小説(ジャンル)2

2006年06月06日(火) 8時20分
 芸術としての文芸という観点から小説をジャンル論的に定義しようとする際に、第一に問題となるのは、まさに、小説というのは芸術なのだろうか?という疑問です。小説が広く娯楽として流通した時代に、哲学者・美学者たちは、小説に正面から向き合おうとしなかったのです。まあ芸術であろうとなかろうとそれじたいはどうでもよいこととも言えますが、このポイントは、小説のジャンル論が、他のジャンルと違って実体論的な定義をすり抜ける理由の一つとなります。

 ヘーゲルの『美学』は、芸術である文芸の3基本ジャンルとして、抒情・叙事・劇を挙げ、各々、主観・客観・主客合一の弁証法的な図式によって説明しています。しかし、当時既に一般大衆においては広く読まれていたはずの小説については、たかだか2、3行の記述しかありません。それも、小説は叙事に基礎を置きながらも散文を志向する、というような逸脱的な書き方で、散文とは非芸術のことです。どうもヘーゲルは、小説をまともに考察したとは思えませんが、それはカントも同様です。

 しかし、ヘーゲルのこの逸脱的な定義を正面から受けとめて、ユニークな小説論を展開したのが、スガ秀実氏です(スガは糸へんに圭)。『小説的強度』は、小説ジャンル論としては希有な達成と言うべき好著です。スガ氏は、柄谷行人・蓮實重彦らの小説論・物語論や、先に見たバフチンの小説ジャンル論などをも統合して、小説を「雑」の強度、逸脱の強度それじたいを糧とするジャンルとして強力に解明しました。当時の、一連の〈代行=表象〉の論議を集約したものです。

 ただ、「雑」の強度は認めるとして、では、小説は芸術なのか?という問い掛けは、依然として残るとも言えます。私の仮の答は、それは、小説も含めるように、芸術の定義の方を変えればよいだろう、というものです。人が電車で読み、寝っ転がって読み、青空文庫からダウンロードして読み、TVや映画やアニメに原作を提供し、形を変えながらも人の話題となり続けているような娯楽を芸術と見なさないならば、芸術研究者は骨董品の鑑定団となる以外にないでしょう。
 
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