4. 友人の恋@

November 30 [Sun], 2008, 13:30

彼がはにかんだ理由は、僕にとっては分かりきっていたし、詳細を聞くなんて

やっぱりはっきり言わせてもらえば避けたかった。

それでも聞き出したのは、ただ、暇だったからだろうか。

樋高は待ってましたとばかりに饒舌に語りだし、僕も一応、聞いてやる体制を作った。




「このピンクの花を書いた子な、俺と一緒で、今回だけのバイトだったんだ。」


「へぇ。 で?」


「うん。 なんかこう、髪長くてメガネかけてて、暗くてさ、物静かで、陰気くさいというか。」




てっきり ”惚れた” だ ”腫れた” だという言葉が飛び出すと予想していた僕は、肩透かしを食らって何故か逆に話題に夢中になる。





「うんうん。 で?」



「バイトは俺ら2人だったんだけどさ、結局他の人はメジャー雑誌で手が離せなくなって、

2人で一枚の絵を仕上げなきゃいけなかったわけ。」


「うん。」






「ところが。 彼女しゃべらないんだよ。一言も。」


「最後まで?」






「だいたい、そう。」


「じゃあどうしたんだよ。」






「それで結局、1時間たっても何にも決まらなくて、やばいと思ったから勝手に書いたわけ。」


「あー、あの青ベースのヤツな。」





「そうそう。 それで・・・」


「最後にピンクのお花登場?」





「そういうこと。」






彼女は約3時間をかけ、たった1粒の小さな花を描いていた。

さっきも言ったように具象画でも抽象画でもない花を。



そして最後にそれを樋高にそっと差し出した。


蚊の鳴くような、しかし澄んだキレイな声で 「さくら・・・」 とささやきながら。

一瞬凍りついた樋高を気にも留めず、彼女は椅子を立ち、雇い主に何かごそごそと耳打ちをすると帰る準備を始めた。

今まで首元で1つにたばねていた髪をバサリと肩に下ろし、代わりにそのヘアピンで前髪を頭頂部に留めた。

そしてメガネを取るとペコリと一つお辞儀をして、そそくさとその場を去っていく。

その一連の彼女の動きを、樋高は余すところなく見とどけ、さらにその約1分後、やっと我に返る。






その頃には、彼女がそこに居た気配はさっぱり消え去っていたが、樋高の手の中の小さな花の絵はさっきとは比べ物にならないほど

貴重なものに変身を遂げていた。











彼は結局、僕のつまらない予想の通りに、彼女に恋をしたのだ。













それが1日目。最初の日の仕事だった。
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