柳楽優弥・菅田将暉の対決(映画『ディストラクション・ベイビーズ』)

June 13 [Mon], 2016, 1:21
『ディストラクション・ベイビーズ』を観に行った。
真利子哲也監督の商業映画デビュー作。
都内ではまだテアトル新宿でしか公開してない。

面白かった。
映画の中に行き場のない熱や焦燥が充満している。
疾走感があり、暴力満載だがじめついたセンチメントがないためか爽快感すら感じた。
救いは示されてはいないが、絶望シネマとも違う。
鑑賞後、しだいに思いだすたびに詩情をともなってくるのは、ロケ地松山のせいか、役者個々のたたずまいのせいか。

何といっても最大面白さは、柳楽優弥と菅田将暉の演技対決、である。(これが楽しみで映画館に行ったのだ)。
まあご存知のように当方は、作品に接するたびに傾斜の度をがひどくなる菅田君ファンなので、いろいろ割り引いて読んでくださってかまいません。

【柳楽優弥の「存在感」】

監督も二人のスパークを期待していたのか、柳楽君に「菅田君に食われてるようじゃダメだよ」と言ったとか。
ははははは・・・・これは効くねえ。監督業は楽しそう。

さて、この2人の対照的な演技者、そして若手の村上虹郎(村上淳とUAの息子)と小松菜奈をメインにしたこの作品。
初日あいさつでは「世代交代だ!」と柳楽君が気を吐いたとか。(他の方々はそう思ってるかどうかはわからない・・・。)
だいたい柳楽君はもう20代半ば過ぎ。顔は30代半ばくらいに見える。「ベイビー」はつらい。菅田君は23歳だけどそういう言い方はしないタイプに思う。

とはいえ、何かと露出の多すぎる菅田君より、柳楽君に注目が集まるのは確か。(主演だし)

あんな「純粋暴力装置」のような「存在」を演じられるなんて、信じられないと言えば信じられないよね。
最初に驚いたシーンは家出後最初の暴力シーン。なにもしていないギター男をつけまわして暴行し、その上一度目は完敗のボロ負け。
その気持ちよさそうなボロキレ状態から、再度の挑戦。勝つまでやる。
ここで泰良が完成したように思う。(その後、驚いたことに変化はないように感じた)
人間性の何かをあえて欠落させた、(少なくとも私には)理解不能な生き物として。

監督はどこかで、「若いとき何かに夢中になることは誰にでもある。泰良にとってはそれがケンカだっただけ」(うろ覚え)と言ってた。
?そうなの?
全力で何かやって、大敗北でも気持ちいい、というところまではわかる。(ガチな殴り合いはしたことないけど)。
けれどしかし、相手の痛み、自分の痛み、というのが伴うケンカを、他の勝負と同列には考えられないんです。私は、ですけどね。
つまり、「相手の痛み」を考える回路をある程度切ってしまったんだろう。(もともと乏しいという可能性もアリ)

だからもちろんサディズムもそこにはない。自分が強い奴として相手を屈服させていないと不安であるとかそういう支配欲めいたものも全くない。
「楽しければいいけん」と言ったときの車中の泰良は特に楽しそうでもないのだが、強い相手と殴り合ってる時の彼は実に楽しそう。

いよいよ「人間じゃない生きもの」に見えたのは、スーパーマーケットで売り物のソーセージをわしづかみにしてむさぼり食う場面。
路上で(ゴミ袋を寝具にするようにして)寝、店の中のものをつかんで喰い、服は誰かを殴って「脱げ!」と言って奪う。ふ〜ん、暴力だけで生きていけるのか。とやや感心しつつ、この生き方を続けるのはいかにこの人間でも何年できるものか・・・。

こんな奴が生まれるためには、それ相応の「物語」がないと納得しがたいのは、私の悪いところなのかもなあ・・・。
潔く「個人にまつわる物語」を切り捨てたのがこの映画の良さだということは何となく感じるのだけれど、泰良に「共感」はできない。

この人、オオカミ少年でも何でもない、親には捨てられ、貧しい暮らしだったとしても、養父役のでんでんに無骨ながら愛情をかけて育ててもらい、少なくとも虐待されたりはしていない。弟にも慕われているお兄ちゃんなんだよね?(←泰良の人間性の唯一最大の証明)
路上で同じ学校の数人にボコられ、その中の弱いヤツ一人にくらいついてボコボコにする。それが家を出て暴力に明け暮れるきっかけになるのか?

すでに「こいつの兄ちゃんケンカ強いんやで」と評価を得ているし、冒頭のケンカででんでんに「いつまでこんなことしとんや」と言われてるのだから・・・あのとき新たに何に目覚めたの?それとも、もともと元っからこういう人間なの?

そういうことが語られない(あえてぼやかしている)から、私は柳楽の演技に「なんだかすげえ」と言うしか言葉がない。
むしろ理解を拒むようなオブジェとして完成しているから、この作品での柳楽の演技は褒めまくられているのかなあ。
柳楽の演技が一般に、(「二言目には」どころか「一言目から」)、「存在感」という便利な言葉でばかり褒められるのは、本人にとってうれしいのかどうなのか・・・?
驚きはするけれど、泰良だけならかなり変な暴力マシーンのようで、映画自体にも共感しなかったと思う。

柳楽優弥といえば、『誰も知らない』というスゴイ作品(これを観てない日本人は絶対観るべき)でカンヌ主演男優賞を取ったことで、後年何かと苦労したということ。だろうなあ。

しかし数年前『許されざる者』のアイヌ青年役で見た時、「これがあの柳楽優弥?」と驚いた。さらにドラマ『アオイホノオ』での焔モユル役は、良かった〜〜〜〜!(とにかくあの作品は好きすぎるのだが、柳楽君の熱演も大きい)。あとは、『信長協奏曲』でも今の『ゆとりですがなにか』でも出演。今や売れっ子と言っていいが、私は更なる変化を期待したい。

【菅田将暉演じる、クズガキ裕也の共感性】

理解不能な生き物として存在感を持たせる演技と、人間の卑小さ(醜さ気の毒さ…)をとことん理解させる演技では、どちらが難しいのだろう??
そういう問いも、「柳楽×菅田」対決の見どころだと思う。

演技のベクトルがまるで違うんで異種格闘技みたいなものだけれど、それでも同じ映画で演じれば観客の中で戦いになる。

確かに、柳楽優弥の泰良は「観たことのない純粋暴力の権化」を現出させることに成功している。これまでの暴力映画と違い、「卑小なヤクザの悲しさ」とか「暴力しかはけ口のない若者の閉塞感」とかウエットな理屈をつけないところが柳楽演じた泰良のすごさなんだろう。

そこへ行くと、菅田君演じる裕也は、あまりにもわからせえくれる。何がって、すべてが・・・。
前評判で「菅田将暉のクズっぷりがスゴイ」と耳に入ったが、観てすぐ、うん、これだよね。と思った。

脚本もうまい。
初めに裕也が泰良に出会った時、裕也は友達二人が泰良にボコられても遠くでスマホ持ってオロオロしてた。興味を持ってケンカを繰り返す泰良に、次第に惹かれていった。同級生たちとは違う、ギラギラしたアウトロー(アウトヒューマン)な魅力に、理解できないからこそ惹かれていく。

その役を菅田君がやってくれるから、観る方も観る方なりに泰良の魅力を感じ取れたような気がする。裕也役は「狂言回し」とどこかで言われていたが、それ以上。
彼がいなければ「暴力アート映画」で終わった可能性も・・・。
柳楽泰良でなければこの映画の存在意義はないが、菅田裕也でなければ柳楽泰良は空回りで終わる。
正直なところを言えば「泰良に惹かれて淵にハマりこんでいく裕也」に、私はドドドドと傾斜していったのである。
「泰良という存在に出会ってしまった少年裕也の悲しさ」の映画と感じた。

泰良の暴力を恐れながらつけまわしてしまい、倒されて殴られるかと思った時に「脱げ!」と泰良に言われてお気に入りのシャツを奪われる。その後驚いたことに裕也は泰良の汚いシャツ(何日もケンカの血と汗まみれで、生ゴミ置き場で寝てたりしてるから近寄るとどんなに臭いことか!)を着て、それなりに納得してそのまんま映画の最後まで着てるのですね。

これが一番キタかも。お母さん目線としては、とにかく一度二人で「くっせえなあ」とか言いながらコインランドリーに行くシーンを作って欲しかった。銭湯は無理でも。

で、予告とかであったように、「俺と組んで、おもしろいことせえへん?」となるわけだが、それが最悪の組み合わせが、最悪の化学変化を起こす、という話。

泰良に目をつけたのが、ボクシングジムのコーチかなんかだったら、良かったのにね・・・「おめえ、そんなにケンカが好きか、世界で一番強い奴らと戦ってみねえか」と持ちかければ、いい選手になったかもね・・・(お互い投げ出す可能性も強いけど)

「でかいこと」に発展したのは、松山の大街道での通行人を巻き込んでの喧嘩シーン。
裕也が女ばかり殴るのが笑えるほど情けなくて悲しくて(でもなんだか「わかる」し、可愛いんだ)。
強いのが出て来れば泰良に回すから怖くない。「オレけもの使いじゃねえ??」と、本気で目を輝かしていた。

でも、やはり女とかオバサンとか占い師とか、戦闘力のない草食動物を襲うのがこの社会では一番リスクが高かったのだ。
泰良だけで不良やヤクザやボクサー崩れら肉食動物同士激しくケンカしてた時は騒がれなかったのに・・・。

予告を見てちょっと思ったのは、てっきり裕也が半端な頭脳犯役で、ネットを使って世間を相手取って大騒ぎさせてやろう・・・というパターンだと思ってた。けど、そうでもなかった。スマホでは裕也も撮りまくってるけど、画像や動画をアップしていたのはもっぱら世間の方。
ナナの誘拐にしても、コトを大きく面白くしてやろう、という意図じゃなくたまたまだったのね。

これ以上は後半のネタバレになるのでやめておく。
とにかく、少年らしい痛ましい犯罪。痛ましい結末。その悲劇をしなやかに愛しく演じるのに、菅田将暉ほど適任者は居ない。
まあ彼の作品を(初期以外)ほとんど見ているので、想像していた通りの部分もあるけれど、菅田君のこれまでの集大成になるほどの好演だったと思う。

この映画を「俺たちに明日はない」に例えている人がいたが、そう言った人は多分裕也目線なのだろう。
「物語」のない映画に、裕也が強烈に「物語」を作っていく。最初から最後までぶれずにケンカをしているだけの泰良が、裕也の目に映ることで滑稽味を帯びたりカリスマ性を帯びたり、不気味な怪物に見えたりする。
すべて菅田君の表現力・・・また共感力のたまもの。

『ディストラクション・ベイビーズ』を見て、菅田君の演技については「演技派の彼の実力」と簡単に褒められていることが多いけれど、演技力だけじゃないんですよ。菅田君は、全身全霊、常に役にのめり込んでやるんですよ。

パンフレットの中の文章に、泰良の暴力は「相手を損なうときに、たいていは自分も損なわれている」とあった。泰良は顔や指の付け根を腫らし、血を流し、鼻をつぶし、奥歯をなくしている。
しかし裕也の暴力について、以下のように書いてあったのは疑問だ。
>一方で主人公をコントロールしようとする高校生は、どうか?彼は自分は損なわれずに、徹底して損ないうる相手ばかりを求める。つまり「女をボコボコにする」というやつだ。(古川日出夫)

ここを読んで、「絶対違う!」と思った。
「自分は損なわれない相手」を損なうことで、精神的には非常に損なわれ、リスクを負う。同級生が殴られるのを見ているだけ、という経験は、殴られるよりはるかに彼の精神に傷をつける。女を殴ったリスクは悲劇へ転がるきっかけになる。だから破滅に向かって傾斜していくのは裕也だけだ。(ディストラクション・ベイビーズとは言ってもチーム性は皆無なのだ。あるとしたら裕也の中に幻想としてあるだけ)

菅田君についてさらに言うならば、彼も無意味な暴力や性暴力に明け暮れていた役を演じたことがある。映画『共喰い』の主演で。でも彼は果てしなく暴力をふるう方であっても、被害者以上の痛ましさを感じてしまう。
また『闇金ウシジマくん2』のマサル役は、原作でも非常に一筋縄ではいかない難しい役(甘え上手だったり、非情な暴力に及んだり、ウシジマに見込まれたと思えばとんでもない裏切りをしたり・・・)なんだけど、菅田君ならでは!とうならせる演技をしてたなぁ。
だから、受ける役が違うというより、演技そのものの方向性が違うのかも、と思う。

ただ、裕也(柳楽と同じ「ゆうや」なのでちょっと間違えやすい)の片想いで終わった感じなのがちょっと悲しい。
裕也(菅田君)が、「俺ケモノ使いじゃねぇ?」と何度か昂揚するセリフがある。
確かに、そう見えないこともなかった。誰にも抑えられない泰良の暴力を、裕也がツボを上手くつかんで好きな方に向けさせていた。・・・中盤までは。
そこから、友情(バディ)めいたものになるんじゃないかと薄々感じたのはスゥートな私の感傷。
結局は、何一つ泰良の心に残してないかのようである。裕也の存在を気にするくらいなら、捨てた弟のことを何も考えないはずもないから。

まあ、「ファンだから」の一言で片づけられても仕方がないけれど、今思いかえして泰良の凄味のある目力よりも、叫び、転げまわり、泣き笑い、舞い上がったり絶望したり自棄になったりとキリキリ舞いする裕也の方が、はるかに心に残っているのだ。

菅田君への心配は、あまりのハードスケジュールで、どの仕事も心血を注いでやるタイプだから、プツンとキレたりしないか・・・ということ。
だってこの人、人間に対しても一生懸命だもの。ダウンタウン愛の凄さや二階堂ふみとの男女を越えた親友関係、小栗君に近いかと思うほどの交友関係。トークでもいつも受けやサービスに徹するし・・・。

【虹郎くん、舞台、その他】

ほとんど柳楽君と菅田君のことについて書いてしまったが、それが書きたかったことなので、もういいかな。

でも、ほかにも語りたい部分が少しあるので、駆け足で。

村上虹郎演じる泰良の弟は、この映画の中で非常に重要だ。彼は、兄のやったことで色眼鏡で見られ、孤立し、無理解に苦しむ。それでも、彼は兄のようにはならない。心の中のモラルと、恨みつらみと、いろんなものを抱えながら、彼の柔らかい精神はどういう旅路をたどるのだろう・・・。
それプラス、役者村上虹郎の今後が非常に楽しみ。

小松菜奈は、好きな女優でもないし特に美しいとも思わないのだが、この映画におけるナナ役にハマっていた。好感度とか全く気にしないんじゃないかと思うような、捨てるもののないふっきれ感は彼女ならでは。なにしろ「小松菜」なんて冴えない野菜(好きだけど)の名前で平然と女優をやってるのがスゴイ(じゃ、ないですか?)。

そして、ローカル色豊かなファッションのヤクザ役(池松壮亮ら)、不良役(北村拓海ら)が絶妙にハマっていた。

全編四国で撮影したという。
松山と、その周辺の小さな町三津浜が舞台。三津浜から家出して松山市を放浪する、というスケール感の小ささがリアルで面白い。「大きいことする」裕也の目標が「とりあえず四国巡業」だったり・・・。
数年前初めて訪れた時、偶然「ケンカ神輿」の夜だった。エネルギッシュでにぎやかだったが、怖いとかそんな感じではなかった。情感のあるにぎやかな街。道後温泉、大街道、坊っちゃん、子規庵、松山城、路面電車・・・。
大好きになった松山を舞台にしてくれて、嬉しかった。
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