60万もの敷引ぼったくりを容認! 最高裁で不当判決 岡部反対意見こそ消費者契約法のまっとうな解釈

2011年07月13日(水) 13時25分
 最高裁第三小法廷(田原睦夫裁判長)は、12日、敷引特約が消費者契約法10条により無効とした原審・大阪高裁平成20年12月15日判決を破棄し、60万円もの敷引が違法でないとの不当判決を言い渡しました。朝日新聞 日経新聞 毎日新聞
 しかし、3月24日の第一小法廷判決をさらにパワーアップした不当ぶりです。
 判決は、「賃借人も,賃料のほかに賃借人が支払うべき一時金の額や,その全部ないし一部が建物の明渡し後も返還されない旨の契約条件が契約書に明記されていれば,賃貸借契約の締結に当たって,当該契約によって自らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上,複数の賃貸物件の契約条件を比較検討して,自らにとってより有利な物件を選択することができる」といいます。民法概念確立の当時に先祖返りしたフリードマンも真っ青なむき出しの「選択の自由」論ですね。
 しかも、本件では、契約書に、「乙は,本契約終了時には自然損耗・経年劣化を除き自らの負担において本物件を修理・清掃・その他本物件の原状回復に必要な処置を講じた上,甲に対し本物件を明け渡すものとする」と明記されているもんでから、3月24日の判決で、別異に解すべき合意がない限り、、敷引特約は通常損耗の趣旨であると判示されていた部分は、華麗にスルー。でも、「高額に過ぎる場合は無効」という規範を導く理由について、3月24日判決は、「消費者契約である賃貸借契約においては,賃借人は,通常,自らが賃借する物件に生ずる通常損耗等の補修費用の額については十分な情報を有していない上,賃貸人との交渉によって敷引特約を排除することも困難であることからすると,敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には,賃貸人と賃借人との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景に,賃借人が一方的に不利益な負担を余儀なくされたものとみるべき場合が多い」と指摘し、通常損耗を賃借人負担とする合意であるからこその要件なんですけどねぇ。それを無視して、趣旨が何であろうが、それを説明していようがいまいが、敷引の額が明確になってるんだから何か文句あっか?というのは法解釈として破綻しているとしか言い様がありません。
 で、60万円の敷引も高額に過ぎるとはいえないですって!? これまた、3月24日判決が高額かどうかの判断要素として、「当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし」としていたのに、本判決は、賃料月額とのみ比較しています。そりゃそうですよね。退居後に家主が出した補修工事の明細によれば、賃貸人負担としている額=通常損耗は19万6800円とされているんですから、「当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額」の3倍もの敷引をぼったくることになるんです。そんな証拠はなかったことにしないと、高額に過ぎるから無効とはいえないという判決が書けませんもんね。
 まったく、「契約の自由」教団の裁判官には、消費者契約法どころか、証拠も判例も、なかったかのようになるんですから、驚嘆せざるを得ません。
 これに対して、岡部裁判官は、多数意見に対し、額さえ明らかにすればいいもんじゃないでしょう、消費者契約法3条で事業者には説明義務が課せられているんだし、敷引金がどういう趣旨かくらい説明しなければ、自ら金銭的負担を認識して、自ら選択したなんていえないでしょう、これまでの司法判断からしても、それくらい当然でしょう、と至極まっとうな批判をしています。その上で、月額賃料の3.5倍は高額にすぎると述べ、これまた至極まっとうな感覚で判断をしています。
 で、最悪なのが田原裁判官ですね。補足意見で、「敷引特約の法的性質を一概に論じることは困難であり,いわんや賃貸人にその具体的内容を明示することを求めることは相当とは言えない」と述べています。これに対しては、岡部裁判官が、「事業者たる賃貸人は,自ら敷引金の額を決定し,賃借人にこれを提示しているのであるから,その具体的内容を示すことは可能であり,容易でもある」と述べて適確に反論されていますが、田原意見は、実に不動産業者のみなさまに優しく、法理論としてはあまりにも粗雑というほかありません。
 また、田原裁判官は、「被上告人は賃料値下げを賃貸人である上告人に了解させているのであるから,被上告人が上告人に比して弱い立場にあったものとは認められない」と、これまた特異な「消費者」観を述べています。管理業者・仲介業者の力を借りながら、自己に有利な定型的契約書を用意し、サインするかしないかを迫る賃貸事業者に対して、たかだか価格交渉で値下げをさせただけで、対等当事者になるんでしょうか。
 そもそも契約自由を制限し、消費者の利益を保護するのが消費者契約法なんですから、その解釈において、契約自由を全面に打ち出す多数意見というのは、消費者契約法の何たるかを理解しないとものといわざるを得ません。消費者契約法の解釈としては、やや説明の問題に入りすぎているきらいがないではないですが、岡部裁判官の反対意見こそ、まっとうであるというべきでしょう。
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