに心を許した万里子に絶望した。
 レオンは死んだ。アキラ・キルユーも死んだ。
 マリコは愛の死を願うのだ。
 自分の為に崖下に飛ぶかどうか試し、飛び降りて死んだ者を愛するのだ。
 私を愛してくれマリコ。私もその為に死ぬのならやっと救われる。
 万里子への呪いの言葉を吐いたクリスだが、結局その脳を占めたのは
 万里子に選ばれたレオンを羨む心だ。自分も万里子に愛されたい…その願いがクリスの心を
 満たし、もはや生存への望みより死によって得られる甘美な蜜を欲している。 
 いかに死ぬべきかをクリスは最後の仕事と考えた。
 マリコに愛されたい…。
 …そして私を生み出した者を…許さない!

 その頃クリスに拒絶され、矢上百合子の力で結界の外にいきなり追いだされたレオンは
 小宮殿のかなり上空にまで飛ばされていた。
 結界から距離が開いて力の圧が緩んだと感じたレオンは自分の体を空中にピタリと止めて
 今いた小宮殿を目下に捕えて呻いた。
 その姿は元のレオン・サム・ソングの姿。
 美しい顔、表情はどこか甘えた雰囲気で服装は赤ジャケット花柄シャツに黒パンツ。
「くそ、なんだったんだあの女は!!」
 一瞬の出来事だった。レオンはその一瞬何が起きたかを思い返した。
 あの大きな光の中にうっすら見えた長いストレートの髪と体全体のシルエットでレオンを
 はじき出した相手が女であるというのは分かった。
 万里子の傍で万里子を守る女?レオンはそう考えてハッと謎が解けた。




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デモンドリーム・マンハッタンの悪夢ー372 地獄に吸い込まれるううう

June 30 [Sun], 2019, 10:00
「もしかしてマリコのママ?オー、ちゃんとママに挨拶すればよかった。」
 レオンはしまったと大げさに方手を挙げた。万里子のママはレオンにとっても大事な人。
 もしかして印象悪かったかなと、ちょっと困った。
「今度マリコのママに花を持って歌を歌ってご機嫌を取ろう。オオ、これじゃあまるで
 マリコママにプロポーズするみたいだ。」
 などと軽口を言うレオンだがそんな場合ではない。
「う、変だぞ?」
 レオンは腕や足が重くなり、全身が縛られ自由を失っているのを感じて周囲を見回し、
 背後を見上げた。
 クリスはレオンにとって生者の世界にいる為の乗り物だ。
 クリスという依り代を失えばレオンは隠れる場所を無くして無防備になってしまう。
 鎧を失って直で本来の居場所にシンクロしてしまう感じだ。
 百合子の力で小宮殿の結界からはじき出されたレオンは屋敷の外に出たとほぼ同時に今度は
 空を覆う黒く渦巻く雨雲に吸い寄せられていた。
 死んで肉体を失ったレオンはこちら側では肉体がなければ立体映像でこちら側の刺激は何も
 感じないはずだが、なのに黒い雲の渦から巻きこみながら吸い込む力を感じ、
 その吹きすさぶ風にレオンは意志力で抵抗していても、体が動き、金髪が乱れ、
 風の冷たさで震えるほどだ。
 これは現実の空に地獄の姿が重なっているのでリアルを感じているように錯覚している。
「う、ウウウ!暗黒フィールドの力がボクを地獄に戻す気だ!」
 黒い雲は地獄に通じる扉だ。どんどんと大きく膨れ上がる黒い雲はとぐろを巻き、
 竜のようにのたうつ。確かに荒れた天候のせいで強い風と流れる黒い雲が沸いて流れているが、
 レオンが見ている黒雲は生き物のように形を造り、蠢いている。
 竜巻など現実世界には起きていないのに、レオンは竜巻に捕えられ
 空中高くに巻き上げられていく。レオンは叫んだ。
「アアアアアア!!くっそおお!!戻りたくない、ボクは地獄になんか戻らないゾ!!」
 しかし竜巻、もしくは竜のような黒雲が突如半分に姿を割ってそれが回転する円形の
 黒い穴になった。
 どうやら地獄の扉が開き、もうすぐ他ならぬレオンの父・アマデウス・サム・ソングが
 レオンを連れ戻しに来る展開だ。
 一度戻ればもう二度と地上に出られない。クリスはレオンを強烈に憎悪し、遮断した。
 目的がバレてしまったレオンはクリスの逆鱗に触れ、弱々しかったクリスは恋敵への嫉妬で
 意志を強くしてしまった。今回地獄を脱走した数々の幸運はあり得ないのだ。
 空中で飛んで逃げようとあがくレオンだが、地獄の門、大きな穴の中に見える黒い雲に
 レオンは掃除機に吸い込まれるゴミのように吸い込まれていく。
「イヤダああああああああああああああ!」
 背後の回転する黒い穴を振り向きながらレオンは泣き叫んだ。
 そして平泳ぎで泳ぐような格好で手足をジタバタさせてみたが無駄だ。
 小宮殿の上空の雨雲と重なっている地獄の門は、全身がグルングルンと回るレオンの全身を
 無慈悲に吸い込んでいる。
「ワアアアアアアアアアア、止めてクレエエエエエエ!!」
 みっともなく喚くレオン。おまけにそのレオンを捕えようとする者が地獄の重力に逆らって
 這い出てきた。
 黒い渦を巻く雲は口を開けた地獄の門に、その門から最初は別の黒い渦に見えたものが
 巨人の腕のような形になり、五本の指を開いて木の葉のように翻弄されるレオンに伸びる。






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