追悼・佐藤大輔

March 27 [Mon], 2017, 2:15
征途〈1〉衰亡の国 (トクマ・ノベルズ)
佐藤 大輔
徳間書店
売り上げランキング: 15,541


 中高校生の頃、架空戦記を読みまくっていた。その多くが、どこか荒唐無稽で現実感のないものだとは、子どもながらに分かっていた。そんな中で手にして読んでみてショックを受けたのが、佐藤大輔氏の『征途』だった。
 捷一号作戦〜レイテ沖でもし連合艦隊が作戦に成功していれば、というIFから始まるこの物語は、それが太平洋戦争の趨勢に影響を与えず、むしろ北海道の半分までがソビエト連邦に占領されるという「分断国家」になるという帰結を生む。そして、朝鮮戦争と同時に「北海道戦争」が勃発し、ベトナム戦争に自衛隊が参戦し、「統一戦争」で「北日本」の戦術核が米海軍を壊滅させる。そして、その戦争の最中にクーデターが起き、樺太の核サイロを無力化させる作戦が敢行される……。その最中には、常に戦艦(戦後は護衛艦だが)『大和』がいた。

 佐藤氏の架空戦記は、歴史上のある転換点を、僅かに変えるところから物語がスタートする。『レッドサン・ブラッククロス』や『侵攻作戦パシフィック・ストーム』ならば日露戦争だし、『覇王信長伝』ならば本能寺の変、『遥かなる星』ならばパナマ危機……。その「IF」が精緻な、あり得たかもしれない「もうひとつの歴史」を紡ぎ出すという作業において、佐藤氏ほどのリアリティをもって成し遂げた作家を、私は他に知らない。

 佐藤氏の多くの作品は徳間書店から新書・文庫で発売されたが、90年代後半に架空戦記から撤退してしまったため、その遅筆さもあり、発表されていたほとんど作品にミッシングリンクが残されてしまったのは多くのファンにとっては残念に思うところだろう。『地球連邦の興亡』もこれからというところで途切れているし、『皇国の守護者』もあれでお開きというのは「そりゃないぜ」という感想をどうしても抱いてしまう。それらすべては読者の想像に委ねられてしまった。

 敢えて佐藤氏の功績をひとつ挙げるならば、架空戦記という児戯とも揶揄されるジャンルで、圧倒的な「現実主義」を貫いたということだろう。私は彼の作品で「仕事をする大人の流儀」というものを学ばされたし、無名有名関わらず人生というものがささやかな「一撃」によって劇的に変わる可能性があるということを教えられた。

 21世紀も十数年を経て、『スケルトニクス』のような動作拡大型スーツが開発されるようになっている。『遥かなる星』での硬式宇宙服が実現しようとしている時代に、ある意味でひっそりと亡くなってしまうなんて、「そりゃないぜ」と言いたくなる。ああ二度目だな、この言葉。
 いくら言葉を紡いでも、もう未完作は未完作のままに終わった。これは動かしようがない。『シン・ゴジラ』的に言えば「あとは好きにしろ」ということなのかもしれない。それでも、貴方の書く「未来」を、私は読みたかった。

 今はひとまず献杯を。その魂の安らかんことを。


 

フィルターバブルで困るのは実はメディアなのでは説

March 23 [Thu], 2017, 2:40
 ちょっと込み入った作業が一段落したので、メモがわりに。

 最近、「フィルターバブル」という言葉について考えることが多い。要するにGoggleのパーソナライズド・サーチやFacebookのニュース・ストリームが、ユーザーの属性を解析することによって検索結果を出すことにより、その人が「見たくない」情報から隔絶され、文化的なバブル(膜)に閉じこもってしまうことを指している。この問題は例えばフェイクニュースに引っかかってしまいがちになる事と結び付けられていることもあり、NHKの『対立か共闘か? メディアとプラットフォーム』で、出席者がしきりにGoogleとFacebookのアルゴリズムをやり玉に上げているところからも、欧米メディアが真剣に捉えているところが見てとれるだろう。

 個人的には、売文屋として幅広いジャンルをカバーしなければいけないという事情もあって、この「フィルターバブル」を実感するまでに至っていないのだけど、多くのユーザーが「見たいものは見ない」という傾向になっているのは感覚レベルでわかるし、サイトを簡単に解析して属性やトラフィックを見ても何となく感じ取れる。

 加えて日本の場合、Yahooのトップページやアプリ、SmartNewsなどのニュースアプリなどが強いので、そこで表示されなかった情報=記事はユーザーにとって「なかったもの」になってしまう。そこではより表層的なニュース(もっと言えば短信)が多くなりがちだし、「読み応えのある記事」でもジャンルが滞ったりしてしまいがちになる。
 そうなると、メディアの側でも他の媒体と同じような情報を「出さざるをえない」状況になっていくし、ユーザーの属性を分析すれば分析するほど、ユーザーの「喜びそうな」コンテンツを作らざるをえない方向に追い込まれる。「メディア総夕刊紙化」といえばわかりやすいだろうか。

 最近、編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞に『週刊文春』の「ベッキー31歳禁断愛 お相手は紅白初出場歌手!」が選ばれたが、これも見方によっては「フィルターバブル」によってもたらされた現象と考えられなくもない。後発の週刊誌もこぞって彼女の話題をピックアップしたし、ネットメディアも「週刊誌が報じた」ことをそのままニュースとして記事にして出した。しかもそれが数字(PV)が取れる。だから乗らなければいけない。好むと好まざるとに関わらず、そういったニュースを「追う」ことをしなければ、バスに乗り遅れる。そういう状況になっているのではないだろうか。

 もちろん、ゲスな話題を取り上げていくことの免罪符にはならないのだけど。世の中には多様な伝えるべき事象があるにも関わらず、横並びに同じトピックを追っていって、ネット環境に適応しようとするのは、それぞれのメディアの輪郭をぼやけさせることになる。フェイクニュース問題は、数年前ならば「怪しげなニュースサイト」ということでリテラシーの高い人ならば信用に値しないと切って捨てただろうが、どこのメディアが出したものなのか、あまり問われなくなり、サイトでもそれが小さく表示されるのみになっている現在だからこそ起きていることだと思える。そしてその根幹には、メディアのブランディングが崩壊していると捉えるべきなのではないだろうか。

 そんなこんなで、「フィルターバブル」が起きることで困るのは実は各メディアなのではないか、というのが私の仮説なのだけど。多くの読み手がそれで「困っていない」ということも事実ではあるし、そこを打破するキーは何なのか、たまに自問自答する今日この頃だったりするわけなのです。

 今夜はもう少し働きたいのでこの辺で。
 

『不寛容の本質』を読んだ

March 18 [Sat], 2017, 1:40


 最近、日本社会を評する上で「不寛容」という言葉が踊る機会が増えている。そんな中で刊行されたのが、西田洋介先生の本書。

 著者は、主に社会通念や制度において、現代社会に「昭和の面影」が残されており、それが現代社会の実態と乖離しているのが、若者世代と年長世代の乖離の大きな要因であると着目。とりわけ低成長世代を経験した世代が、昭和という時代を「安定の象徴」として羨望していると分析する。この「安定」とは例えばマイホームやマイカーといったものを差している。Parsleyのような40を超えた世代にとっても、各種ローンを組んで大きな買い物をするのが事実上不可能だというひとは多いから、「安定」というものが遠い存在であるということには頷ける。一方でかつての『小悪魔ageha』のように、「今さら不況だからどうとか言われてもよくわからない」 という人も多いはずなので、若者世代が明示的に昭和を「羨望している」のかどうかは正直分からない。

 第二章では各種統計を引用して、この10年間で平均給与が上がっておらず、生活意識が「苦しい」と答える人が目立ち、世帯数が増加し子育て家庭が減っていることが着目されている。その上で、税収がバブル期の水準であるにもかかわらず、豊かさを感じないことに「日本型システムの限界」を見ている。
 さらに、第四章では規制緩和を主張する起業家のような「イノベーター」と、生活水準の改善を求める「生活者」が対立構造にあるとしており、第六章では各教育機関が予算削減により喘ぐ現状が記されている(この章を入れたことに、著者の「らしさ」が感じられる)。

 前述のように、若年層が昭和時代を羨ましがっているかどうかは、果たして本当にそうなのか。30〜40代にかけてはそのような人の存在も多くなるだろうが、それ以降に誕生した「不況しか知らない世代」が「バブル」と言ってピンと来るのか、ヒアリングなどで補強が必要なように思われる。
 また一方で、第四章で語られた「イノベーター」と「生活者」の対立というのが、ほんとうにあるのか。これも今更長期雇用が望めなくなっているのは明白だし、「家族経営」的な日本型企業のあり方が崩れている以上、何らかのイノベーションによる雇用創出は欠かせないし、その先頭に立つ「イノベーター」の存在はむしろ「生活者」にとっては仕事のあり方の選択肢を増やす存在と捉えることも出来るのではないだろうか。

 とはいえ、著者が目的とする「社会に対する認識の更新」と、「不寛容の本質を再考するきっかけ」として、本書が果たす役割は大きいように思える。とりわけ、「年長世代」で若い層の考え方が理解できないというひとには、昭和末期〜平成生まれの世代の「認識」を把握し、その社会環境の違いについて思いを致してほしいな、と思わされた。

『BLOGOS』にピックアップされた人はハズレなのか

March 17 [Fri], 2017, 3:10
 タスクが終わらずにむっちゃイライラしているので、数十分ほどエントリーに現実逃避することにする。

 北条かや女史が新著を出すようで、朝日新聞系『withnews』に記事が載っていた。

 インターネットで死ぬということ 1度の炎上で折れた心 北条かや(withnews)

 「あ、これ載せたらあかんやつや」と、何年もネットで生息していた人間ならば即座に感じるものだが、『withnews』の中のひとたちはそうは考えなかったのだろう。理由については各自ググって下さい。

 個人的にParsleyが感じたのは、「なぜ『BLOGOS』がピックアップした人材はハズレになっていくのか」ということだった。まぁ、私のブログも『BLOGOS』に転載されているわけなのだけど。
 それにしても、イケダハヤト氏は高知だかどこかでトマト栽培家になったようだし、梅木雄平氏は『東京カレンダー』でバブルの郷愁みたいな、それこそ西田亮介先生の言うところの「昭和の面影」を再生産しているし、ゲームアイドルとして活躍していた杏野はるな女史も一時期『BLOGOS』に掲載されていたけれど、それが所属事務所社長がゴーストライティングしたものだと後で明らかになり、極めつけが「人工透析患者はそのまま殺せ!」とやった長谷川豊氏である。そして、北条女史も一時期『BLOGOS』でかなりピックアップ率が高かった。なんでしょう、この高打率にヤバい人材を輩出している理由は?

 ただ、2009年以前よりブログで活動していた元切込隊長の山本一郎氏をはじめ、大西宏氏やシロクマ先生といった面々は、フェードアウトすることなく変わらずに健筆を奮っている。これは、2000年前後のテキストサイト時代から2003〜2004年のブログ黎明期よりエントリーを発表し続けて、何か書くたびに共感なり反論なり、論考が連なっていったトラックバック文化や、荒ぶるはてなブックマークのコメント欄などの洗礼を乗り越えてきている一方で、それ以降に出てきたブロガーのもやしっ子ぶりが際立っている。
 これにTwitterなどのSNSがどう作用したか分からないけれど、発信の場が多様になり、ネットの参加者の母数が増え、予期しないところからの「攻撃」の可能性も増えた中で生き抜いていく処世術を構築することができたか、あるいはできなかったの差のように思えるのだ。その「タマ」を、『BLOGOS』編集部が見抜けなかったということなのかしら、と感じているわけです。

 ま、私自身が「アタリ」だとは毛頭思えないし、自分自身も何度か足を踏み外しかけているから、「ハズレ」扱いされても仕方ないなぁ、と反省する部分も多いにありつつ、こんなことを書いちゃうあたりが懲りてない証拠とも言えるし、要は『BLOGOS』というプラットフォームがネットに果たした役割というやつを、そろそろ振り返るべきなのではないか、と思っているという話なのでした。

 そろそろ作業に戻らなければならないのでこの辺で。

シニア向け月刊誌『GG』への既視感

March 12 [Sun], 2017, 3:00
 なかなか眠れないので、メモ代わりに。

 あの『LEON』の創刊編集長だった岸田一郎氏が、50〜60代に向けた月刊誌『ジジ(GG)』を創刊するそうだ。

 LEON創刊編集長による月刊誌「ジジ(GG)」創刊 ファッションから相続・遺産まで掲載(Fashionsnap.com)

 表紙は、いかにも『LEON』っぽいテイストで苦笑したのだが、「バブルを経験した彼らのモノやコトへの興味はいまだ旺盛」という分析にはちょっと笑えなかった。確かに会社役員クラスに就いている層はそうかもしれないが、同じ世代でリストラを経験して低所得に喘いでいるというひとも少なくないだろうし、マジョリティはファッションや車、旅行などに関心を向ける余裕とも思えない。決して「ゴールデン・ジェネレーションズ(Golden Generations)」だとは見えないのだけど……。

 ここで思い起こされるのが、2006年頃に刊行されていた『ジー(Z)』だ。拙エントリーをご参照頂きたいが、この雑誌も「青二才禁止!55歳以上限定!!」と謳っていて、シニア男性のライフスタイル誌として、とりわけ旅行のトピックを多く特集していた。

 『GG』を発行するGGメディアは、HISが37.7%出資しているのだという。ここからも旅行が大きな扱いを受けることは規定路線のように見えるが、同世代の女性ほど男性が旅行に関心が高いか、というと疑問符を感じずにはいられない。
 発行部数は5万部ということは、コンビニ展開を視野に入れていると思われるが、先程挙げたようなこの世代の富裕層が書店も含めてどれだけ足を運ぶのか未知数だし、感度の高い人ならばスマホを使いこなしているだろう。そのあたりも前途多難感がある。

 ちなみに、『Z』を刊行していた龍宮社出版はその後2010年に倒産しており、2007年に雑誌を買収したエムスリーパブリッシングは2008年に『Z』を休刊させた上で出版事業から撤退してしまった。資料によると、「上半期で約1億円の営業損失」だったという(参照)。

 そんなわけで、まったく上手くいく要素が見当たらない『GG』で、「よく刊行を決定したなぁ」という感想になるわけなのだけど。雑誌好きとしては怖いもの見たさで創刊号は買ってみようと思う。できればネタになるような誌面を期待したい。



昭和40年男 2016年12月号
クレタパブリッシング (2016-11-11)
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profile
Name:Parsley
Birthday:1976/4/8
Point:首が長い。つまりエロい
Favorite:エイガにケイバ
タバコ:Davidoff GOLD
ウィスキー:アーリータイムズ
おしごと募集!!
カワサキシティーで布団と同化中
コメントは返したり返さなかったりです。
parsleymood@gmail.com
さらに詳しいことはこちら

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