伊坂幸太郎・三つの謎

February 06 [Sat], 2010, 7:00
タイトルは
『ゴールデンスランバー』感想:原作篇
・・・とでもするつもりだったのですが、書けば書くほど映画と離れてしまうので、こういうタイトルにしました。

映画に関する感想は、直前の記事で書いたばかりですが、そのあと、伊坂作品全体についていろいろ思いを馳せています。(最新2作以外はほとんど読んでると思います)

【ちょっとだけ原作との違い】

『ゴールデン』の原作もパラパラと読み返してます。
映画と小説は別物。今回は映画としての出来かなり良いため、原作にこだわらない方が楽しめる感じですが、ちょっとだけ。

やはり原作に濃厚にあった管理・監視社会への恐怖、みたいなものがなくなって、甘く切ない青春時代へのノスタルジーが前面に出てます。
いや、原作でもノスタルジーは濃厚なのですが、その外側の不気味な社会全体みたいなものが抜けている。
なにゆえ国家権力の監視や罠と立ち向かうのが過去の郷愁であるのか、そのあたりは全然わからない。『魔王』もそんな感じだったような気もするけれど。

原作では国家による監視社会推進の象徴として、情報監視区域のモデル都市として仙台中に設置された「セキュリティポッド」が煩雑に登場する。映画では「アイポッド」が活躍するけれど、まさか「ポッド」を掛けてるのでは・・・。

「金田総理狙撃の真犯人」について、映画ではスルーだったけれど、原作ではぼかした形ながら、一説として提出されてます。

(以下、これから小説で体験する予定の方のために反転します)

曰く、「戦後ほぼ一党独裁を貫いてきた労働党から離党し、自ら自由党を立ち上げた」現副首相(A)。与党の失政からついに政権交代の風が吹き、「自らが首相となる時が訪れた」とAが確信したところ、仙台から若い金田が現れブームとなり、予備選に勝ち党首となり首相となってしまった。

つまり、そのAが黒幕だと言う説。
あららら、今の民主党のOさんみたいじゃないですか。

そして、原作には「二十年後」という章が、ごく早い段階で載っている。
いまだに真相はわからないが、その原因のひとつに、関係者が恐ろしく死んでいる、ということがある。
パレードの中継をしていたテレビ局員とか、ラジコンショップの店員とか、瑣末な人々まで謎の死を遂げている。

佐々木一太郎は事件の後、この事件の背後に大きな謎の存在を感じ、ずっと調べ続けたらしい。一人息子が謎の死を遂げ、警察も辞め、ポールに似た顔は、ますます酷似して行ったとか。
そう、佐々木一太郎は権力側ではあるけれど、そういうヤツなのだ・・・彼でハードボイルドな後編が作れるほど


【大きな画の存在】

いずれにせよ『ゴールデン』でも、青柳という「底知れぬほど他人を信じる力を持った主人公」に対立する形で伊坂作品の底辺にある「底知れない悪意」「際限のない暴力」が、しっかりある。

以前、http://yaplog.jp/kinoko2006kun/archive/499

でも書いたことなのですが、
>伊坂作品には、一つ一つの作品で完結しない大きな画が背後にあるような気がしてならない。
>読めば読むほど大きな画の存在が感じられて、ピースを埋めるように次の本が読みたくなる。


という思いがいよいよ大きくなる感じ。

『ゴールデンスランバー』中村義洋監督は、原作が面白いのであまり手を加えずに生かしたいと思って作ったそうです。

>「どこを使ってどこを落とすかという取捨選択は本当に難しかったです」
>「解決策として、青柳が見たり聞いたりしたものだけを描こうと思い」
>「結果、原作通りになりました」


むむむむ・・・確かに、逃亡の流れとか、セリフとか、原作そのままを生かしていると思うんですよ。思わせぶりな「二十年後」部分は、映画として入れなくて正解だと思うし。
それなのに、(コメント欄でも話があったことですが)伊坂作品の核というか、毒というか、そういうものがそっくり抜けているように思ってしまいました。

むしろ、『アヒルと鴨のコインロッカー』は大好きだけどどこかしら不可解で不気味だし、監督は違いますが『重力ピエロ』の方が、原作の後で感じる「ひっかっかり」みたいなものを多く残しているのが伊坂作品らしかったかも。

【三つの謎?】

以前より常々伊坂作品群の背後に感じてきた「大きな画」の予感は、今でも私を謎めいた気持ちにさせます。

今日はそのとっかかりのために、便宜上三つの謎を設定してみます。

3>1、許されざる罪(暴力)、許される(暴力)
2、登場人物の根っこ
3、舞台の限定(仙台へのこだわり)


以前共通の謎と思っていたいくつかのこと、
●神に似た存在の登場。(先を見通すことのできるオーデュポンのカカシやラッシュの教祖のように)
●美しく気まぐれで魅力的な人物の登場。(オーデュボンの桜、ピエロの春など、多分に暴力的)
は、「ゴールデン」においては影を潜めているので、今回は割愛。



1、の「許されざる罪(暴力)、許される(暴力)」は、伊坂作品を読むと誰でも疑問に思うところでしょう。

●『ゴールデン』でも、青柳の父親が痴漢を殺人より憎んでいる。(冗談にはなっていない)。キルオは、間違いなく連続殺人犯だが、作品内では愛すべき人物で、罪の意識に悩む様子もない。

●『オーデュポンの祈り』の城山は、「徹底した悪意と暴力のカタマリ」みたいな最恐の悪役なのだが、桜の殺人は、作者によっても島の人々にとっても容認されている。

●現実に近い『重力ピエロ』では、兄・泉水は弟・春の大きな罪は看過し、「落書き」という小さな罪にのみオトシマエをつけさせる(仙台銘菓「萩の月」を持っていくことで!)

●伊坂作品のに感じる「ちょっと軽妙なメルヘン風味」を愛して読んできた向きには、『グラスホッパー』は衝撃だったのでは。陰惨な殺人者がたくさん出てくるのだが、その中の幾人か「セミ」「鯨」は読者の共感を促す描き方で、彼らが別な悪と戦ったりする。

作者の倫理観はどうなってるんだ・・・・。
これに関しては、私はまだ全然答えを見つけられずにいます。
国家権力やマスコミと言った大きな力を持つ側の暴力は許さないけれど、個人的な暴力は抵抗(ロック?)として認める・・・?というような単純な図式ではないと思うのですが。


◆◆
2、の「登場人物の根っこ」については、『ゴールデンスランバー』にいろいろ思うところがありました。

森田が爆死直前、「ゴールデンスランバー」について青柳に語る時のセリフ
「出だし、覚えてるか?」
「Once there was a way to get back homeward(昔は故郷へ続く道があった)」
「学生の頃、おまえたちと遊んでいた時のことを反射的に、思い出したよ」
「帰るべき故郷、って言われるとさ、思い浮かぶのは、あの時の俺たちなんだよ」


映画でも登場しましたが、このセリフ群が、この作品の中で一番印象に残ってます。

根っこ、故郷が、「学生時代の仲間」。
私、この感覚、凄くよくわかるんですよ。家庭においても義務教育でもなんだか居場所がなく、学生時代のサークルが、戻るべき家庭のように感じられたりする。
もうバラバラになってしまって戻れないんですが、それだけに「特別な場所」。

伊坂さんの描く「学生時代のサークル」に、いつも胸を締め付けられるような共感を感じます。
(実は、堺さんの語る学生時代とも微妙にシンクロするんですが)。

青春時代、スポーツの勝利だの舞台の成功だのに向かって、みんなで力を合わせて頑張ったりすることも大事な思い出ではあろうけれど、これでは違う。
それよりも自分の居場所、なんとなくみんなが集まってまったりするような人間関係がはじめて持てたことがここではポイント。

青柳、森田のサークルも、ファーストフード研究会(若者食文化研究会)といい、実際は安いハンバーガー店などでだべるのが主活動。

私の学生時代のサークルもそんなもんでした。イベントなどがあってやるときはやるけれど、あとは外に麻雀卓を持ち出して「女子テニス」を眺めながら青空麻雀をやるのが日常みたいな。
先輩達が「青空麻雀」をするのを、後ろから見ていたり、部室で漫画を読んだり、毎晩のように居酒屋や誰かのアパートで朝方までしゃべったり。
およそ意味のない日々が、森田の言う「故郷」みたいなものだ、というのに、涙が出るほど共感できる。

多分それが『ゴールデンスランバー』のキモ。
本当にいつも群れていて、安心しきって、どこかにこのままじゃいけない、みたいな気持ちも抱えているんだけど、現実には居心地のよさにくるまってだらだらと無意味な時間を何年も過ごしていたこと・・・・それが「帰るべき故郷」みたいに思える感覚。

「ファーストフード店が故郷・・・?」、という一種不思議な感じも、実はわかります。
仙台には気の利いたジャズ喫茶なんかもたくさんありますし、ナイスキャラクターのマスターのいる喫茶店が居場所、とかいうのもありそうなパターンですが、なぜかそうはならない。

客に興味も持たないマニュアルどおりのアルバイト店員の適当な応対の方が落ち着く。
「原っぱ」幻想を持てない我々は、そんな世代の始まりでもありました。

故郷は千葉である作者の、仙台への異様なほどの愛着も、自分の生まれた故郷のようなものとして仙台を位置づけているからなんでしょう。

もしかすると、それまで本当に居心地のいい場所、というものをもてなかったのかもしれない。
だからなのか、真剣に「家庭」や「両親」と向き合った作品は、一番重たい。(『重力ピエロ』です。伊坂幸太郎の『罪と罰』とも言われる作品。)

さらに邪推すると、「仙台駅(それもコインロッカーかも)」が、自分が再び生まれた場所、と仮定している「コインロッカー・ベイビーズ」的な意識をうっすらと持っているかもしれない。
「仙台駅」は、『ラッシュライフ』『チルドレン』を中心に、非常に多くの作品で人々の交差する舞台として扱われています。

とっても失礼な発言のようですが、伊坂さんは笑ってうなずいてくれそうな気がします。

考えてみると、『ゴールデンスランバー』で、一番リアリティのある重要人物は、森田じゃないのかなぁ。
「無様な姿をさらしてもいいから、生き延びろ。逃げろ」という森田の思いが、青柳に奇跡に次ぐ奇跡をもたらし、多くのナイスガイとの邂逅を遂げさせたのかもしれない。

青柳には家庭があり両親がいる(多分千葉)けれど、いさか作品の登場人物には、故郷や家庭を感じさせない登場人物が多い。
なんとなく、根っこのない植物が、ふわふわと風に乗って流れてきて、なぜか「仙台」に根を下ろして生活を始めるようになったような。

◆◆◆

3、の舞台の限定(仙台へのこだわり)、というのも、実はまだよくわかりません。

『ゴールデンスランバー』もそれが非常に強い。首相は仙台出身。仙台は厳重に監視され封鎖された空間。どんなに逃げても、どこまでも逃げるわけではない、仙台限定での逃走劇。地下の下水管の中ですら。
驚くことには(伏字)逃げ終えた事件の後まで青柳は仙台に住んでいる

他の作品でも、圧倒的に仙台が舞台なのですが、実質的デビュー作である『オーデュポンの祈り』(←大好きで不思議な作品)では、仙台すら「外部」としている。存在も知られていない宮城県沖の孤島が舞台。
主人公はある事情で「島」に連れてこられ、不思議な島の人々に馴染んでいくけれど、作品中の一番の脅威である暴力と悪意の塊「城山」(これも警官)は、島の外部である仙台から来た。

他の作品での「仙台以外と仙台内部」、の関係が、「仙台と孤島」、となっているようです。

まあ、この島限定の小説を書き続けるのは不可能なので、仙台を限定的地域にしたみたいにも思えるけれど、いずれにせよ謎は謎。
これまでの雰囲気と違うよ〜〜と初読時思った『グラスホッパー』は、舞台が仙台じゃなかったのでなんとなく不安が高まりました。

ただし仙台はユートピアではない。賛美されているわけでもない。
『ゴールデン』のように、街ごと監視され封鎖されることもあるし。それでもなお外部との差別化が図られていることは事実。
仙台に限らず、「東京以外のどこかの都会」を囲い込みたかったのかもしれない(よく知ってる仙台が便利)が、囲い込む必然性の謎は残る。

【伊坂ワールド、まだ謎は尽きず】

以上、「3つの謎」といいながら、「2」以外は全く未解決なのです・・・・。
それもまた今後の伊坂作品を読んでいく楽しみかな。
ご意見やアドバイス等ありましたら是非。

今後の伊坂作品にも、また興味が高まります。
自分の本当の根っこである、両親や家庭についての方向(『重力ピエロ』方向)に行くのならば、ずいぶん重たい本格小説方向に行きそう。
一方、『オーデュポン』の謎ときらめきの復活も期待しちゃう。
『陽気なギャング』『死神の精度』はあまりピンと来ないのですが、こういう小説も本人は好きみたいですね。
『ラッシュライフ』『終末のフール』みたいな、交錯しあう群像劇も、伊坂作品ならではの極上の味わいだと思うし・・・・。

最新作『あるキング』『SOSの猿』は未読なのですが、またどのような変化を起こしているのか(結構変化があるようだし)と、俄然買ってきて読みたくなりました。

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