「舞い落ちる薄紅の花弁と貴方の緋色の髪の毛と」7・子ヒノ弁・小説

October 23 [Sun], 2005, 16:22
鬼若は思わず息を飲んだ。
自分の周りで舞う、雪と見間違うほどの美しい花弁。
丘を包み込んでしまうのでは、と不安になるほどに、
先ほどの強風で散った薄紅の花弁がひらひらと舞っていて。
その様は黄泉の国の花畑よりも美しいのではと思えるほどで。
昨年の花吹雪よりもずっとずっと美しくて。

「すごい・・・」

思わず口から出てきた言葉はありきたりだったけれども、これ以外にはこの様を表す言葉が思い浮かばないほどで。
沢山の花弁が舞っている。
その花弁の主は大空に届いてしまうのではないかと思うほど大きかった。

何故今まで気付かなかったのだろう

こんなに存在感があって、美しい花を咲かすのに。

「ね、すごいでしょ!すごいでしょ!?」

鬼若が桜に見惚れていると、ヒノエが興奮気味に口を開いた。

そうだ、ヒノエが僕をここまで連れてきてくれたのだったっけ
僕のためを思って

そう思うと自分の水干の袖にしがみつきながら誇らしげにいう緋色の髪を持つこの少年への愛しさが溢れ出すようで。
視線を落として、その緋色の髪を撫でであげると、その子はとても気持ちよさそうに目を細めて。

「ええ、本当に・・・どうして今まで気付かなかったのか不思議です・・・ふふっ、このような場所を知っているなんて、ヒノエはすごいですね」
「えへへっ。よかった、おねえちゃん、さっきよりもずっとたのしそうなかおしてる!」

その得意げな笑顔が愛しくて。

「へへっ、ねえ、来年もいっしょにここに花見こようね?」
「ええ、もちろんですよ」
「二人でだよ?」
「わかってますよ。このような場所、兄上には勿体無いですからね」
「うん!ね、やくそくだよ!ひとつはここをだれにも教えないってことと、もうひとつは来年、また二人でここに来るってこと!」
「ええ」

差し出された小さな小指に自分の小指を絡めて、約束の契り。
指を離して、桜の方に目をやると美しい花吹雪があって。
隣には愛しいひとがいて。
これほどまでに幸せなことがあるだろうか?

鬼若は桜吹雪に見入るヒノエを見て、小さな声で言った。

「ヒノエ、今日は本当にありがとうございました」

その声は花弁に攫われて、誰の耳にも入ることは無い。
鬼若は桜の方に視線を移した。
相変わらず美しく花弁を散らしている。

来年も、同じようにいられるだろうか。ここで、このように、ヒノエの隣で

さらさらと鬼若の落ち葉色の髪とヒノエの緋色の髪と桜の枝が揺れる。
鬼若はヒノエの手に手を伸ばし、その手の平を包み込んだ。

この手だけは、絶対に離したくない



ある、春の日のこと。


・・・
長らくお付き合いいただきありがとうございます。
これでこの話は終わりです。明日か明後日には「紅葉舞」の感想を・・・!
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