桐生親子の事件録−17 ファイティングベビー

October 02 [Fri], 2009, 20:11
 それからさらに半年。
 旬は筋肉トレーニング?の成果をあげてもうちょこちょこしっかり歩けるようになっていた。
 しかし頭ではとっくのとうに話せるのに何故か言葉は遅れている。
 親父と付き合ってると思い込んでいるベビーシッターは今外に買い物に行っている。
 旬はそろそろこの女との決着を付けようと決めていた。
 こいつの激しい裏表ある態度にとっくのとうに堪忍袋の緒が切れていた。
 旬は今やっとオムツが取れた一歳半程のチビだ。
 ベビーベッドから足をゆっくり降ろしてよいしょっと言う感じで下に降りたがまだ
 チビなので足がちゃんと床に付かずでんぐり返しして頭を上げて座った形で着地した。
 その後よちよちと立って周りをクルクル見回して歩きまわる。
 旬はベビーシッターが帰ってくる前にこうして準備をしていた。
「うーん。」
 旬はキッチンシンク下収納部分の開き扉を開けて何かをゴソゴソと探している。
 目的の物が見つかると少し笑ってそれをよいしょっと小さな手で持ち上げた。
 小さな両手で一生懸命持っているのは使いかけの食用油だ。
 落としたら計画はおじゃんだから相当気を使って玄関にまで持っていった。
 旬の家の玄関は黒い御影石の磨きで硬くて滑りやすいのだがそのうえ油を撒き始めた。
 旬はすでにあの女の身長などを目分量で計算してちょうどいいものも用意しておいた。
 早くしないとあの馬鹿女が帰ってくるな…などと思いつつ。
 そして旬がこっそり押入れに隠しておいたものをちょこちょこ持ってくる。
 この辺だな……それをちょうどいい所に置いて準備が整った旬は自分の部屋のドアに隠れた。
 しばし待っているとガチャッと玄関のドアが開く音がする。
 予定より早く帰ってきたがなんとか細工は間に合った。
「は〜、あのガキの世話はめんどくさいな〜。」
 女は早速に旬への文句を言いながら靴をぞんざいに脱いで
 電気もつけないまま真っ暗な玄関を両手に買い置きの食料品の荷物を持ったまま上がった。
 すると足がぬるっと前のめりにすべった。
 まったく予期しない出来事にベビーシッターは両手に持った荷物ごと凄い勢いで
 前のめりに転倒し、ちょうど顔の部分にガツンと何か鈍器の様な物が当たったと感じた。
 しかし運よく、もしくは旬の計算間違いで額をかすめる程度で済んだ。
 その当たった物体を手に取って暗いなかじっと見てベビーシッターは血の気が引いた。
 それはいやに高いかかとのハイヒール。
 それが丁度転んだ自分の額のあたりに不自然に置いてあった。
 万里子が置いていったやたらに先が細いハイヒールだ。
 御丁寧にもそのかかと部分を上にしてあった。
 もしかしたら目にそのまま貫通して頭にまで刺さったかもしれない…。
 もしまともに当たっていたら死んでいたかもしれないと女は思って寒気がした。
 自分が出かける時玄関にはこんなもの無かった、どうしてこんな物が…?
 ペタペタと何かの音がして顔をあげるとあの悪魔の子が見えた。
 旬はベビーシッター殺人計画が失敗してとてもがっかりした。
「おしかった…。」
 一歳半の赤ん坊・桐生旬が初めてしゃべった言葉はそれだった。
 ベビーシッターは顔は額の怪我だけだったが、両膝の皿をしこたま打って骨折したようだ。
「助けてー、だれかー、痛い―。」
 泣いて女は助けを求めたがそこに旬がトコトコやって来て、すごく可愛い声で言った。
「残念だったな、親父が帰ってくるのは遅いぞ?それまで我慢するんだな。」
 可愛いまだ赤ちゃんの声でしゃべってサッサッと自分の部屋に行く悪魔の子を見て
 女は心底この赤ん坊に恐怖し顔は真っ青・目も大きく見開かれ冷汗を流した。
 ほんとに何か憑依している…女はとにかくここから逃げ出したかった。


ブログセンター

桐生親子の事件録−18 チビ万里子登場

October 04 [Sun], 2009, 11:18
今日も晃は午前様で酔っ払って帰ってきた。
 ドアを開けると家の中の電気がついてなく真っ暗で晃は不審な顔をした。
 しかしすぐ目下にベビーシッターが倒れているのに気付いてびっくりして大声を上げる。
「おいっ、どうしたっ?しっかりしろ!」
 ベビーシッターの女を抱き上げるとなぜかその服にべったり油が付いている。
 なんだこれ?晃は疑問を抱いたが気絶していた女が晃に気が付くと
「痛い―、痛い―、あいつが…。」
 と言って再び気絶したので晃は慌てて救急車を呼んで病院に運んでもらった。
 外から救急隊員がワタワタとやって来て女をタンカに乗せて大騒ぎの後静かになるまで
 それをじっと旬は隠れながら見ていた。
 旬はもう話せるのに黙って何も話さないで成り行きを観察しているようだ。
 女を病院に入院させて疲れ切って帰った晃はやっとのこと夜食の弁当にありついた。
「―たく、全治3か月か…。またベビーシッターを新しいのよこしてもらわないとな…。」
 晃がビールを飲みながらため息交じりに呟やくと
「晃、もういらねえよ。」
 と万里子そっくりの可愛い声が突然暗い部屋の方から聞こえた。
「万里子っ?」
 晃はまさか万里子が帰って来たのか?とびっくりして右手にビールを持ったまま
 椅子からガタっと立ちあがった。しかし声の正体は…。
「おれだよ。」
 暗い部屋から万里子のミニチュアがヨチヨチこちらに歩いてくる?と思ったら旬だった。
「う、嘘だろ……?…お前…、は、話せるのか?」
「ああ、さっきからね。」
 晃の顔色が悪い。その顔を見て旬は赤ん坊とは思えない程皮肉な顔で笑った。
「大丈夫。別になにも憑いてないよ。」
「………。」
 まじまじと晃は自分の足もとで自分の顔を見上げる旬の可愛い顔を見た。
「気味の悪いガキだと思ってたけど…。呆れたな…。」
「おやじ、もう俺はメシぐらい自分で食えるよ。
 離乳食を皿に入れて冷蔵庫に置いといてくれ。オマルも2個置いといてくれ。」
「…マジかよ…。」
 晃はなにしろ気持ち悪かった。
 普通の子供はパパとかママとか言ってる頃である。
 にもかかわらずこのクソガキはちゃんと文章をしゃべっているのだ。
「そんなに驚くなよ。お前と万里子の喧嘩もみてたし
 あの裏表のあるばかな女と付き合ってるのもわかってるよ。
 晃、おまえはっきり言って女の趣味悪いぞ…?」
 まだほんの一歳半の万里子のミニチュア赤ん坊にそんな説教を言われて晃は唸った。
「本当に、なんにも憑いてはいないんだな?」
 とにかく確認した。
「おまえ、いい大人のくせに馬鹿だよな。」
 旬は鼻で笑った。晃は顔も性格も万里子に似てきた旬にうんざりした。
「たく…なんの因果でこんな…。」
 旬は要件を言うだけ言ったら
「もうねるからおれをベビーベッドに連れてけ。」
 と晃に小さな両手を差し出して抱っこしろと促して見せた。
 晃は気味が悪そうにチビ万里子・旬を抱いてベビーベッドに置いて寝かしつけた。
 少して旬がすーすーと寝ついた。旬の寝顔は天使の様にもの凄く可愛い。
 晃は旬の顔に自分の顔をかなり近ずけて何故かその寝息を確認しつつ何か悪魔の唸り声とか
 変な声でも聞こえないかと耳をそばだてて動かず聞いていたが、旬は寝ているだけだった。
 しかしこれは悪魔がとり憑ついているかもしれないぞ……。
 晃はエクソシストに頼むべきか本気で悩み、その晩はさっそくネットでエクソシストの
 依頼方法を調べてみたが途中で飽きて止めた。
 次の日の朝、晃と旬が食堂のテーブルで朝食を食べている。
 旬は赤ちゃん用の手前にテーブル付きのイスにちょこんと座らされて
 離乳食の瓶詰めを入れ替えた小さな皿にスプーンを押し込んで一生懸命食べている。
 晃はコーヒーを飲みトーストを食べ食べ新聞を読みながら言った。
「今日の昼から新しいベビーシッターが来るからな。」
 可愛い口をとんがらせてミニチュアのチビ万里子は怒った。
「……!なんだよ。いらねえって言っただろう。」
 口の周りに離乳食をべったり付けた赤ん坊が生意気にも口答えをするから晃は呆れた。
「ばか、お前いくらなんでも一歳半だぞ。
 身長もまだ70cmもないようなチビガキをひとりで家に置いとけるか。
 この俺が近所に悪く言われる。
 お前が何と言おうと派遣会社に至急よこすように頼んだからな。
 それからな、お前、絶対しゃべるなよ。」
「なんでだよ。やっとせっかくしゃべれるようになったのに…。」
「昨日あいつはおまえが自分をはめたって言ってたぞ。お前がしゃべったって。
 だから俺はそんな事ない、何か幻覚を見たんだってごまかしておいた。
 ほんとにジョーダンじゃないぞ。お前、あいつの足元に油まいて転倒させたんだろう?
 おまけにすぐ側にあった万里子のハイヒールもお前が置いたんだろう?
 お前は恐ろしいガキだ。信じられない。ヘタしたらあいつを殺すとこだったんだぞ。」
「誰も信じないよ。」
 旬はスプーンを握って口に持っていこうと努力しつつ嘲笑った。
 どうもスプーンの中身が零れるのを見て晃がスプーンを取り上げて旬の口に持っていく。
「そりゃそうさ普通のガキならな。だけどお前が話せるのがばれるとそうもいかないぞ。
 だからしゃべるな。わかったな。これは俺達の生活がかかってるんだぞ。」
「………。」
 旬は食べさせてもらいモグモグしながら明らかに不満そうな顔で晃を睨み、晃も睨み返す。
 今日も桐生親子の間で火花が散っている。
 
 晃は新しく派遣されるベビーシッターが来るのを会社に行かず待っている。
「くそー、まだかー。」
 とボヤいた瞬間にオートロックの呼び出し音が部屋に響いて晃は喜んで出迎えた。
 玄関を開けると身長160cmくらいで体重は100kg超えてるおばさんが立っていて
 晃はこれじゃヤル相手が都合つかない時の処理要員にもならないなと少しがっかりした。
 しかしそんな本音は全く見せずに晃は旬を抱いて笑顔で挨拶した。
「よろしくお願いします。こいつが旬です。」
「はーい、可愛いわねー、旬くんて言うの―。」
 巨大な女は嘘っぽい笑顔を向けるので早速旬はこのデカイ女を睨み倒す。
 その目付を見て晃は、止めろ馬鹿っ、と目で制すが旬は睨むのを止めなかった。
「いやーほんと助かった、やっと会社に行けます。じゃあ、よろしくお願いします。
 今日は夜、得意先と会合があってたぶん真夜中になると思います。」
「はい、はい、ちゃんと聞いてますよ。ええ、割増料金が入るって聞いてますから。
 ええ、どうぞごゆっくりー。はい、いってらっしゃいお父さん。」
 デカいベビーシッターは現金主義だった。
 晃は玄関を出て行く時再度旬に絶対しゃべるなと口をパクパクしながら目配せをした。
 旬は晃とベビーシッターを交互に睨み続けた。
 晃を笑顔で見送って、ドアが閉まった途端にベビーシッターの態度が変わった。
「ふん。」
 

ブログセンター
ちび万里子
 
ハードルを上げ過ぎたため描きにくい旬と万里子
顔のイメージ固まってません。もっと可愛い顔のはずよ!

桐生親子の事件録−19 

October 07 [Wed], 2009, 13:01
「顔は可愛いけど、性格はもの凄く可愛げないって、聞いてた通りの餓鬼だわね。」
 こいつも裏表のある性悪か…旬はうんざりした。
 ベビーシッターはその太い腕で旬を横抱きにして連れて行く。
 なんだこいつ俺は荷物じゃねーぞ!旬は心の中で抗議した。
 部屋を見回して旬のベビーベッドを見つけるとデカいベビーシッターは旬の小さな身体を
 かなり上にぐーっと持ち上げてから凄い勢いでベッドにバ―――ンッと叩き落した。
「ぐぐぐ…。」
 旬は息ができないくらいに背中が痛んで呻いた。
「このデカ女こいつは相当マズイぞ。」
 ヤバいぞこいつは相当なワルだぞ…旬はこのデカ女がいると自分の命が危ないと直感した。
 晃は俺が死んでもどーせ喜ぶだけだろう…旬の小さな頭はクルクルと働きだした。
 旬は早速デカ女の抹殺計画を練り始めた。
 部屋の掃除を始めたデカ女の動作をじっと見ていると、ふとその旬の視線にデカ女が気ずき
「何、このガキ。気持ち悪いわねっ。」
 野太い声でデカ女が喚めいて、バーンと旬とデカ女の間の部屋のドアを怒りを込めて閉めた。
 旬は思った…デカ女は太ってるから動きが鈍いぞ…なんとかならないか…。
 掃除が終わるとデカ女はソファーに転がっていびきをかいて寝始めた。
 その下品で大きないびきを聞いて旬はさっそく行動を開始した。
 ベビーベッドから足を降ろしなんとかコロンと下に降りて部屋中またクルクル見回した。
 それから台所にいって考えた。
 そうだ!…台所でいい考えが浮かんだ。
 旬はキッチンのシンク下にある包丁を全て隠すことにした。
 まだ小さなガキにとって包丁は大きくて危険だが慎重に一本一本玄関の下駄箱の下に隠す。
「ふふふ…。」
 うまくいけば今日中に追い出せる…旬は可愛く笑い、
 自分の部屋で又じっとそのチャンスを待った。
 しばらくしてデカ女が自分の夕飯を作る為に起きあがった。
「ふああ〜〜〜〜。」
 いかにも面倒くさそうなダラダラした動きで台所に行き冷蔵庫を見た。
 何かあるもので適当に作ろうと同僚のベビーシッターが買い置いていた野菜や肉を出して
 さて調理しようと包丁を探したがどこにも見当たらない。
「あー? ないわねー。」
 仕方ないのでデカ女は椅子を持ってきてどこかに予備はないかと上の棚を探し始めた。
 旬はチャンス到来と喜びこっそり裏から台所にテクテク回った。
「あー、どこよー、たくー。」
 野太い声でデカ女が喚いている。
 椅子の上からではよく見えない奥を見るために椅子からシンクの上に乗った。
 それを見て旬の目が輝いた!
「よし!」
 と、旬はこっそり静かにデカ女の真下にある椅子に近寄り
 小さな身体の全身の力を込めて引いて後ろに動かした。
 そしてまた慌てて再び裏の部屋に続く廊下に回って隠れた。
 デカ女は予備の包丁も見当たらないとわかると買いに行かなきゃならないわね、と降りた。
 しかしたいして気にせず置いてあるはずの椅子に足を下ろすとあるはずのイスがなかった。
「ひっ?」
 足を踏み外したデカ女は空中に巨体の体重が重力に作用しデカ女は勢いよく落ち
 真後ろにある食器棚の角に頭をガーンと強く打ちつけた。
 ガシャガシャ――――――――――――ンッッ
 デカ女の巨大な身体が転がった勢いであちこちにあたり散らし激しい破壊音が響いた。
 その後はデカ女は大きな身体をぴくりとも動かすことができず転がったまま倒れた。
 頭からはとうとうと血が流れ出ている。
「よっしゃーっ!」
 旬は可愛い声で勝鬨を上げた。
 その頬は紅潮し自分の計画がすごくうまく行った事にかなり満足しているようである。
 旬は笑顔のまま頭から血を流すデカ女の死んだように動かない身体をちょいちょいと
 つついてからリビングに行ってソファーによじ登ってくーくーと笑顔を浮かべて寝んねした。
 それから何時間かして真夜中に晃は帰ってきた。
 玄関ドアを開けるとなんとまたもや真っ暗で、晃はギクッとした。
「――――?」
 もの凄ーく嫌〜な予感がする。ふと変な小さな声を晃の耳が捉えた。
「ふ〜〜〜ん、ふ〜〜〜ん。」
 なんだ?と思ってその声のする方に行くと台所に何かトドの様な物体が転がっている。
 そのトドが昼会ったベビーシッターだと気がついて晃は血の気がサーっと引いた。



ブログセンター

桐生親子の事件録−20

October 10 [Sat], 2009, 11:10
 恐る恐る部屋の電気をつけるとベビーシッターは頭から血をたくさん流している。
 まさか、また…?
「旬! お前、またやったのか――――っ?」
 晃は叫んでから、もう慌てて救急車を呼んだ。
 昨日今日と連続して救急車が2回も来るなんてこれじゃ俺の評判はどうなるんだ!
 ふと見ると暗い部屋の奥で小さな赤ん坊が立ってこちらを見ている。
 恐ろしい事にその顔には笑顔が浮いていて晃は背筋が寒くなった。
 万里子の奴とんでもないガキを押しつけやがって…晃は万里子を恨んだ。
 ほどなくして救急車のサイレンが鳴り響きまたまた数人の救急隊員がどやどやと
 部屋に入ってデカ女をタンカに乗せる。
 救急隊員は昨日と同じ部屋で再々こんな事故?が起きてとても不審そうな顔で晃を見た。
「おっ、俺さっき帰って来たばかりなんですっ!本当です!」
 別に何も言ってないのに晃が青ざめて言い訳するので更に不審な顔になる。
 廊下では同じ階のマンションの住民がまた何かあったのかと部屋を覗いていた。
 そんなてんやわんやの騒ぎで晃はもうすっかり疲弊しきってしまった。
 それでみんないなくなった途端に晃は旬に怒りを爆発させた。
 旬は部屋の隅っこでこの成り行きを笑いながら見ていたが晃がすごい勢いで来たので
 これはマズそうだ…と急いでよちよちと逃げた。
 もちろん大きな大人の晃はあっという間に旬を捕まえて首根っこを抑えて怒鳴り出した。
「旬―――――――――ーっ、この悪魔っ、なんて事してくれたんだーっ!
 何考えてんだっ!おまえあのおばさん、運良く死なずに助かったけどなっ、
 あれは俺が来るのがもう少し遅かったらホントに死んでたんだぞ!
 お前は…なんって恐ろしいガキなんだっ!
 ホントに信じられない!…2回も続けざまに殺人未遂を起こすなんてっ!」
 旬は晃の大きな顔に自分の小さな両手をついてむぎゅむぎゅ押しやって抵抗した。
「…だけど死ななかった。」
 旬はいかにも残念そうにぽつりと可愛く呟いた。
 ベビーシッター殺人計画第二弾も失敗してしまって旬はとてもがっかりしてしまったのだ。
「お前…本気か…?」
 晃は心底寒気がした。
「あのデカ女、おれを空中からベッドに叩き落したんだぞ。
 さきに殺らなきゃこっちが殺られる。」
 晃は真っ青な顔で絶句した。
「……それは、でも待て、お前は話せるんだから俺に言ってくれれば辞めさせるぞ。
 なんでいきなり殺しを考えるんだ。」
「おまえ、おれが言ったこと信じたか?」
 そう言われると自信がない。晃からすると旬の方がよほど信用できなかった。
 晃は抱いていた旬を降ろして代りに自分の頭を抱えた。
 …恐ろしいガキだ。とんでもないガキだ。
 万里子の奴、よくもこんなガキを押しつけやがって。
 万里子を探してなんとかこいつを押しつけられないか…晃は悩んだ。
「おい、晃、飯つくれ。おれ、腹が減った。」
 小さな赤ん坊が晃の膝あたりのズボンを引っ張っている。その姿は可愛い。
 晃は旬の顔を見ようとしないで憮然と言った。
「自分でやれ。」
 旬はずっとご飯を食べていないのでほんとに凄くお腹が減って一生懸命お願いした。
「瓶詰めを皿に盛ってくれるだけでいいよ。冷えてていいから! 」
 晃は旬のお腹の事になど全く考えが及ばず自分の怒りでいっぱいで大声で怒鳴った。
「お前なんかの面倒を誰が見るかっ。」
「晃、それでも親かっ!親には責任があるんだぞ!
 責任取れないなら作るんじゃねー。妊娠3カ月以内に中絶させろー!」
 点けっぱなしのテレビ情報は旬にマセタ考えをどんどん注入しているようだ。
 晃は自分の膝を引っ張って文句を言う赤ん坊にはっきり言ってやった。
「万里子にお前を堕ろせって言ったけどな、万里子がどうしても産むって言い張ったんだよ。
 なのにあいつは途中で気が代わっちまって…、
 俺はまだまだ要らなかったんだ!…ほんとにいい迷惑だよっ!
 ……だいたい俺達がおかしくなったのもお前ができてからだ……!
 …それまでは旨くいってたんだ……。」
 最後はぼそぼそと晃はずっと思い込んでいた万里子との不仲の原因をまで呟いた。
「そーかよ。」 
 旬はふんっと不機嫌な顔をした。
 晃は万里子の話をしてまたパッと顔をそむけ万里子と旬への怒りを燃やした。
 晃はバッとぞんざいに旬を抱き上げて顔を見ないように注意しつつベビーベッドに
 旬の身体を押し込んで後ろを一切見ないで部屋を出て行った。
「まて、メシは?くそーっ、最低の父親めーっ! 」
 晃は旬が出てこないように部屋のドアに椅子を置いて開かないようにまでした。
 それから晃は自分の部屋でずっと酒を飲んだ。
「ばかやろー、晃ー、腹減ったー、食わせろ〜。」
 旬はしばらく喚いていたが晃は頑として来ないと判断しそのうちあきらめて寝た。
 晃は殺人鬼の赤ん坊をどうしていいかわからず、自分を捨てた万里子を想い
 なんで俺ばっかりと言う自己憐憫に浸っていた。
 次の日、寝不足の疲れた顔で晃は旬の離乳食の瓶詰めを皿に入れたのを持って部屋に入った。
 部屋は暗くて静かだった。
「旬…悪かったな。…飯だぞ。」
「……………。」
 旬はぐっすり寝ているのか何も言わない。もう一度声をかけても反応がなかった。
「――――?」
 








生存をかけて闘う赤ちゃん・旬に愛のワンポチを・・・・・

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

桐生親子の事件録−21

October 11 [Sun], 2009, 19:37
 晃が不審に思って旬の顔をのぞくと顔がすごく赤く、額に手を当てるとすごい熱だ。
「やべえ。」 
 晃は困った。今日は仕事で重要な会議がある。
 おまけに病院に連れて行ったら昨日飯をやってないのが医者にバレるかもしれない。
 実は晃はこの小憎たらしいガキが死んでくれればいいと思い始めていた。
 晃は旬の顔をみながら少し迷ったが、
 急いで自分の部屋に行き服を着替えて旬を置いて仕事に行った。
 玄関の閉まる音が暗い部屋に響いて旬はぼんやりした目で暗闇を見た。
「………親父………。」
 旬は晃のその様子をずっと見ていた。
 自分を置いて遊びに行く万里子と何ら変わりない。……旬は孤独だった。
 旬は静かな暗い部屋の中でゆっくりと死を待った。

「おはようございます、社長。」
「あ、ああ…。」
 晃は後ろめたかった。
 自分が何をしたかを知られるんじゃないかという不安でいっぱいになった。
 仕事の書類を渡されても会議が始まっても意識はうわの空。
「社長?どうされましたか?」
 美人秘書が晃の様子がおかしいので何度も声をかけたがそれも聞こえなくなってきた。
 俺は旬を愛していない…生まれた時から異物のように感じた。
 晃はどうしても可愛いと思えない我が子を思った。
 旬を愛せないのは万里子も同じだが、万里子はとっくに旬を捨てて行った。
 晃は自分も孤児だったので孤独に打ち捨てられた者の痛みを思い返した。
 …旬はこのままなら死ぬ、あんな熱を出した赤ん坊を放っておいたら死んでしまう。
 これは旬への殺人と変わらないんだ……っ!
 晃は真っ青な顔で突然立ち上がった。
「すまん、予定を変えてくれ、頼むっ!」
 秘書や社員がびっくりしている間に晃はすごい勢いで会議室を飛び出て階段を駆け下りて
 駐車場にある車に飛び乗り、
 ブルブルブルッと慌てて車のエンジンをかけ制限速度を超えて走った。
 晃は信号で止まる度にもどかしかった。
 旬!死んでたらどうしよう、生きてろよ旬――っ!






ブログセンター
P R
プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:sibaenn
読者になる
https://yaplog.jp/sibaenn/index1_0.rdf
2009年10月
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
月別アーカイブ