「世界で一番企業が活動しやすい国の実現」のための裁判手続等のIT化はごめんです

2018年06月29日(金) 22時44分
 裁判手続等のIT化検討会が3月30日付で「取りまとめ」を公表し、民事「裁判手続等の全面IT化」を目指して、3つのe(e提出、e事件管理、e法廷)の実現を提唱したことは、みなさんご存じのことでしょう。
 確かに、「陳述します」と発言するのと、次回期日の調整をするだけの期日のために、大量の紙の記録を持参して、裁判所まで足を運ばないでもよくなれば、ずいぶんと効率化・省力化できるのではないかと、裁判手続等のIT化に淡い期待を持った弁護士も少なくないでしょう。
 しかし、そんなほのかな高揚感は、6月15日に閣議決定された「未来投資戦略2018」を見れば、すっと冷めてしまうのではないでしょうか。何しろ、政府にとっては、裁判手続等のIT化は、「世界で一番企業が活動しやすい国の実現」のための政策として位置づけられているのですから。
 「未来投資戦略2018」においては、裁判手続等のIT化は、裁判所がIT化が遅れており、地方公共団体などとともに、IT産業の広大なマーケットとして広がっているということです。日経XTECHの記事によれば、富士通はスペインの裁判所にIT化を導入し、世界各国に広げることを企んでいるとのことです。
 さらに、「未来投資戦略2018」で気になる指摘があります。それは、ビッグデータの活用から更に進んで、「現場」から得られる豊富な「リアルデータ」を活用して投資を呼び込もうとしているという点です。リアルデータの共有・利活用は経済産業省が言い出したことであり、裁判手続等のIT化で直接に言及されているわけではありませんが、さきの日経XTECHの記事でも、裁判例をデータとして活用して企業間紛争の予防・解決に役立てることをIT化の効能として指摘しており、こうした観点からも、ビジネスチャンスとして、裁判所に「解放」を要求していることがうかがえます。
 何よりも、「世界で一番企業が活動しやすい国の実現」のために裁判手続等をIT化するのですから、企業活動の足を引っ張るような裁判手続等などあってはならないということでしょう。すなわち、裁判所のリソースをもっぱら企業間紛争に集中させ、企業対市民紛争は簡易迅速に、かつ、企業活動を損なうような方向での解決はなされず、市民間紛争のことなどおざなりでよい制度設計が指向されることになるでしょう。
 検討会の「取りまとめ」は、さかんに「利用者目線」という言葉を使っていますが、ここでいう「利用者」は、もっぱら世界で競争するような企業を指してということが、「未来投資戦略2018」から明らかになったわけです。「取りまとめ」が、IT化のニーズについて、真っ先に企業関係者の指摘を掲げて、ITツールを活用できている者を想定して議論をしており、そうでない者については置き去りにしています。例えば、e提出において、訴え提起時の手数料等の納付につき電子決済を提唱していますが、訴訟救助のことについては何ら検討していません。また、e法廷に関して、「ウェブ会議等の活用に対する利用者ニーズは特に高い」と指摘して、その活用を求めていますが、これももっぱら企業側のニーズによるものというべきです。ウェブ会議等の活用は、労働事件、環境事件、消費者事件など、運動としての対企業裁判を封じ込めるねらいも透けて見えます。
 そもそも、裁判手続等のIT化は、日本経済再生本部という、成長戦略を検討するために、首相官邸直下に、設置された会議体において検討されてきました。このように、裁判手続等のIT化は、規制緩和によってビジネスチャンスを拡大し、投資を呼び込むという成長戦略の一環であり、「世界で一番企業が活動しやすい国の実現」という経済政策に基づくものであることを直視すべきです。
 にもかかわらず、日弁連は、「取りまとめ」が出された3月30日に、早々に、「基本的方向性に賛同する」などと会長声明で言ってしまっているのです(申し訳程度に、「市民や事業者の裁判を受ける権利に対する配慮が不可欠である」とも言っていますが、権利は保障されるべきであって、「配慮」の対象ではなく、こうした言葉づかい一つとっても、裁判を受ける権利を後回しにして、IT化賛成という結論で先走っているのではないかと思われます。)。思い返せば、司法制度改革もまた、「規制緩和等の経済構造改革等の一連の改革と有機的に関連するもの」(司法制度改革審議会意見書)として進められてきましたが、日弁連が規制緩和・経済構造改革としての司法制度改革に抵抗できずに、焼け野原というべき惨状を司法にもたらしました。日弁連は、このことへの反省もせず、教訓をくみ取ることもせずに、再び、経済構造改革の波に飲まれようとしているのではないでしょうか。
 「世界で一番企業が活動しやすい国の実現」のために持ち込まれる裁判手続等のIT化は、国民の裁判を受ける権利を侵害するものであって、その危険なねらいを直視し、毅然とした対応をすることが求められていると考えます。
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