すずり店について説明&紹介

January 03 [Thu], 2013, 16:26
「えゝ、たつたいま……」
 彼女は口の中で答へた。
 その一週間も、事なくすんだ。しかし、藤岡は、それからも、夫の留守をめがけて、しげしげと顔をみせ、彼女も、それを玄関で追ひ払ふ気はしなかつた。
 さういふある日、彼女は、ふと思ひついて、夫の飲み残した葡萄酒をグラスに注いで、藤岡の前においた。
 彼はすぐに眼のふちを赤くし、この部屋は暑いのか知らと言ひ、上着のボタンを外した。
 彼女は、葡萄酒など飲ませたことになんとなく気がとがめて、すぐにグラスを片づけ、
「そんなに暑いか知ら?」
 と言ひ言ひ、ガスの栓を細めた。そして、腰をあげようとすると、藤岡の見あげるやうなからだが、すぐうしろに近づいてゐた。彼は、彼女の肩を抱くやうに腕を差し伸べ、
「一度だけ、ね、一度だけ……」
 唇をゆるせといふしぐさで、ぐつと迫つて来たのである。
「いけないわ、そんなこと……ほんとに、それだけはゆるして……」
 さう云ひながら、彼女は彼の腕から逃れ、唐紙を開けて奥の部屋へ姿を消した。が、それはなんにもならなかつた。ほかに誰もゐないことがわかつてゐた。彼は、大胆に、彼女の後を追つた。部屋から部屋へ、子供のやうに、二人は、追ひつ追はれつした。
プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:p1mum1cx
読者になる
2013年01月
« 前の月  |  次の月 »
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
最新コメント
ヤプミー!一覧
読者になる
P R
カテゴリアーカイブ
https://yaplog.jp/p1mum1cx/index1_0.rdf