桐生親子の事件録−31 降る星に抱かれて

November 01 [Sun], 2009, 12:02
 ダンスが始まり、栗毛の男と万里子は踊っていたが、
 他の男達がどうぞお嬢さんと手を差し出し万里子はさらわれていった。
「私が連れて来たのに!くそっ!」
 何人目かと踊ってすっかり疲れた万里子が休もうとした所にまた誰かが手を差し伸べたので
「ごめなさい。わたしあちらで休んできます。」
「大丈夫ですか?私がお連れします。」
 その声はとても優しく穏やかで万里子はホッとした気持ちになってその人物を見上げた。
 それは先ほど見た王子だった。
 凄く背が高く、身長2mくらいありそうなその身体を少し屈めて万里子に笑いかけていた。
 その眼に邪鬼はなくまるでイルカのように小さくて優しい目をしている。
「………。」
 万里子は何も言わず王子に支えられて古城の深い森に開かれた庭園に二人で歩いて行った。
 …静かな空間だった。
 天空には星が輝き、庭園の中の古代ローマの小神殿のような休憩する場所がある。
 万里子は黙って座り、じっと王子を見た。
「お名前は…?」
「万里子です。」
「マリコ……。」
 こんな暗い所に二人になったら危ないと普段の万里子は思うが、このパーティー会場には
 王子の妻がいるし注目の的なのだから危険な事はないと万里子は安心していた。
 王子は静かな男性だった。何も語らずじっと万里子の手をとって見つめた。
 王子のイルカの様な優しいまなざしは万里子を安心させた。
 王子の瞳に自分が映り、万里子の瞳に王子が映る。
 不思議な事に万里子もまたじっと王子を見つめ…二人の真上に輝く星が二人を包む。
 静かな森と冴えた夜の大気と銀河の中に浮遊するような感覚を二人は共に感じた…。 
 そうして二人は何も語らずそのまま何時間も互いを見つめあった。
 その間、栗毛男はイライラして待っていた。
 何度も庭園に足を踏み出し、その度にまた会場に戻るを繰り返した。
 王子が貴族の楽しみに美しい女性とほんの少し素敵な時間を持つのなんて古代からある事。
 妻のいる王子なんだからまず安全。万里子を奪うはずはないと思っている。
 しかし万里子が今王子に抱かれて白い胸を曝して喘いでいるのではないかという想像で
 栗毛男は頭がおかしくなりそうだった。
 しばらくしてそっと二人がやってきたときは栗毛男はすっかりその想像で怒り狂っていた。
「素敵な女性とゆっくり星を見て世界がこんなに美しいと知ったよ。」
 王子がそう言うのを睨みながら、
「ええそうですね。美しい星を引き立てる女性ですから。」
 そう言うと万里子の腕を強く引っ張って連れ帰った。
「どうしたの?なんだか怒ってるみたい?」
「ああ、そうだとも!まさか君がこんなにはしたない女性だったとは!」
 栗毛男は城から万里子を引っ張っていき車に押し込むとといきなり伸しかかった。
「きゃああああああ―――――――――――っ!!」
「なにがきゃあだ!生娘でもあるまいし!いい加減もったいぶるのはやめたらどうだ!
 王子とは寝たんだろう?王子は地位が高いから欲しくなったのか?汚らわしい買女め!」
 栗毛男は本性を露わにし万里子の敏感な部分を激しく指でかき混ぜ確かめると
 王子とは何もなかったようだと分かったが欲望は止まらなかった。
「やめてください…お願い…。」
 その様子はケダモノ晃や、他の男たちと全く同じ。万里子は泣きながら許しを請うた。
 その時、誰かが栗毛男を引きずり出した。なんとパーティーの主役の王子だ!
「え?なに?どうしてあなたが?」
 栗毛男は驚いた。そんなことあるはずないと。
 しかし王子は先程の二人の様子を心配し居てもたってもいられずここまで来てしまっていた。
 王子は栗毛男より身分が高いのだから当然栗毛男は王子に逆らえない。
「大丈夫ですか?マリコ…。」
「くすん。くすん。ひっく。」
 ぼろぼろに泣いている万里子を王子はそっと抱えて連れて行った。
「なんてこった!畜生ーっ!」
 栗毛男は最高の女を持っていかれて腹が立って高級車を何度もガンガンと蹴りあげた。
「大丈夫ですか?」
 背のひょろっと高い王子はしばらく歩くと庭園のベンチに万里子を腰かけさせた。
「はい、もう大丈夫です…。わたしはもう家に帰ります。」
「送らせましょう。」
「いいえ、私の家はイギリスですから…今晩中に列車か飛行機で帰ります。」
「チケットが取れないでしょう。慌てないで今日はホテルに泊って休んだ方がいい。」
「今のホテルはあの人が知っているから怖いです。」
「私が手配させます。」
 王子はすぐに使用人に全ての手はずを整わせ、万里子は全て王子に任せて待った。
 車で王子の手配したホテルに万里子は送られて、ベッドで一人泣いていた。
「くすん。くすん。」
 ずいぶん遅くに誰かがやってきた。先ほどの王子だ。
「大丈夫ですか?」
 万里子はドアを開けて王子に挨拶した。
「ご心配をおかけしました。」
 万里子の可愛い泣き顔を見て王子はきゅーんと胸が痛くなった。
「信じられないかもしれませんが…わたしはあなたを一目見て恋をしました。」
 万里子は王子の優しい声を聞きイルカの様な優しい目を見上げた。
 王子は万里子を守る様に抱き、万里子は抵抗することなくすっぽり包まれた。
 この人なんて暖かいのかしら…。
「私は妻がいます。妻は子供の頃から決められた相手でした。私達は互いに愛していません。
 妻には恋人がいます。でも私は愛せる女性がいませんでした。
 ずっと孤独のなか生きてきました。今日あなたを見て初めて愛する女性を見つけました。
 私は妻と離婚します。どうか私の妻になってください。」
 普通なら信じられるわけのない話だったが、
 不思議と万里子はこの優しい王子が嘘をついていないと直感した。
 万里子もまたこの王子に初めて会った瞬間、その胸で眠りたいような不思議な感覚があった。
「もしあなたが私を愛してくれるなら、奥様と離婚して下さい。
 わたしもまたあなたを待ちます。それがわたしのあなたへの愛の現れです。」
 万里子は王子の真心を見、自分の真心を捧げるに値するかを試していると王子は気付いた。
 だから王子は万里子の額にキスして、そっと帰って行った。
「マリコ…私の心は変わりません。どうか待っていてください。」
 万里子は悲しげな寂しそうな笑顔で王子と別れた。
 

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万里子は記憶を失っています。そして万里子は失った記憶の大切な人の面影を無意識にを王子に重ねています。     
しかし自分が誰を失ったかさえ覚えていません。万里子が失った大切な人の記憶の物語。↓

震える天使・罪の色は暗黒、救いの色は虹色                
現在書き直し連載中

桐生親子の事件録−32 初恋・光の子!

November 03 [Tue], 2009, 12:10
 更に時が経って旬は5歳になった。
 相変わらず孤独ではあったが毎日家で好きな事、興味のある事を勉強して充実していた。
 でも最近は運動不足と気晴らしの為に外を散歩するのを日課にしてる。
 今日もぶらぶら歩いて公園に行ってみた。
 うざそうなガキ供がきゃーきゃー喚きながら遊んでいる。
 ガキ供と言っても旬と同い年か年上だろうが、それをふんとケーベツの眼差しで睨む。
 まるで決して寂しい訳でも仲間になりたい訳でもないと自分に主張するように。
 そのうざいガキ供の側に母親達がいて砂場の小さい子を気遣っている。
 みんな平凡だが当たり前の母親だ…子供はママーと母親を呼んで
 その子供が転んだり悪さをしたら母親は飛んで行って抱いたり叱ったりしている。
 旬はぼんやりとそれを見ていた。
 旬の脳裏に母・万里子の冷たい横顔が見える…まともにおれを見たことない…一度もない。
 ――万里子は母親失格だ…側にいたらきっとおれを虐待し続けただろう。
 第一おれを見るのも嫌でとっとと出て行った……。
 初夏の優しい日差しの中の親子たちは旬にとっては夢のような世界だ。
 おとぎ話でしかない。
 旬の小さな胸がきゅーんと痛んだ。
 旬にだってちゃんと心があるのだ。
 その時強い風がぶわっと吹いて、白い麦わら帽子が飛んできたから旬はそれを拾った。
 子供用の小さな麦わら帽子には可愛いピンクの花が飾りで付いている。
 ふと旬が見ると小さな女の子がパタパタ向こうの方から走ってきた。
 その女の子を見た瞬間、旬の心にサーっと光がさした。
 女の子はまっすぐなやや茶色の長い髪をゆらしてこの上なく無垢な可愛い笑顔で
 旬に微笑んだ。
「あいあと…。」
 たぶんありがとうと言いたかったのだろう。
 可愛いピンクの短めのワンピースにパンツは丸出しの女の子は
 そのまま母親のところにタタタタと駆けって行き、
 母親は女の子を本当に愛しいというように抱きしめたのを旬は見た!
 その女の子はそのまま母親に手を引かれて去っていき
 旬はただただ声もなく女の子を呆然と見送った。
 旬の心に強烈な光を残して……。



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桐生親子の事件録−33 光を求める闇

November 05 [Thu], 2009, 15:59
 晃は弁当屋で買った大盛りカレーをガバガバ食べながら様子が変な旬に話しかけた。
「おい、どうした、旬?」
 旬はカレーを食べる途中でスプーンを持ったまま目を見開いて停止し続けている。
「旬!旬!…まったく。」
 晃は旬の顔の前で大きな手を振ったが旬は晃の手を見ていないで
 どこか焦点があわないままいくら話しかけても旬のぼんやりは治らないから
 晃は諦めてカレー弁当二つめのふたを開けて食べ始めた。
 旬はあのピンクのワンピの女の子を意識もぼーっとしたまま想っていた。
 女の子は全身からキラキラ光が溢れて旬にその光を浴びせてくれた。
 暗くて孤独な旬の心象世界にあんなにも光が投げ込まれたのは生まれて初めてなのだ。
 だから旬はあの光を浴びたくて、あの女の子に会いたくて、
 次の日は昨日の公園に朝から行ってじっと待っていた。
 でも光で出来たあの女の子は現れなかった。
 旬は次の日も次の日も次の日も次の日も同じ公園に行って待った。
 しかしあの女の子はいない。
 それでもいつか来るんじゃないかと旬は強い風が吹いても、雨が降っても、雪が降っても
 毎日毎日待ち続けた。
 あの光を見たい…あの子の笑顔が見たい…旬は願った。
 そうして毎日毎日公園に通いつめて季節が移ろって1年待って……
 もうあの子は来ないんだと旬は気がついた。
 たまたまここに遊びに来ていただけだったのかもしれない…。
 旬はそう気付いて小さな頭をがっくりとうな垂れてそのままずーっと暗くなるまで
 打ちひしがれ続けた。
 子供達はみんな母親に連れられて手をつないで帰って行ったが、
 誰も迎えに来る者のいない旬はその場に膝を抱えうずくまって暗闇のなか絶望を噛みしめた…。
 そしてあの光の子への旬の想いは痛みとともに封印された。
 すっかり目も虚ろで元気をなくした旬が晃が買ってきた弁当のかつ丼のかつを
 フォークで刺したまま凝視して大きく溜息をついて呟いた。
「人を愛するって辛いよなおやじ…。」
「はっ?」
 晃はかつを吹き出しそうになった。
「晃はこう胸が苦しくなるような恋心なんか抱いたことあるのか?
 なんかお前いかにも遊びの付き合いしかしてなさそうに見えるな。
 どーせ今付き合ってる女も頭の悪い顔だけ女だろ。」
 ミニチュアのチビ万里子が鼻に皺をよせて嫌〜な顔をしながら晃にそう言ってるのが見える。
「ガキが生意気なんだよ。俺なんてもっと…。」
 晃は未だに自分を苦しめる本物の万里子を想ったが、辛すぎるので頭を振って思考を止めた。
 しかし旬はそんな晃など目に入らず切ない思いを吐き続けた。
「見た目じゃないんだぜ、ほんとの愛はこう、胸に沁みるって言うか…。」
 晃はちょっとこの小生意気なクソガキの告白が面白くなって興味しんしんでツッこむ。
「なんだよお前まさか恋でもしてんのか?」
 晃はからかうような笑みを浮かべたが、旬は深刻に頷いた。
「……ああ、すでに1年越しだ。」
「1年って、まさか付き合ってんのか?」
「いや、……まるでそよ風のように俺の心を揺さぶって去っていった。」
 旬はその脳裏に光で出来た女の子の笑顔を甦らせてうっとり目を閉じた。
「ただの勘違いだろ。」
「てめえ、晃…!」
「ふん。」
 晃は旬が睨むのを無視しておかわりの親子丼のふたを開けてがばがば食べた。



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桐生親子の事件録−34

November 07 [Sat], 2009, 12:50
 万里子はイギリスにもどっていた。
 自殺した黒髪の金持ちがくれた屋敷は売り払い、別の屋敷に住んでいた。
 あの小王国の王子とは今でも電話で愛を語りあい王子の存在が今の万里子の心の支えだった。
「わたしのマリコ。愛しているよ。かならず離婚を成立させて君を迎えに行くよ。」
「ええ、あなた…待っていますわ。」
 いつもたいした会話はないが、こうして互いに愛し合っているんだと語り合う事が幸せだった。
 そもそも万里子は自覚はないが潔癖症。
 だからこうして遠くで愛を語るのは万里子にとって最も安全。
 万里子と王子は未だ何もない。唇へのキスすらない。
 真実に恋人を愛するならばそれでも王子の愛情は変わらないはずと万里子は信じた。
 いつものように万里子が一日のんびり過ごし日も暮れた頃だった。
 もう夜になって誰かがやってきた。
「マリコ。私です。」
 その声は驚いたことに小王国の王位継承者の王子!
 王子は万里子に会いたくてお忍びで来てしまったのだ。
「………。」
 王子は万里子をそっとその大きな身体に抱いた…
 暖かくて優しくて大きな身体にすっぽり包まれて万里子は深い安堵感を感じた。
 万里子は王子のイルカの様な優しい目を見た。
 王子は静かで優しく万里子を脅かすことがない…万里子は王子との関係を考えた。
 この人も変わってしまうのかしら?
 万里子は勇気を奮って王子を誘った…いっそ真実を早く知った方がいいかもしれない。
 王子は私の為にいま必死で古い王国のしきたりと闘っている。
 こんなに優しい人が…もし離婚が成立して、
 結婚したその時に王子との関係が悪くなったらあんまり可哀想……。
 晃はたくさんの恋人がいていくらでもやり直しができた人、でもこの人は違う。
 もしこの人と夫婦になれないなら早く知っておく方がいい……。
 万里子は豪華なベッドルームに王子を連れて行った。
 王子の手が万里子を抱いて部屋着を脱がすとき万里子は不安でドキドキした。
 王子が晃や他の男たちと同じ獣になるかもしれない恐怖と、
 そうなった時に心の支えを失う悲しみを思って……。
 万里子の白い胸が震えているので王子はそっとその胸を触った。
 とても優しい愛撫だった。
 いつ変身するか不安だった万里子を王子は優しくまるで子猫を抱くようにそっと抱いた。
 背が高い王子は大きな自分自身を静かにそっと万里子に入れて万里子はドキドキしたが
 最後まで乱暴な動きはなくゆっくり万里子をかきまぜた。
 万里子は安心して王子と一つになって、小さく喘いだ。
 行為がすんだあとも王子はとても優しくすっぽり万里子を包んだので万里子はやっと
 自分の帰れる場所がここにあるんだと感じて涙を流した。
「マリコ…なにが悲しいのですか?」
「いいえ、嬉しくて泣いているのです……。」
 王子はその一回限りで万里子を求めず、ひたすら手を握り合い見つめ合い続けた。
 大きな身体の王子にすっぽり包まれる万里子は小さな子供に戻れる…。 
 万里子が無意識で求めているのは自分を守ってくれる優しい理想の父親の代わり。
 王子の愛撫は万里子にはちょうどよかった。
 王子は性的に淡白な点で万里子と一致していた。
 素肌で互いを暖めあっている、その方が二人には合っていたのだ。
 それで万里子は決めた。
 王子を待ち続けることを…遂に万里子の真の恋人が現れたのだ。
 さようなら…晃。
 万里子は今度こそ本当に晃の笑顔を押しやった。


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桐生親子の事件録−35

November 08 [Sun], 2009, 19:12
 小学校の入学式当日、晃は車中で憂鬱だった。
「頼むから、誰も殺そうなんて思わないでくれよ旬。」
「ふっ、お前俺を幾つだと思ってるんだ。もうガキじゃない。殺人願望は卒業だよ。」
「いや信じられない、お前は前回もそう言った。」
 旬は晃の心配を鼻で笑った。
 そんな晃は入学式もそこそこに悪いねとか言いながら旬を残し仕事に行ってしまった。
 旬は周り中家族だらけの中で一人ぼっちで残された。
 子供達がそれぞれの教室に誘導されて旬も付いて行った。
 教室にはクラスメートになるうざいガキどもが戯れているが、
 その連中と比べると旬は背が低く一回り小さかった。
 晃の女のベビーシッターが旬にまともにミルクをあげなかった後遺症かもしれない。
 旬は自分が凄く小さくて他の連中より痩せている事で他の発育のいい奴らにイライラした。
 早速旬はクラスメートの発育のいいうざいガキどもをギラギラと睨み倒す。
 なんだか背の低いチビがねめつけているもんだからその連中も腹を立てる訳で…、
 当然いじめの対象になる。
 発育のいいガキどもが5、6人で群れだって旬の周りを囲んで小就く。
「なんだよ、何見てんだよチビ。」
 旬は更に凶悪な目で睨みつける。
「誰がチビだ。」
「ちびはちびだろ。チービチービ。」
 みんなで大合唱が始まって旬の怒りは瞬間的に頂点に沸騰した。
 一人ぼっちで人間の急所をどう攻撃するか
 何度も何度も頭の中でシュミレーションした事を実行するチャンス!
 ガキどもの喉に手刀を食らわし、心臓、みぞおち、男の急所、ひざ蹴りをきれいに次々決め
 そのうえガキどもが倒れた後も連中の間をクルクル回って激しく何度も何度も
 全員の顔だけを目掛けて蹴り続けたので、
 その辺のガキどもはあっという間に血みどろで転がって、旬は一人満足そうな笑顔で佇んだ。
「きゃーっ」
「ママー!」
 旬たちの喧嘩を遠巻きに見ていた他のクラスメート達が血を噴いたこのあまりに恐ろしい
 光景に泣き喚いて先生のところに逃げ出した。
 担任の教師が記念写真の撮影準備をしている最中に子供たちが駆け込んできて、
 行ってみると6人の子供達がうーんうーんと唸って倒れてあたりはもう血みどろだった。
 会社に到着してすぐ得意先と挨拶してる所に連絡が入って晃は慌てて小学校に舞い戻った。
 小学校では救急車と、なんと交番のお巡りさんまでやってくるという騒ぎになっていた。
 お巡りさんも困惑していた。
 何しろ加害者もまだ6歳、これはどう扱っていいのやら…。
 大人に囲まれて騒然とした中でも旬はヘーゼンとしていて全く反省している様子がない。
 晃はそんな旬に怒鳴った。
「旬!あれほど言ったじゃないか!」
 晃は被害者の親に何度も謝り、怪我をさせた子供の慰謝料と治療費の話し合いをして
 帰ってきた時はすっかりへとへとだった。
 そんな晃を尻目に旬はフツーにしていて幕の内弁当のシャケをくわえながら、
「いや、殺しは考えなかった。俺も大人になった。」
 と平然と笑顔で言うので晃はがっくりしてしまった。
「…そういう…もう……勘弁してくれよ…。」
 なんでこんなにわからないんだ…晃はうなだれた。
 小学校では同級生を入学初日に血祭りに上げたこの恐るべき1年生に
 教師も生徒も全員この危険人物に近寄らないよう注意した。
 教室では授業中教師を睨みつけ、休み時間ではウザいガキ供を睨みつける。
 あんまり毎日旬がギラギラ睨みつけるので気の弱い男の子や女の子が精神的負担で
 お腹を壊して体調不良を訴え保護者達は学校と、児童相談所と、
 ついでに警察の少年サポートセンターにまで相談に行った家族がいたものだから
 晃は何度もあちこちから呼び出しを喰らうハメになった。
「ああー、助けてくれー。」
 晃や大人が血相変えていても旬は相変わらず平然として笑顔さえ浮かべている。
 晃はこの旬のあまりにも有り余る攻撃性をどうしたらいいのか頭を抱えて悩んだ。
 それで晃は攻撃的感情をスポーツで発散させようと地元のサッカー教室に申し込んだ。
「旬、明日からサッカー教室に行け。」
「めんどくせえ。」
「だめだっ!お前はサッカーを通して周りとの協調性を学ぶんだ。」
「くだらない。」
 それでも大人になった旬は晃の顔を立てて一応行ってみた。
 くだらない準備運動をこなしてさっそく練習試合を始めた。
 小さな子供がボールをえいやーと蹴って非常に可愛く長閑な光景にもかかわらず
 旬はボールを一切見ずに敵のディフェンスに飛び蹴りをくらわせたうえに、
 そのままゴールキーパーに全身で思いっきりタックルを食らわせてボールではなく
 ゴールキーパーをゴールに叩きこんだ。
 ゴールキーパーはポストのヘリに頭を打ちつけて血を流し泡を吹いて倒れてしまった。
 またもや救急車がやってきて、連絡を受けた晃も青ざめて走ってきた。
 すでに問題児として有名になっていた旬について警察の少年課の担当にも報告された。
 再度治療費と慰謝料の話し合いでもうすっかり晃は心身ともに疲れ切ってボロボロになった。
 夜ビールを浴びるほど飲んで晃は旬に怒鳴りつけた。
「お前は俺をそんなに苦しめたいのか―――っ!」
「べつに。」
 そう何の感慨もなく笑って言う旬がまたミニチュアのチビ万里子に見えて
 晃が目を擦ると旬に戻ったその顔を見て、今更ながら万里子を恨んだ。
 産むなと言ったのに産んだうえに当の本人は生まれた悪魔を押しつけて
 とっとと別の人生を謳歌しているのだ。
 そう思った途端に万里子の光輝く姿が目に見えて晃の心が鉛のように重くなる…。
 万里子との出会いは晃の心を地獄に叩き落した。
 その万里子にそっくりな旬は万里子から贈られた呪いみたいだ…晃の心は暗く沈んだ。




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