「ショートバス」感想

September 05 [Wed], 2007, 2:22
さて、「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」で衝撃と感動をくれたジョン・キャメロン・ミッチェル(耕史君とのツーショットも記憶に新しい)の新しい映画、「ショートバス」の感想です。

大胆に赤裸々なセックスを扱った作品として、出演者のオーガズムがすべて本物だとか、そういう点でキワモノ的な話題を集めている側面もあるようですが、私は、JCMが作ったものなので何も心配はしていませんでした。これは多分間違いなく感動できる「愛の物語」なのだと。

フライヤーより。
ショートバスとは?
@アメリカのスクールバスの短い版。
肢体不自由児、あるいは天才児など“特別ケア”が必要な自動のためのバス。
ANY.ブルックリンにある最先端の人々が集まるサロン。
そこでは誰もが主のままに愛を求める。


【ニューヨーク男女七人恋物語】

全体の背景として、9.11の衝撃が人々の心の中で傷跡となっていることと、その後のNYの大停電(ベビーブームが起こったと言われるアレ)があるんですね。

NYの俯瞰図はオモチャのようにカラフルな立体アニメで表現されています。冒頭の巨大な自由の女神の顔のアップ、それに続く立体アニメの中でも衝撃的な、グラウンド・ゼロ地点の生々しい傷跡(現実にはきれいになってしまっているが)。
汚く危険なNYのイメージはどこにもなく、メルヘンチック。「地球上でここにだけ居場所のある人々がいる」というような「ショートバス」と一体化し、このNYは一種「聖地」化されてる感じがします。

NYの男女七人物語です。

恋愛(セックス)カウンセラーのソフィア(リン)。(♀)
その夫で、仕事でもセックスでもなんとなく周囲に流されているだけのロブ。(♂。JCM)
昔売りをやっていたことで他人の愛を受け入れることができないでいる美青年のジェイムズ(♂)。
ジェイムズを心から愛する、ちょっと口うるさいジェイミー(♂)。
ジェイミーに興味を持ち、向かいのビルからいつも2人のセックスを眺めて撮影していたストーカーのカレブ(♂)。
ショートバスでジェイムズとジェイミーに出会い、三人で愛をはぐくもうとする美少年セス(♂)。
SM女王だが、本当の愛を知らず、ずっと孤独だったセベリン。(♀)

同性愛だったり、不感症だったり、ドラッグクイーンだったり、普通の人だったり、またはもとNY市長だったり、「満たされない何か」を抱えている人々。
ショートバスは、そんな彼らを受け入れてくれるサロン。

そして8人目は、「ショートバス」の主人でニューハーフのジャスティン・ボンド。

キャッチコピーは「みんな誰かとつながってる あなたは1人じゃない」
彼らの求める愛は、セックスは、見つかるのか?

ここからはネタバレです。先入観を持たずに見たほうがいいので、見る予定の人は読まないで下さいね。















【体当たり演技】

一年間のワークショップでお互いを理解し合い、秘密の投票で各人のカップリングを決め、同じ演技は二度しないほどの即興性を求め、すべて本物のオーガズムを使った、という裏話はすごい。

特にソフィア(リン)役のリー・スックインがものすごく面白かった。

中国系カナディアンで、扁平な顔、上向きの丸い鼻、肌は荒く首の皴も目立ち、アレッと思うようなはっきりブス。容貌コンプレックスはあれど負けず嫌いのインテリなので、自分がこれまでオーガズムを感じたことがないことが不満でたまらない。
そのくせ冒頭からビックリするようなあらゆるアクロバティックなセックスを日中からしまくる。かと思うと同じ悩み(不感症)を持つ相談者には「オーガズムを感じない女性の方が70%。それでうまく行くのなら演技を続けるよう」指示している。

リンがオーガズムを求める様子はとにかく滑稽で、一番観客の笑いを誘っていた。あちこちで一生懸命マスターベーション。トイレのビデで試みたり、卵形ヴァイブを入れて、ロブに操作してくれと言ったり。自分の中の快感を余さず感じ取ろうというような、目を閉じて口を半分開けた表情は、ここまでむき出しでいいの?という感じ。ううむ、凄い。

私はこれは、オーガズムの有無の問題ではなくて、ただ欲が大きいだけなんじゃないか、自分の今感じているよりももっともっといいものが世の中にあるかもしれないと思うとじっとしていられないだけじゃないかと思うんだけど・・・。

ただあまりに純粋に一生懸命で滑稽なので嫌な感じはなく、陰影のないあからさまなシーンも許せてしまう。
どこかで見たような・・と思ったら、ヘドウィグDVDで、ヘドウィグが一時使っていた中国人の奥様バンドにいたらしい。「リアルなオバサンだなぁ・・」と印象に残っています。

このリンの逞しすぎる滑稽さ(どこからも死の衝動は襲ってこなそう)を思うと、男性陣はヒヨワに見える。

美青年のジェイムズはずっと前から自殺を考えて、恋人ジェイミーへの遺書代わりに自分のマスターベーションなどをこと細かに撮影して残している。また自分がいなくなった後ジェイミーが一人にならないようにパートナーを増やそうとしていた。

新恋人セスを加えた、男三人の必死なセックスもとても面白くて・・・笑いが漏れていました。テスのお尻の穴に国家を大声で歌いいれるジェイミー。それぞれが口とお尻を接続させて三角形を作り、誰かの「向きを変えて」の声でみんないっせいに姿勢を変えたところは笑った・・・。

悩みを話し合える女友だち同士になったリンとセベリンも、最後には激しく愛し合ったりするし、かと思うとロブがセベリンに頼んでSMプレイをしたりする。

【エロスの終焉】

むき出しのセックスや、ひたすらに快感を追求する姿は、滑稽で、一生懸命で、ちょっと悲しい。

事実この映画はちっともエロティックではないのだ。観客が「そそらなかった」「抜けなかった」という感想を持つのは当たり前・・・というか、そんな期待をしていく人は気の毒。

60年代のアメリカの性解放・・・例えば大きなホールで行きずりの裸の男女が見境なく交わり、あらゆる行為が行われたという「プラトンの隠れ家」とどこが本質的に違うのかよくわからない。

人がセックスを自由に解放しようとすると、それだけエロティシズムから遠く離れていってしまうような気がする。
「恥」もなく「罪」もなく、何も隠蔽せず、何も禁止せず。つまりもう「侵犯」すべきものがないのだから、・・・まさにエロスの終焉。

本当の愛を見つける映画?それもなんだかなぁ・・・。

「ショートバス」の小世界は、「まともな世間」という外部あっての内部、という感じ。そこに入りさえすれば愛もセックスも安らぎも居場所も得られる、という安易なユートピア幻想があるようで気にかかる。

性を通じて自分を解放し、他人とつながることに柔軟になるということはわかるのだが、見た目はフリーセックスの阿片窟。仕切りも何もなく、多数の男女が床で、ソファで交わり合う様子は、饐えた体液の匂いが立ち上ってくるようで、私には理想には見えない。
ドラッグはあえて描かれないが、容易に入り込む世界に違いない。

人が持つ「つながりたい」という欲求についての物語だというけれど、仲間で作った映画、という側面が、見るものをかえって孤独にしてしまう。
ショートバスは、NYは、この映画は、昼日中からセックスに耽るような恋人達にのみ優しい。

普通の市民、税金を納め、子供を育て、一日働いてくたくたになって郊外のマイホームに帰ってくるような人々には、この門戸は閉ざされているように思える。
私はこのクラブに日中掃除に来る掃除婦(夫)のドラマというものがあったら、その方にリアルを感じますね。彼らの心に毎日芽生えるものは、微笑みや親近感とは逆なものでしょう。

う〜ん、つまらないこと言ってるかな・・・。

何度か日本映画「メゾン・ド・ヒミコ」を思い出させる部分がありました。
個人的には、絶対に「ヒミコ」が上に来ます。
ヘドウィグとヒミコはどちらが上といえないほどどちらも好きですが、「ショートバス」はこの二つに比べると切迫感が少ない。

ヘドウィグは、仲間の中にあっても徹底的に孤独だった。孤独なばかりではなく、恋人をも仲間をも傷つけ、挑発し、自分の元を去らせるほどに傷ましかった。
自分に唾するすべての人間を受け入れて、その前に「ベルリンの壁」になって立ちはだかり、「引き倒せ!」と叫んだ。

「メゾン・ド・ヒミコ」(ゲイのための老人ホーム)の主人ヒミコ(田中泯)は、ショートバスの主人と似ているけれど、自分の捨ててきた家族、自分の死に1人でしっかり向き合っていた。恋人春彦(オダギリジョー)も、愛し合ってはいてもヒミコの内面と一つになれるわけではない。人はどうしようもなく1人きりで、その上でつながりたいのだ・・・。生命の横溢するショートバスに比べ、「ヒミコ」は老いと死と別れを見つめていた。

ショートバスにも、老いたNY市長が出てくるし、更年期の女性の性も描きたかったけど演じる人が見つからなかったという。そういう発展形もおもしろそう・・・。
まあ今回の映画は、無理に老いやら死やらに目を向けず、あえて超ハッピーなものに仕上げたかったのかもしれない。辛口気味になりましたが、後でまた別の感想も生まれるかも。
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