2006年02月16日(木) 8時56分
 白い箱、赤と黒の背文字、カバーは黒、カバー背文字は白と金、そして本体は黄色。新潮社版『カミュ全集』の装丁です。当時、『異邦人』『シーシュポスの神話』『ペスト』『転落・追放と王国』など、アルベール・カミュの主要な作品は、銀色のカバーの新潮文庫から出ていました。私はそれ以外にも、『反抗的人間』『正義の人々』、さらには時局を扱った論文なども読みたいと思い、一冊、また一冊と、お金が入るごとに、全集を買い集めていました。

 丸善、アイエ書店、金港堂、そして大学生協……。けやき並木の仙台の街を歩き回り、今ではちょっと考えられないことですが、目にとまるたびに買い揃えていったのです。本を注文する仕方を知らなかったのかも知れません。なにしろ白い箱なので、既に汚れている場合もあり、消しゴムできれいにして書棚に並べたりもしました。しばらくの間、『カミュ全集』は、私が全巻揃いで持っている唯一の全集でした。大学の2、3年生の頃だったと思います。それから、『直観』や『アメリカ・南米紀行』など、単行本で出版される分も買い足しました。

 私は卒業論文で有島武郎を扱ったのですが、実は、日本文学でカミュにいちばん似ているかと思われた作家に決めたのです。フランス語を大学で教わって、最初に挑戦したのは『異邦人』でした。そもそも、フランス語を選んだのさえ、高校時代に『異邦人』を読んでいたからかも知れません。学生カードにも、「読書」の欄にカミュと書いた記憶があります。幸か不幸か、外国語が得意ではなかったので、仏文にも哲学にも行かず、国文の道を歩んだのです。それも、成績不良のため、危ないところでした。国文は人気学科でしたから。

 カミュから何を学んだのか……。これは、一言では言えません。このブログの限界を超えています。それほどまでに、それは私にとって大事な、本質的なものです。ただ、有名で人目を引く『異邦人』よりも、一見地味な、『転落』や『追放と王国』こそ、長く、強く残響を響かせる重いテーマを宿していると思います。カミュについては、その後も資料が出され、研究も進んでいます。私は自分の専門にかまけて、いつの頃からかフォローすることをやめました。そのことを残念に思うとともに、にもかかわらず、今でもやはり、私は私のカミュを追い続けている、と感じてもいます。
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『昭和文学研究』第65号(2012.9)という雑誌で、「〈不条理〉に対峙する文学」という特集が組まれています。大岡昇平・石川淳・吉増剛造らが取り上げられています。よく言われたのは椎名麟三ですね。『永遠なる序章』などを、私もよく読みました。
2013年02月04日(月) 21時15分
rukib@126.com
先生はこんなにやさしく答えてくださるとは思いませんでした。本当にありがとうございました!
先生はいまカミュについての研究を行っていますか。日本の作家の中ではカミュに似ているのは有島武郎以外にはいますか。私は興味をもっていますが......
2013年02月04日(月) 20時54分
カミュはシーシュポスの神話から始めているくらいですから、不条理な世界と人間との対峙は永遠に変わらないでしょう。私は『反抗的人間』をお勧めします。
2013年01月20日(日) 17時33分
rukib@126.com
今の時代もそうかもしれませんね。この不条理の世界に生きている私たちはどういう姿勢でこの不条理性に向き合えばいいのですか。最近カミュの『最初の人間』を読んでいます。この本には温もりが溢れています。彼のほかの作品と違い、本当のカミュを目の前に見せました。
2013年01月12日(土) 22時22分
ほんとうにそうですね。カミュの生きていた時代と、技術はかなり変わりましたが、世界の不条理性にはほとんど変わりがないとも言えます。私にとっても、その理念は今も心の糧となっています。
2013年01月10日(木) 17時39分
rukib@126.com
カミュの作品に接触できるのは一生の幸だと思います。彼は単なる実存主義哲学家ではなく、本当の文学家です。不条理の世界に道を見つけ、絶望な状態に反抗者になるという理念は私にとって大切な精神動力です。
2013年01月10日(木) 17時34分
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