竜爪から龍爪へ

September 30 [Mon], 2013, 8:26
この漢字書体がはじめて実際に使用されたのは、『ヴァチカン教皇庁図書館展』図録(印刷博物館、2002年4月)であった。まだ試作レベルであったものをデザイナーの白井敬尚さんにみつかって(?)、必要な漢字だけ制作した。このときにはまだ名前はなかった。


●『ヴァチカン教皇庁図書館展』図録

 もともと『Vignette05 挑戦的和字の復刻』(今田欣一著、朗文堂、2002年7月)での組み見本用として制作していたものだった。そのときには「成都」(仮称)としていた。編集者による文章の添削(?)のために発売まで時間がかかったので、こちらのほうが後になってしまった。
 「挑戦的和字の復刻」というタイトルは編集者の命名なのだが、「和字書体の挑戦的な復刻」ということだろう。同時に「漢字書体の挑戦的な復刻」も構想しており、和字・漢字・欧字書体の組み合わせによる総合書体として考えていたのだ。


●四川刊本『周醴』(静嘉堂文庫所蔵)

 書体の名称は欣喜堂で決めている。書体のコンセプトにかかわるものなので、命名権だけは譲れない。重視しているだけに、二転三転することも多い。「成都」(仮称)は、原資料である四川刊本『周醴』の出版地からとったのだが、書体のイメージとは違う気がしてきた。
 そこで、四川刊本の字様が、収筆部の形状から「竜爪体」といわれているので、そのまま「竜爪」とした。True TypeのリゾルバブルFOND リソースIDは「KRかもめ竜爪M」「KRさきがけ竜爪M」「KRもとい竜爪M」で登録した。(「KR」というのはTrue Typeの識別のためにつけたものでOpen Typeは「KO」である)


●FOND リソースID 登録一覧

ところが朗文堂からアドバイスがあった。「竜爪」(リュウソウ)は読めないので、販売するのが難しいとおっしゃる。そこでキャッチフレーズとして「四川宋朝体」をつけることを提案したが、今度は「四川」(シセン)が読めないとのこと。かくして朗文堂で作成されるCDジャケットやブックレットの「竜爪」(リュウソウ)、「四川」(シセン)には、ふりがなが付けるということになった。
 これで一件落着だと思いきや、ファクシミリで送られてきたCDジャケットのデザインには、「竜爪」ではなく、「龍爪」と書かれていた。FOND リソースIDは登録しているし、ほかの販売店にも通知していたのでちょっと困惑した。だが、「龍爪」のほうがかっこいいし、字体が違うだけだし、人名用漢字だし、JIS第一水準だし、繁体字では「龍爪」になっちゃうのだし、もう面倒になってしまって、そのまま「龍爪」を受け入れることにした。結果的にはこれでよかったと思っている。
 「龍爪」は北京北大方正電子有限公司との提携で中国語フォントとして制作され、同社より発売される予定だが、その場合には「方正龙爪」となるはずである。「竜爪」でも「龍爪」でも「龙爪」でもいいのだ。発音は(リュウソウ)でも(Longzhua)でもいいのだ。いずれにせよ「四川宋朝体」は書体名ではない。

漢字書体「龍爪」のこと。
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