博士の愛した数式 小川洋子

July 14 [Sat], 2007, 21:52
2004年第一回本屋大賞受賞作、読売文学賞受賞作。確か高校生の読書感想文コンクールの課題図書でもあったと思う。


数学ネタを使った作品は数多くあれど、数式の美しさを文学的感動に還元してみせたという点で、まれにみる傑作ではないかと思う。


80分間しか記憶が持続できず、背広のあちこちにメモを短冊のようにくっつけている博士。博士を全力で守ろうとする家政婦の「私」と息子のルート。3人の、聖なる幸せな世界が永遠に続くことを、(無理とわかっていながらも)願わずにはいられない。あわあわと淡々とした抑えた筆致の中に、逆に3人の深い愛情と絆が浮かび上がってくる。
とても胸が痛くなる場面がある。
「もしかして、博士がちゃんと手当してくれなかったのを怒っているの?」
「違う」
ルートは私を見据え、泣いているとは思えない落ち着いた口調で言った。
「ママが博士を信用しなかったからだよ。博士に僕の世話はまかせられないんじゃないかって、少しでも疑ったことが許せないんだ」

ここでは私は完全に子供のルートに同調して、いたたまれず泣いてしまう。
自分の大切な人が侮られたり、傷つけられたときの悔しさ。
親に友達を悪く言われたときのような。
そしてこのあとさらに3人の絆は深まっていく。


小川洋子さんの作品の魅力に、透明で硬質な悪意、というものがあると思う。「妊娠カレンダー」や、『薬指の標本』『ホテル・アイリス』などで顕著だ。緊迫した濃密な世界。ちょっと危険な香りがする。『博士の愛した数式』でもところどころそういう要素は見られるが、本作ではそれをうまく暖かい優しみで包み込んでいる感じだ。
小川洋子さんがこの本で一気にブレイクした一因かもしれない。それまでもディープなファンには人気だったが、一般受けもしたという点で。

 
この『博士の愛した数式』(小川洋子)の参考文献としてが挙げられている『フェルマーの最終定理』(サイモン シン)、これも名著。おすすめです。
TB:夏休みの諸相(12)読書感想文・定番集4/小川洋子『博士の愛した数式』
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はじめまして。
トラックバックありがとうございます。
ずいぶん前ですが、読んでとても優しい気持ちになったのを覚えています。
透明で硬質な悪意ってなんとなくわかりますね。
May 28 [Thu], 2009, 0:42
私も『博士の愛した数式』好きです。
切ないけど暖かいお話ですよね。
小川洋子さんの他の作品も読みたいなあ、と思いつつ、
まだ読めてません
『フェルマーの最終定理』も気になります
October 23 [Tue], 2007, 21:03