サコミツ秋山

2006年12月16日(土) 13時52分





ズルッ、ベシャッ



その音と共に、三歩前を歩いていた筈の華奢な身体が、気付けば視界に映らなくなっていた。
不思議に思い顎を下に向ければ、其処には地面と仲良くなっている主の姿が。
そういえば昨夜軽く雨が降っていた、その所為で地面がぬかるんでいたのだろう。
…ってそんな事を冷静に考えている場合ではない、と直ぐに気付く。


「殿、大丈夫ですか?」


そう言いつつ近くへ寄れば、なんでもないと彼の人は一人で立ち上がった。
それは不器用な彼の人の照れ隠しだ、その事を知っているからこそ左近は軽く微笑む。
可愛いなぁ、なんて思いつつもそれは心の内に。言えば彼の人は怒り出すだろう、それはそれでまた可愛いのだが。

顔に泥が付いてしまった、と彼の人は袖で汚れを拭おうとする。
このぬかるみに見事な程に転ければ、顔や服に泥がつくのは当たり前で。
まるで農作業でもした後の様に、或いは幼児が夕方まで遊んで帰ってきたかの様に泥だらけだ。



「殿、お召し物が汚れてしまいますぞ」



そういって三成の前に回りこみ、その腕を捉えて取り敢えず袖を汚すのを阻止する。
もう片方の手で己の懐から手拭いを取り出し、三成の顔を拭ってやる。
白い手拭いが土に汚れ、土に汚れていた顔が白を取り戻し。心成しかその顔は少し朱に染まっていた。
少し乾いてしまった泥は取れないので、何処かで水を見つけたらまた拭きますね。
そう言ったのを三成はああ、と軽く相槌を打っただけで然程気にしてはいないみたいだった。
寧ろこの年になって転けたという事実の方が、彼の人の中では重要なのかもしれない。なれば顔の汚れなんて気にもなる訳ない。



「ぬかるんでいたのですから仕方が無いですよ」



言いながらパンパン、と服についた泥を落とす。明るい色では無かったのが幸いして、然程汚れは目立たない。



「煩い」



彼の人はそっぽを向きながらぶっきらぼうにそう答えた、よくよく見ればやはり顔は赤い。
やっぱり照れ隠しなんだろうな、とその反応に思わずくつくつと笑みが零れる。
粗方泥も落ち、まるで朱に染まった顔を隠すかのように三成は先に前へと歩き出した。
手拭いを適当に畳み、懐に戻しながら少し早足で左近は彼の人の後を追いかけた。



何処か遠い所で、鳥の鳴き声が聞えたような気がした。










秋山









辺り一面を朱や黄に染まった木々が埋め尽くし、地面には葉っぱの絨毯が出来上がっていた。
サクッ、サクッとその絨毯を踏み進めてゆけば、更に秋の色は濃くなる。


今年もこの佐和山は例外無く訪れた季節を迎え、そしてそれを満面に散らしていた。
そう、季節は秋。
山の木々達はその葉を素晴らしい色合いに変化させ、沢山の実をつける。動物達は次の季節に備え、各々の準備を始める。

今日はまさに秋晴れと言うべき天気であり、散歩をするには絶好の日和となった。


「いーお天気ですねー」


そう言いながら伸びをすると、彼の人はそうだなと答えた。
さらりと少し冷たい風が舞って、秋の薫りが間に入り込んできた。



二人は今、そんな秋色真っ只中の佐和山の中に居た。







何故彼らが此処、佐和山の紅葉の真っ只中にいるのか。
発端は今から四日前に遡る、何てことも無いある日の日常で、彼が発した言葉から。


「とーのー、山に行きません?」


職務に追われ、今現在も机に向かっていた三成は、取り敢えず眉間に皺を寄せた。
いきなり人の部屋に入ってきて、しかも関口一番に吐いて出た発言が先の物。
唯でさえ激務で忙しい故に苛立ってるのに、少し間延びしたその台詞が癪に障り、更に苛立ち五割り増し。
先よりも眉間の皺が深くなった、漂う雰囲気もなにやらピリピリしているような気がする。


「左近、お前俺が忙しいという事が見て解らないのか?山に行く暇なんぞ存在するわけが無かろう」


まさに苛立ちは最高潮、心成しか雰囲気が痛い、気のせいなんかじゃなくて確実に痛い。
その所為か彼の人の口から出てくる言葉はかなり毒を含んでいる、だが左近はそんなこと全く気にしない。
不機嫌な主なんていつもの事、それが少し悪化したぐらいで筆頭家老は焦りなどしない。
と言うよりもこんな事は日常茶飯事なので慣れている、といった方が正しいのだろう。寧ろ機嫌のいい主なんて滅多に見たことない。


「いいじゃないですか、行きましょうよ山。今ならきっと紅葉が綺麗ですよー」
「だから言っただろう、俺は忙しいのだ!暇など無い!」


ダンッ、と机を両手で強く叩く。その振動が勿論机の上に乗っていた物にも伝わる訳で。
幸い筆は下に落ちなかったものの、彼の人が書いていた書状には無残にも墨が飛び散ってしまっている。
これでは使い物にならない、なればぐしゃっと握り潰し明らかに左近を狙って投げ飛ばす。
左近は別段それを避けようとはせず、でかい図体にぶつかった紙屑は床に無造作に転がっていった。
痛いですよー、と痛くもましてや痒くも無い筈なのにそう呟くと主はふんっと鼻をならした。


「とーのーそんなに怒らなくたっていいじゃないですか。ほら、今ならきっと色々な木の実とかいっぱいありますよー」


その言葉にピクッ、と僅かに三成が反応したのを左近が見逃す筈無く。もう何押しかと少しばかり勝利を確信する。


「そーですね、栗なんか今が時期ですし」


甘いものが好きな三成は当然栗だって好物なわけで、更に反応する主を見つつ少しく口の端が吊り上がるのを感じた。


「あとは…あぁ、そうだ。くわの実とかもありますねぇ」


他にもこんなのがある、と更に強請りをかけて主の興味をこちらに向けさせる。


(さて、そろそろかな)


いよいよ左近の企てが公に出る時、ぎゅっと三成を背中から強い力で抱き締めつつ耳元に直接甘く囁いた。
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腐♀ですので苦手な方は避けた方が賢明かと。
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