秋は映画三昧(後編)

December 12 [Wed], 2012, 18:10
『任侠ヘルパー』★★★★
『あなたへ』★★
『黄金を抱いて翔べ』★★★
『レディ・ジョーカー』(2004年・BS視聴)★★★★


先週には見事だった銀杏並木がほとんど散っている。
もうとっくに冬なんですよね。今週は一段と寒いです。
秋の映画も観たのがいろいろあって、ちゃんと感想を書こうと思ってるうちに月日がどんどん過ぎる。

またしてもまとめ書きで・・・・。

【任侠ヘルパー】満足度★★★(五点満点中)

この映画、「どれだけ本気で作ってきたか」というのが最大の関心だった。
テレビシリーズをそんなに真面目に見ていたわけではないけれど、映画のメイキングを見ているうちに期待が高まったので・・・。

前半、やってくれそうな感じがした。
なにしろ、老人ホーム「うみねこの家」のリアルが半端ない。
ベッドもなく人の幅しかないような個室で、万年床に昼夜寝かされっぱなしの老人たち。足の踏み場もない部屋のゴミの山にうっかり触れるとウ○コがくるまれているモノに触ってしまう。手足をつながれた老人もすでに排泄物まみれ。悲惨さと、強烈に臭ってくるような汚物感で画面に目をそむけそうになった。
押しかけ舎弟の成次(風間俊介)が臭気に耐えられず目をそむけたのに、彦一は表情を変えない。
「あんた、平気なのかよ」
ここを見たとき、「本気だな!」と感じた。

ヘルパーは一人しかなく、これも高齢者。昼間から焼酎壜をあおっている。ただしここに一人で置いとかれては、改善努力より無気力無力感の方に潰されるのもわかる・・・。
この劣悪な環境が利用者の家族に訴えられないのは、家族の方も痴呆老人の厄介払い先が他にないから。悲しい構図だが、入居者の家族も、貧困ビジネスの担い手なのだ。
物語は、老人と家族と、市の職員や議員や、地回りのヤクザたちが織り成す社会派の側面を堂々と出している。

シングルマザーの安田成美が痴呆の進んだ母親を連れてやってくる、というあたりから話が動く。市の有力者八代(香川照之)のつてでまともな施設に入ったものの、痴呆が進みすぎて施設を追い出されてしまったからだ。
安田成美、久々に見ましたがきりっとして良かったです。
風間俊介の素直な演技もいい。
冒頭のコンビニ強盗に入る堺正章、大事な役をいい味わいで演じてました。
草村礼子、りりぃ、品川徹など老人達もとても良かった。
品川さんは、ジャージの股を濡らしちゃったり、ピンクレディーを「せくし〜」と小声で歌ってたりして目が離せない。

「どいつもこいつも、ジジババに人生振り回されてる」(彦一)。
それは事実。誰にとっても他人事じゃない。
だけどもちろん、ジジババだって若い人の人生振り回したくて振り回してるんじゃない。奪いたくて奪ってるんじゃない。これ以上迷惑掛けずに死ぬべきなんじゃないかと思って悩まない日はないんだよ。(自分も多分アルツハイマー予備軍なので、老人目線でそう思う)。

ローカル色、地方ならではの事情もうまく取り入れられている。
田舎のホステス役の夏帆が、彦一にちょっと惚れて自分のアパートに連れてきた。生活感あふれるアパートで布団に入ろうとした途端、隣の部屋に四人の弟妹が息を殺してひしめきあっているとわかる。
「アニキの出所祝」として宴会を開いた大広間が悲しくだだっ広い様子のもわかる・・・。キャバ嬢の踊る「渚のシンドバッド」のにぎやかな物悲しさ。流れるヒット曲が昭和ばかりなのも、微妙にリアル。
ヤクザが思いっきり田舎ヤクザなのも、たまりませんなぁ・・・。

感動したのはやはり、ベタだけど施設が生まれ変わるシーン。
彦一が「今日からこのゴミタメみたいな施設をまともな施設に変える!」と宣言するのはCFでおなじみ。
みんなの力でうみねこの家が生まれ変わっていく。汚物ばかりの部屋の仕切りがのこぎりで破られ、白木で新しい部屋に生まれ変わっていく。老人たちに可能な仕事が割り当てられ、ボケていたはずの老婆が見事に野菜を切ったり、生き生きと歌ったり彦一を「市川雷蔵みたい」と言って目を輝かせたり笑顔を見せたり。なんだか嬉しくなった。

後半の、市との確執やヤクザの立ち回り等の「盛り上げ部分」になると、若干つまらなくなってしまった。
なぜかといえば、このあたりからリアルが薄れていくから・・・盛り上げるためにアクションを増やし、老人と老人ホームに向かっていた細やかな視線がありきたりの感動モノになっていく。
結末は無力感と希望がない交ぜになった感じだが、救いは当事者である老人たちの中に感じられた。

草g君、非常に真剣な熱演です。彼の誠実さ、演技力、それはわかっているのだけれど、コワモテヤクザという「素」と正反対の役をするために、草g君は自分の柔らかい「地」を封印してしまった。ガチガチにハード一辺到な演技(かつほとんど一種類の表情。寝てる時すら)だったため、見ているほうも肩が凝った感あり。
それでも根っこが優しい奴だということは見てる方が良くわかってる。
だから、「拒否して背を向け、ひとりで歩き出した」時にはもう、「助けに行くスイッチ」がONになっちゃってるのがミエミエ。
コワモテの中に、ほんの一瞬素の柔らかさが覗いたり、ヘタレ感があったりすると、もっと複雑でいい味わいになるんだと思うけど・・・。

仕方ないのかもしれない。草g君がどう、というより『任侠ヘルパー』の限界。

彦一が憧れる「ほんまもんの極道」、任侠道の「弱きを助け、強きを挫く」が介護の世界に通じるんじゃないか、と制作側が言っていたようなのだが、現実は逆でしょう。上には徹底服従、相手が弱いと見たら徹底的に絞り上げる、弱いものはヤクザものを見たら小さくなってるしかない。

介護問題、高齢化社会問題は、あまりにも重く、大きい。
そして誰しも不可避的に顔を合わせる問題なのに、目をそむけたくなる。

ドラマ『任侠ヘルパー』は、タイトルでわかるように、多分最初の発想はコメディーだろう。
若手組員の出世争いに、「介護ヘルパーになる」というありえない課題を選んだのだから。
それが次第に社会派感動モノになっていった。
介護問題を正面から取り上げるのを避けてミスマッチな視点からエンターティメントに仕立てた、というのは一票。

しかし、映画版はそういうコメディチックな課題としてのヘルパー体験記ではない。ヤクザのシノギの一つとして、利益の大きい貧困ビジネスがあるというのは事実だろう。
制作側は本気で、介護問題に取り組もうとした。草g君もその気だった。それは半ば成功したが、あとは無理範囲。NHKスペシャルでドキュメンタリー番組を作ってもらうしかない。

今後この問題でエンターティメント映画を作るとしたら、老人たち(+α)自らが学生運動のときに培ったノウハウで銃器や爆薬で武装し、職員を人質に取ってバリケードでホームを封鎖し、日本国を相手取り、ホームの敷地を独立国として認めさせる的な荒唐無稽な痛快アクションを目指すしかない。
アナーキーなジジババが画面を暴れまわる痛快エンターティメント映画が観られることを期待する。(主演は山崎務か。今回好演した品川徹も是非)

堤幸彦あたり、やってくれるんじゃないかな。もしかしたら『20世紀少年』の老後版エンターティメント活劇として。

エンドロールのバックは不思議な映像。
「うみねこの家」の近くとおぼしき海沿いの坂道を、ひとりの老女がカートを押しながらゆっくりゆっくり歩いている姿を映しているだけなのだ。それもぐっと引いたロングで、うつむいた老女の表情は見えない。彦一が映るわけでも、映画のアクションシーンがロールされるわけでもない。
私はここに、「我々がこの映画でできることはこれまでだ」映画を見て終わりにせず、「現実に生きているひとりの老人をちゃんと見ろ」というメッセージ性を見た気がする。

【おまけ1『あなたへ』】満足度★★

そういえば二ヶ月ほど前、高倉健さんが主演、草g君も出演した『あなたへ』も観ました。草g君、健さんと演技についていろいろお話して、それが『任侠ヘルパー』につながったらしいです。
あの映画の中の若い駅弁会社の草g君はとても良かったなあ。健さんを意識して彦一を演じたんなら、う〜ん、草g君の地の良さが出た、『あなたへ』の演技の方が好きかも。

健さん入魂の演技を観たくて行った映画。
大滝秀治さんの遺作としての価値も大きい。
ベテラン勢の名演技の中、綾瀬はるかと三浦貴大もフレッシュで良かった。
田中裕子の愛らしさには参った。けれど最後、奥さんそれはあんまりでしょ・・・・。この夫婦の愛のあり方が、よくわからなくなった。
内容のほうはもの悲しくて(美しい映像風景もますます物悲しさに拍車をかけて)、人生の機微に満ち満ちすぎていて、夫と見るんじゃなかった・・・(なんだか重たくなってしまった)。

いい映画かどうかに関わらず、哀愁漂うロードムービーが、ちょっと苦手かも。(西田さんの『星守る犬』よりはマシだけどね)。

【黄金を抱いて翔べ】満足度★★★

高村薫原作の痛快アクション映画。
井筒和幸監督が原作にほれ込んで、念願の映画化だそう。

強盗団のメンバーが魅力的。謎めいたリーダー北川に浅野忠信。彼がジャイアンなら俺はのび太、と言う金庫破りに妻夫木聡、北川の弟でメンバーに加わる溝端淳平、システムを破るSEに桐谷健太、祖国逃亡中の爆弾魔モモにチャンミン、調達屋「相談役」西田敏行、の6人。

これらかっこいい男たちが、息もつかせぬノンストップアクション犯罪劇を繰り広げる、という至極単純明快な物語なのだ。

舞台が大阪でなかったら、この映画の魅力は半減だろうなぁ。
それくらい背景が効果的。
たこ焼きがどうとか、サバの押し寿司がどうとか、親しみのある食べ物関係もなんだかいい。
犯罪計画の話をしていると小耳に挟んだおばちゃんが突っ込んでくるなど、笑っちゃう場面も多い。最近のドラマや映画ならそのおばちゃんもエージェントだったりするんだけど、素直に使ってます。

中盤まではほぼ満足、しかし後半の犯罪部分は、メンバーも減ったしその割りに緊張感がちょっと足りないような(警備員とのエレベーター前での部分に時間を使いすぎてるし)・・・。
私の理解力が足りないのだと思うが、最後、誰が生き残ったのか、金塊がどうなったのかさっぱりわからない。さりとてもう一回見る意欲も、原作を読み合わせようという意欲もあまり湧かないのはなぜかしら・・・。

井筒監督作品にしては、本作はカッコいい普通のエンターティメント映画になったように思う。
大事な仲間が死ぬ場面も幾つもあるけれど、それでも。

私にとっての井筒作品と言えば、『パッチギ!』『ヒーローショー』。
『パッチギ!』は、当時無名に近い若手高岡蒼佑、塩谷舜、小出恵介、波岡一喜らをメインに日韓の若者のぶつかり合いを描いた作品。
『ヒーローショー』になると、さらに無名の若者達を使った夢も希望も救いもない痛すぎる物語だった。暴力映画としても非常に異質だった。
どちらもテーマ性が強く、見るものの心に「痛み」を強烈に残したと思う。
無名の若者集めて彼らをガンガン追い詰めながら人生を叩き込むように映画を作っている監督、というイメージを漠然と持っていた。

それに比べると、ずいぶんメジャーな人気者イケメンばかり集めてきたなぁ・・・
浅野忠信×妻夫木、妻夫木×チャンミンの関係なんかは「ん?我々狙われてる?」という萌えっぽい雰囲気すらあり。
一筋縄ではいかない、最後まで正体のわからない浅野さんが良かった。
妻夫木君は最近『スマグラー』『悪人』とか、顔汚しちゃう役が多いですね。
東方神起は全然知らないのだけれど、チャンミンいいね。モモという役もピッタリ。イケメン度では溝君は負け・・・。
桐谷君は唯一大阪弁キャラ。メガネをかけると見事にエリートSEっぽくなるね。普通に緊張しまくるし、ちょっと抜けてるのも共感度大。

うん、映画を見たなぁ!という満足感はあったのだけれど、意外とムード優先で、ズシンと心に残るものは無。登場人物もあまり背景を描かれない。
そのあたりがすっぱりとして潔いという感じもするけれど、食い足りなさもあり。

【おまけ2『レディ・ジョーカー』】(2004年)満足度★★★★

『黄金を抱いて翔べ』と同じ高村薫の犯罪アクション映画。2004年、平山秀幸監督。事実上の処女作の黄金と比べ、最高傑作との呼び声もある。
来春WOWOWで連続ドラマ化される(耕史君も出演する)ので、遅ればせながらBS鑑賞。

いろいろ似ている。巨大企業を相手取り、壮大な犯罪計画を意図する仲間たちの話。
ただし、重厚さが桁違い。日本昔話かおしんの少女時代かというような雪深い寒村の貧しい家に、就職した兄が首になって帰ってくる・・・という最初のシーンで鳥肌を覚えた。その後も被差別部落問題、障害者、戦後復興の陰に隠れた物語などがてんこ盛り。重厚かつ緊密に話が進み、「飢餓海峡」か「砂の器」かというくらいの「ザ・日本映画」だった。
「おお、こんな名作なんでスルーしてたんだろう!?」とまで思った。
主演渡哲也を含む犯行グループに、大杉漣、吹越満、加藤晴彦、吉川晃司。彼らの犯行の動機が重要なところが、黄金との一番の違いかな。

ただ、この物語も消化不良。あとになるほど地味になり、「えっ?ここで終わり??」というところで終わった。私の理解力がよほど足りないのか・・・。

壮大な物語なので、3月のWOWOWを楽しみに待ちます。

もう一本、堺さんと山田くんの『その夜の侍』も観たんですが別記事にします。
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