『怪物はささやく』を読んで

February 25 [Sun], 2018, 2:09
怪物はささやく
(原題 A MONSTER CALLS)
パトリック・ネス=著
シヴォーン・ダウト=原案
池田真紀子=訳
あすなろ書房



『怪物に選ばれし少年』

先月、恩師より児童文学小説を賜わりました。まず表紙絵が素敵で、(素敵なモノクロ画には本当に惹かれます)これは絶対いい本だ、こういう児童文学を待ってた〜〜!と、毎日眠る前に少しずつ大切に読もうと思いました。

しかし、著者の前書きを読んだ瞬間からのめり込み、結局一気に最後まで読んでしまいました。

この物語が本として世に出たいきさつには奇跡がありました。原案者のシヴォーン・ダウトは、この物語のアイデアノートを遺し亡くなってしまったのです。
その未完の遺作を、著者パトリック・ネスが受け継ぎ完成させたのでした。

……その奇跡の物語の主人公は、イギリスの郊外に住むコナーという13歳の少年。不治の病の母と二人暮らし。
父はアメリカで新しい家族と暮らしている。同居はしていないが近くに住む母方の祖母とはソリが合わない。学校ではみんなから『かわいそうな子』という特別視に晒される。それに対する煩わしさや葛藤、また、とある罪悪感を見透かすある友人からは暴力を伴うイジメを受けている。

そんな少年のもとに、時計の針が12時7分を指すと怪物が現れるようになった。怪物は物語を語る。怪物は夢の産物ではない、確かに存在したという痕跡を残して、朝には消えている。

この怪物は、コナーの家の窓から見える教会の庭のイチイの大木の化身のように描かれている。

コナーは怪物なんか恐ろしくなかった。何故なら怪物よりもっと恐ろしい恐怖を知っている。

そのうち、怪物の物語とコナーの現実がだんだん重なり合い、物語と現実が混同していく。そしてコナーは事件を起こしてしまう。

そして、怪物の本当の正体や、怪物より恐ろしいコナーが抱える秘密、12時7分のナゾが明らかになっていく……

不条理で壮絶な環境の中、必死に矛盾や葛藤を圧し殺す少年と怪物の邂逅シーンは、挿絵のドンピシャなタッチや雰囲気も手伝って、妖しい風の感触まで伝わってくるようでした。

また、少年の心理描写の表現が非常に細やかで、気付けばかなり感情移入していました。

児童文学とは思えない深淵なテーマに驚いたわけですが、この本を『少年少女時代』に読める若い読者を羨ましく思いました。

現実問題、人は自分の中に矛盾を覚え、葛藤を抱え、そこから逃げると、現実の外的世界にそれが反映されて、結局それを見ざるを得ない状況に追い込まれます。

そうなると外野がザワザワし出して、それに辛労して更にイライラし、ついにトラブルなどが起きてしまったりするものです。

大人になると、ここから更に複雑なトラブルを招いたり、孤立してしまう。そして時たま、自分を見つめ直そうとせず人生の大半を自己正当化と言い訳で費やしてしまう大人が存在します。
それは恐らく、こういう大人を『怪物』が相手にしないからです。怪物も人を選ぶのです。

怪物は物語の中で、その『イチイ』の象徴する『死と再生』の化身であり、主人公に『おまえの物語を語れ』と迫り、少年の抱える秘密を暴き、向き合わせ、自覚させます。

コナーは怪物に選ばれた少年なのです。
怪物は物語の中で少年に『おまえがわたしを呼んだ』と言っていますが、恐らく(直接物語に表現されているわけではありませんが)呼んだのは少年の母なのではないかと思いました。

少年が怪物に選ばれた理由は『母の思い』だったのだろうなと。

コナーの母の心理描写は、この物語がコナー目線で描かれているため、母の主観的な思いは細かには綴られていません。

しかし、母は窓から見えるイチイの大木をよく見ていたというエピソードがあります。

母は自分の病が治らないかもしれないと思ったとき、やはり息子を案じたでしょう。苦労と負担をかけてしまっていること、今後さらに苦労させるであろうこと、教会のイチイの大木に『助けてください』と祈ったであろうなと思いました。

人は時に、残酷な感情と慈愛の感情を同時に抱くという矛盾をかかえることがあります。

それと向き合うことは、怪物なんかよりずっと恐いことです。心が頑なになってしまった大人は子供以上に受け入れられないかもしれません。

この小説にはしばしば『物語』というキーワードが出て来ますが、これはこの場合、『懺悔』に近い意味合いを感じました。

『真実の物語を語る』というのはとても難しく勇気が必要です。そしていつでも、多くは語られないところに物語の真髄があったりもするなとも思いました。

この物語の中でそれは、『母の思い』『祖母の思い』また、怪物が語った物語の中の人々の思いでしょう。
また、それらが織り成す『不条理さ』が実は物語そのものであるとも思いました。

私は昔から『陰、闇の住人』に興味があり、この物語でいう怪物や、また、鬼や妖怪や死神や悪魔など、これらはやはり『お陰様』な存在であり、特に子供の守り神だと思っています。それについての考察はここでは詳しくは書きませんが、この物語を読んで『ああ、やはりな』と思い、嬉しくなりました。

この怪物の物語に少年少女時代に出会えた子供達は幸福です。人生における不条理や矛盾や葛藤と、きっと正面から向き合う勇気を持つことができるはずですから。

この物語は映画化もされているそうです。DVDが出ていればぜひ観たいです。

この物語を私に読ませてくださった恩師に心から感謝です!

◇◇◇
やっと感想を書くことができて嬉しい……早く書け書けとずっと頭の中で怪物が暴れておりましたから(笑)
もっとなんか書きたいことがある気がするけれど、明日仕事なのでこの辺で……
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