本文に使われてこそ 『ドブネズミのバラード』より

November 05 [Tue], 2013, 21:59
活字書体を設計している者として、書籍の本文に使われるのはとてもうれしいことだ。
 近代明朝体以外の書体が本文に使われることは、稀なことなのである。書籍の本文は、印刷会社やフォント・ベンダーの違いこそあれ、まず近代明朝体だ。初心者向けのテキストでは「本文には明朝体を、見出しにはゴシック体をつかうこと」と書かれているぐらいだ。近代明朝体以外の書体を使うことはかなり勇気のいること……というのが現状である。
 さらに欣喜堂の書体は、パーソナル・コンピューターなどにバンドルされているのでもなく、大手のフォント・ベンダーによる年間契約システムに入っているわけでもない。技術的に高性能というわけでもなく、収録字種も多くはない。そんななかで、わざわざ選んで、わざわざ買っていただき、しかも本文に使うということは、たいへんなことだと思う。

 「きざはし金陵M」を本文に使っているのを、私が最初に発見したのは、『ドブネズミのバラード』 (瓜田純士、太田出版、2008年9月12日)と、『ピラニア〜雨の街、俺たちの絆〜』(瓜田純士、太田出版、2009年3月19日)であった。


●『ドブネズミのバラード』


●『ピラニア〜雨の街、俺たちの絆〜』

 何かに導かれたかのように、池袋の大型書店のサブカルチャーのエリアに迷い込んだ私は、「風俗・エロス」というコーナーで、この本に偶然出会った。ここに足を踏み入れたのは初めてのことだった。
 意外であった。「きざはし金陵M」が、この作者の、このような作品に使われることは予想もしていなかった。しかも横組みである。「なぜ、このような本にきざはし金陵M?」とある人にたずねたら、「(近代)明朝体だとまじめになりすぎるんで、きざはし金陵Mにしたんじゃないの?」と。
 なにはともあれ、本文に使われた記念すべき2冊であることに違いはない。もしかすると、ほかに見落としているものがあるかもしれない。今後さらに多くの書籍に、欣喜堂の日本語書体が使われていくことを期待したい。これらは、その小さな一歩なのだ。

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