若冲展-釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会-

May 16 [Wed], 2007, 19:30

釈迦三尊像


さて、若冲展です。

そもそも、今回の京都行きは、この記念すべき展覧会の内覧に合わせたもの。

先日東博で公開された「プライス・コレクション」での若冲作品のあまりの面白さ。

その、「端正」と「奇想天外」が、1人の人格の中に混然と同居したような、濃密にして奇妙な迫力。

この人の絵と、その個性にすっかり魅了されてからというもの、いずれ、彼の故郷ともいうべき相国寺を訪ねて「釈迦三尊像」も観てみたいものだ、と思っていました。

そこへ、今回の里帰り展示の企画の話が。

わたしにとって、今回の展示会が、ダ・ヴィンチの『受胎告知』の来日なんかよりも、少なくとも数十倍は吸引力があったのは言うまでもございませんよ。



今回の若冲展の何がすごいってですね。

若冲の最高傑作(というか、彼の画業の集大成ですな)として名高い「動植綵絵」30幅が、現・所蔵先の宮内庁から元・所蔵先の相国寺に「貸し出されている」ってことなんです。

廃仏毀釈の憂き目を見て、相国寺が断腸の思いで手放した30幅。
それがなんと、120年ぶりに故郷に帰って、「釈迦三尊像」と再会するんですよ。

この33幅を同じ屋根の下で見ることのできることなんて、わたしが生きている内には多分、もうきっとないでしょうよ。

少なくとも、これまでの120年の間、そんな機会は皆無だったわけですから。

そりゃ行きますよね。
っていうか、これで行かなけりゃ、今後、日本美術好きを自称することはできません、ええ。
内覧の前に、まず、承天閣美術館の館長(お坊様ですよ、もちろん)と、今回の展覧会の監修をされた学習院大学教授の小林忠先生の記者会見に仕事にかこつけて参加しました。
(辻惟雄先生のお話を伺うのを楽しみにしていましたが、体調不良によりご欠席でした。残念也。)

館長(及び相国寺)の、若冲に対する熱い想いと誇りと、仏様にお仕えになる方ならではの若冲観は、大変興味深かったです。

お坊様は話がお上手ですね、やっぱり。

今回、「動植綵絵」を展示した承天閣美術館の第2展示室は、昭和59年に完成したものなんですけどね。

館長曰く。

計画が立ち上がったとき当初から、いずれこの相国寺で「釈迦三尊像」と「動植綵絵」33幅を一緒に展示したい、「動植綵絵」をなんとか里帰りさせたい、と。

そんな願いを込めて、この33幅がぴったり収まるように設計したんだそうです。

いやもう、恐るべき執念というか。
というか。

って、この話そのものは、もちろん感動的なエエ話なんですがね。

しかし、もし願いが叶わなかったら、一体この人はどうするつもりだったんだ??

・・・などと考えてしまうわたしは、きっとあまりにも庶民で、あまりに信心が足りないと。

そういうことなんでしょうね、きっと(笑)




ということで、前置きが長くなりましたが、「動植綵絵」です。


若冲といえば鶏。


なにせ「動植綵絵」ですから!


絢爛豪華なんて言葉がちゃんちゃらおかしいぜってな、それはそれはもう、いやっていうほど濃密な極彩色の細密画が、いきなり目の前にずらっと展開されるわけです。

1幅だけでもすごいのに!
それが×33幅!


うわぁっ!!(わたしの心の叫び)


しかし。

第2展示室に入った瞬間はかなり身構えたんですが。
いえ、わたしの貧弱な脳がクラッシュしないように、とか(笑)

実際は、絵から煩さを感じることはまるでなく、驚くほどに静かっていうのが、全体を俯瞰して感じた第一印象でした。



思いますに、このシリーズは、やはり33幅揃ってこその、ひとつの世界なんですね。

言ってみれば、「動植綵絵」は、若冲にとっての胎蔵曼荼羅図のようなもので。

その一筆一筆に彼の祈りが籠められた、これはいわば「宗教画」。
もちろん、釈迦三尊像を中心にして。

それが今回、よっくわかりました。

つまりですね、33幅を一連で観ると、それほど濃厚にこちらに迫ってくる画ではないんです。

1幅だけで観ると、美しいは美しいですが、なんていうの?
もうたいへんに過剰で。

暑苦しいというか息が詰まるようなというか、ある種の胸苦しささえおぼえるような作品なんですがね。



これは、わたしにとっては、非常に新鮮な「発見」でした。

ああ、今まで観てきた「動植綵絵」は、"不完全"だったから、あんなに気持ち悪かったんだな、と。

わたしがこの絵に感じていた違和感って、不完全であるが故の「いびつさ」というようなものだったんだな、と。

ごくあっさりと、本当にストンッと理解できた瞬間でしたよ。



そういう意味では、この33幅が展示されている第2展示室は、言ってみれば教会のようなもので。
そして「動植綵絵」は、静かに祈りを捧げる場所にこそ相応しい画なんですよ。

やはり、本来はね。

宮内庁の三の丸尚蔵館にあるよりも、やはりここ、相国寺にある方が、ずっと絵の本質に叶っているし、無論若冲の遺志にも沿うことでしょうね。

今となってはもう、あまりに難しいことではありましょうが。



あとはまぁ、細部については色々と感想がありますが。

若冲に関してはもう、別にね。
プロアマ問わず、オタク、もとい、専門家はいくらもいらっしゃいますので。

わたくしごときがこんなところでヘタな解説をツラツラ述べるのはやめておきます。


しかし、やはり。

この人を、ここまで執拗に「祈り」に向かわせたのって何なんだろう、と。
どうしても考えずにはいられない。

商売にも女にも子孫繁栄にも、それこそ世事には一切の興味関心を持たなかった若冲。
その彼が内包していた、人一倍強烈なエネルギーは、一体どこへ向かっていたのか。

「祈り」だったんだろうか?



彼が、「描くこと」に全身全霊を傾けていたのはよくわかる。

この人の絵は、美しいですが色気はないですしね。

女には興味がなくて、でもだからといってゲイってわけでもなかったんだろうな、とか。
いえ、この過剰さはとってもゲイっぽいんですが。

なんというか、この人の作品からは、わたしは、「実り」とか「成熟」とかは一切感じませんのです。

そこらへんが、多分、わたしが若冲の彩色画に非常に強く惹かれるんだけれども、決して好きではない、っていうところにつながるんだろうな、と自分なりに解釈してるんですけどね。

観ていて心地よくはないし、「欲しい」画ではないな、と。

でも、惹かれる。
この渇き具合といい、このいびつさといい。

とっても現代的なカンジがします。

まぁ、その一方でね。
若冲は、それこそ、粋と洗練の極地みたいな水墨画も山ほど描いてるんですけどね(笑)

そのあたりがこのおっさんの、一筋縄ではいかない、おもろいところだと思いますが。

字数が尽きましたので、そのあたりは次回にでもまたあらためて。
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あきこさん

をを!!行かれたのですね!
雨の古都からお帰りなさい〜!

若冲、お気に召してよかったです。きっとお気に召すと思ってました。
しかし、そこまで感じていただけたのなら、わたしもヘタな鑑賞文を書いている甲斐があるというものですよ〜。ほんとうれしいですよ!

第一展示室・・・こちらのことを書かないと、と思いつつ延び延びになってますが(汗)、実はこっちの方が個人的には好みなんですよね〜。
この人の水墨画はほんと素晴らしいですよね!洒脱で、なんかいきなり大人の絵なんですよねぇ(笑)
葡萄もいいけど、わたしは芭蕉の絵が好きなんですよ。ヘンで(笑)

プライスさんは、ハイ、プレス内覧にいらしてまして、ご挨拶させていただきました。
とても穏やかで素敵な方で、わたし、ファンなんですよ(笑)

また面白い展覧会があったらリコメンドしますね。
ヨーロッパやアメリカのアートもわたしも大好きですが、やっぱり自国の文化をきちんと知っておくことは、別に美術だけじゃなくて、舞台にしても何にしても、実は結構大事なことだと思いますんですよ。

やっぱり背骨がきちんとしてないと、筋肉も正しくつきませんから(笑)
May 29 [Tue], 2007, 0:55
あきこ
MARIさん 25日(金)に行ってきました! これでもか!ってくらい大雨の中、チケットを買うためにならぶこと20分、第一展示室は人ごみの中、前列をキープしてちょびちょびカニさん歩きで見学。 葡萄の襖絵は 生で見ると どこか西洋的な香りもして不思議な雰囲気で魅力的でした。  そして第二展示室へ入るのに入場制限があり、1時間ちかく待ちました〜。そして入ると、ものすごい人・人・人で、人の流れも整理もされずもみくちゃでのご対面でした。それでもわずかな忍耐と辛抱をフル活用して、一枚一枚しかと観てまいりました。 濃密にして奇妙な迫力!はいっ!おっしゃるとおりでした!!! 鶏の羽の油ののったツヤツヤ感、皮膚感、飲まれそうな迫力。かと思うとどこかユーモアを感じる、子供にかえった気分で夢中になる絵があったり、またもやクラッっとくる華に圧倒され、ピンと空気が張った雪景色の絵があり・・・そしてそれらを見守るかのように 釈迦三尊像の絵が・・。 MARIさん!思い切って京都に行ってほんとよかったです!!! お腹の底からいいものを観れて、幸せでした☆  普段、西洋美術ばかり愛でるのですが、楽しみが増えました!感謝です☆  この日の京都新聞にたまたま プライス氏のお話が載ってまして、心に残りました。 (MARIさんが行かれた日かな?)プレスの内覧会で会場の真ん中に絵に囲まれてぽつんと立っている氏の姿が何度も見られたそうです。(会食を抜け出したりして)  MARIさんのお話と通じるものがありますよね!? 私も絵に囲まれて静かに観てみたかったな〜。 なんて夢見たいなことを思ってしまいました。。 長くなってしまいスイマセン!      
May 29 [Tue], 2007, 0:28
Takさん

こちらこそありがとうございます!
当日お会いしていたハズ・・・ですのに、その節は失礼いたしました〜(笑)

本当に画期的な展覧会でしたね。
別に見に行った友人は33幅のことを「ステンドグラス」と言ってました。

ネットを介したプレビューは、これからどんどん増えていくんじゃないでしょうか。
こういうところから、博物館や美術館がよりオープンな場所になっていけばいいですよね。

わたしも、非力ではありますが、仕事を通じて、そういった動きの下支えをさせていただきたいと思っています。
May 19 [Sat], 2007, 0:23
こんばんは。
コメント&TBありがとうございます。

第二展示室を「教会」と表現されていらっしゃいますが
まさに言いえて妙ですね。
思わず祈りささげたくなるような空間でした。

若冲展のプレビューに続き
上野の森でもプレビュー開催されるそうです。
さちえさんから教えていただきました!

May 18 [Fri], 2007, 17:46
Sallyさん

ようこそ、いらっしゃいませ!

月末ですか、いいですね〜。
わたしももう一度くらい行きたいですが、京都は遠い・・・(涙)

>どんなことを思うのでしょう
優れたアートに接すると、自分っていう人間がよくわかりますよね。
というより、ホンモノのアートに対峙すると、自分という人間が裸にされて、一旦リセットされるんですよね。
これはたいへんな快感ですね。

Sallyさんが若冲に何をお感じになるのか・・・楽しみです。
May 17 [Thu], 2007, 11:11
Sally
mixi から参りました。
充実のレポ、息を詰めて読ませていただきました。
あの、ちょっと「満艦飾」入った『動植綵絵』が
静謐に感じられたとのこと、トリハダものです。
わたしは月末に参りますが、どんなことを
思うのでしょう。。
ため息です。ありがとうございました。
May 17 [Thu], 2007, 1:12
あきこさん

をを!行かれますか!
あきこさんのフットワークのよさ、スバラシイですね。そうこなくっちゃ!

混雑状況が公式サイトで確認できますので参照されてくださいね。
京都は朝イチは混んでるという説もありますよ。

相国寺は御所のすぐそばです。御所の緑も、今とっても綺麗ですよ。
入梅直前のさわやかな新緑の京都と、日本の誇る素晴らしい美術。
感性を全開にして、心ゆくまで味わってきてくださいね。

舞台も映画も絵画も、いいものをたくさん観ることは、何よりも心の栄養になりますし、生きる原動力になるとお思いになりませんか?

あきこさんの感想が楽しみです!
May 17 [Thu], 2007, 0:36
あきこ
MARIさん、休みをとりました! 正直言いまして、行ってみたいけど期間短いしな・・とスルーしそうになってたんですが、先日のMARIさんのお話で前のめりになってきまして、無事休みをとりました!今、読んでてゾクゾクしちゃいました!! 必ずや、体験してきます!!! 
May 16 [Wed], 2007, 22:40
さちえさん

ブルータスは立ち読みで済ませたもので、なんとなくそういえばあったなぁ、程度の認識です>「斗米庵双六」

若冲の画にはたいへん強い興味関心があるんですが、彼の生涯には、実はあまり興味がないんです(笑)
この人の場合、画以外はつまらなそうで、なんとなく(笑)

北斎は絵と同じくらい、その人となりに興味があるんですがねぇ。
May 16 [Wed], 2007, 21:07
あぁ、やっぱり行かないと、京都。
会期がもっと長ければいいのに。
余談ですが山口晃さんが描いた「斗米庵双六」はご覧になったことありますか?
ブルータスに掲載された作品ですが「山口晃が描く東京風景」に収録されています。
たった4Pですが、若沖の生涯をかいつまんで表現しています。
May 16 [Wed], 2007, 20:53
P R
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