超人予備校「フルーツ大コウモリがくる」

2008年11月20日(木) 23時53分
超人ハンターミツルギ氏が書いたこの芝居は、一見気ガル〜な雰囲気でゲハゲハ笑えてしまえる劇だったのだが、私は大好きになってしまった。ちょっと忙しくて書きそびれていたのだが、書いておきたい! この芝居のテーマはじつは非常にシリアスで重かったのではないか? 見ているときにはまったくそんなことはわからなかったのだが、そこがスゴイところだったのではないか? ひょっとすると、このところ見た芝居の中で、もっともいい芝居だったかもしれないぞおー! 私は泣きそうになった・・・。

この劇ではリーダーの存在がテーマになっている。リーダーと言えば、アメリカではオバマとマケイン、日本でコロコロ代わるリーダー、パレスチナとイスラエル、ブッシュとフセイン、ロシアにおけるゴルバチョフとエリツィンそしてプーチン、中国と台湾などがすぐ浮かぶ。どれも血なまぐさい抗争がある。政治劇といえばすぐに血なまぐさくなり、権力と怨恨、弾圧と反逆、そして最近ではテロが必ず描かれるといっていい。けれども、この劇の世界はどうだろう。ハッピーで心優しい抗争、お馬鹿な権力闘争、グチを聞くリーダー・・・よく見られる、怨恨と追悼の政治劇と比べて欲しいのだ。「世界は思ったようになる」のだとしたら、このようなユートピアの世界こそ描かれるべき世界だったような気がしてならないのだ、と、うふふ、と思わず笑いながら書いてしまおう。

芝居は3つに分かれていて、最初はネズミとカラスの抗争が描かれる。これは黒い服装の同じ役者が演じていて、野球帽を前にしたらカラス、後ろ向きにしたらネズミだ。なんて地味。似たり寄ったりなのね、この二つの勢力は。まるでイスラエルとパレスチナのように。中国と台湾にように。そして、2部では、ネズミの新リーダーが寝てしまうというアクシデントが語られ、フルーツ王国となる。ここは極彩色の王国。つまり、一つのグループの中の色んな違いが描かれる。それでも内部抗争がある。一番のバカが王様になれるという甘いユートピア。いろんな抗争があるが、どれも動機は小さなことだ。「全くストーリイに関係ないこと」としてこの王国の物語は挿入されるのだが、黒と極彩色、2つの民族の対立と内部抗争という構造は明確だ。そして、ラストへ向けて、ネズミとカラスのあいの子であるフルーツ大コウモリがインドからやってくることが描かれる。このフルーツ大コウモリは、ネズミ・カラスの世界の外部でもあり、ネズミ・カラスの世界とじつはフルーツ王国とをつないでいる。このフルーツ大コウモリはずっとバケモノのように恐れられるのだが、じつはすごく無力なアホで、かわいらしくてステキなのだ。そして、権力の無力、かわいらしくてステキな理想の権力のあり方が描かれていく。このリーダーは無力だが、愛に満ちている。いや、無力だからこそ、愛に満ちることができるのだ、そう言いたい。

このあいの子であるフルーツ大コウモリは、ちょっとオバマにこうあって欲しいなあとも思わせないか? ここに描かれるユートピアは、ニーチェの権力とは全く違う(だから超人予備校?)し、サイードのどこかガマンに満ちた理想とも違う。なんだろう、私の大好きなアンデルセンの「お父っあんのすることはいつもよし」とか、日本昔話の「かさじそう」みたいな理想に近い。そうだ、ジョン・レノンはこの劇を見て、きっと大喜びしたに違いないと確信する。(けど、このコウモリはじつはウイルス発信源にもなっているそうな)

役者たちも皆、この理想にすばらしく応えていた。うべんさんのとぼけたスナフキン、あのセリフもミツルギ氏が書いてるんだろうか。まるでうべんさんが書いているみたいに自分のセリフだった。泣けるほどいいセリフだった。「君が今悩んでいることも、きっといつか思い出になるだろう」だっけ? それが何度も無視されるのがまたいい! 泣ける! 中田茜さんしかり。全ての役者たちが、まるで自分のセリフは自分の言葉で、即興で語っているかのようにみえた。みな、愛らしく、いとしかった。切り抜きのパンフレットがステキだった。たぶん、あのパンフレットからすでにやられてたんじゃないかと思う。

大傑作だ!

高橋睦郎「読みなおし日本文学史−歌の漂泊」

2008年11月13日(木) 5時21分
 この3日新宿歌舞伎町のど真ん中に宿を取って、寺門氏と会ったり、はたまたベターデイズの大久保氏と怪しげな中華料理屋とかゴールデン街で飲んだり。めっきり寒くなって風邪気味だったのがぶり返す。花園神社には営業こそしていなかったが夜店がぎっしりと並んでいて、入り口には「見世物地獄」というノボリ。歌舞伎町は流暢な日本語を操る黒人の呼び込みも多く、いつ来ても混沌とした欲望がどろんとしている。おかまショーの店「ひげガール」の出演者たちが、梅田コマの横に5mおきほどにならんで箒を持ってただし掃除もせずにただ立っているのはいつ見ても不思議だ。欲望はあるがそれらの欲望はあまり動いていない街なのかもしれず、だから混沌はどろんとしたままで淀んでいるという印象だ。

 このところずいぶん本を読んだ。まず今東光の「悪名」は抜群に面白かった。もともと勝新太郎と田宮二郎のコンビが出ている映画の大ファンでもあるのだが、急に思い立ちどうしても読みたくなった。ちょっとした本屋に行けば必ずあるはずだと思ったのだが、調べてみると文庫(新潮、角川)は絶版で、古本しかなくて驚く。しかもだいぶプレミアがついている。結局私は文学全集の一冊で読んだ。けっこう長い。中上健二の一連の小説や、町田の「告白」なんかにもつながる純なピカレスクがスバラシイ。今東光、大好きになってしまった。

 それから、ずっと前に買っていた丸谷才一「たった一人の反乱」を読む。この人の小説を読むのは2冊目だが、どうも世界も人物もあまりなじめず好きになれない。書評などは大好きなのだが。そうそうこれはちょっと前になるが、フェリーニの「8と1/2」を映画館で久しぶりに見たのだがあれもなんだか好きになれなかった。どことなく似た印象だ。共感できない空虚?

 そしてタイトルの日本文学史。いや、これは日本芸能史といってもいい。あとがきには、いつもは文学ではなく文芸という言葉を使うとある。歌(和歌)はもともと神の言葉であって作者などというものはどうでもよく、ヨリシロでしかなかったという視点から古事記や万葉集、和歌や能や歌舞伎、芭蕉までをとらえている。この目線は基本的に正しいと思う。私が考える芸能にもとても近い。

 ただ、日本の漂泊を、次第に零落していく日本の神や歌のためとしていて、そしてその理由として、漢詩などの外部からの文化が中心となり周縁へと追いやられていく芸能や神という日本的な事情も書かれているが、それは疑問で、漂泊は世界中で芸能や文芸の宿命であり、それは芸能の成立の根っこに、はじめから残酷に対する逆転の悲しみや笑いが貼り付いているだめじゃないだろうかと思うのだ。むしろ神の超越性こそが芸能の後から起こったと思えてならない。作者(個人)というものも、おそらく神と同じような構図で芸能の後から立ち上がっている。

 それはそれとして、しばらく高橋睦郎氏の著作と今東光にはまりそう。悪名もまた漂泊だったな。

 これも余談だが、芸能としての言葉を考えると、原初の言葉は名詞でも動詞でもなく、まずは形容詞だったと思うのだ。そして、その形容詞を発するということは、なんらかの感情や感覚(つまり姿勢というか傾きというか速度というか)を表出することなのだが、それを言葉として表出した瞬間に何か決定的な変化(反転)が起こった。それが芸能の原初であって、神というものの感覚なんじゃないだろうか。そして、これは言いすぎかもしれないが、そのような形容詞を発するような逆転というのは、例えば生物の「足が動く」みたいなものの根底とか、空の星が「光っている」ということの根底にももしかするとあるかもしれないという確信めいた夢想がある。

<これは、じつはアインシュタインの光の速度が距離や時間に先立って決まっているという説からヒントを得ている。距離(名詞:物体が決まらなければ距離は出ない)や時間(動詞:時間とはある動きの持続がなくてはならない)よりも速度(形容詞:その瞬間における速さ・傾き。普通の算数では、距離を時間で割ることではじめて速度を計算することができる。形容詞も名詞や動詞を修飾するためにあり、その手前に主語が前提となっている。けれども、私たちはたとえば「やば!」「あつー!」など、形容詞だけを瞬時に発語することも多い)が先立つというのは、実は理にかなっている。高橋氏は神の超越性を語るが、神の超越性を支えているものこそ芸能(形容詞)の超越性かもしれないのだ。>
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