嵯峨本はミステリー

July 12 [Sat], 2014, 11:58
和字書体「さがの」は、影印本の『伊勢物語 慶長十三年刊 嵯峨本第一種』(片桐洋一編、和泉書院、1998年)から、単体の文字をサンプリングしてデジタル・タイプ化したものである。適切なサンプルが得られない字種は、『影印本 方丈記』(山岸徳平編、新典社、1999年)も参考にした。
 嵯峨本とは、京都の嵯峨で角倉素庵〔すみのくらそあん〕らが、慶長・元和(1596―1624)にかけて刊行したものである。おもに木活字をもちいて、用紙・装丁に豪華な意匠を施した美本で、13点が現存しているそうだ。

「さがの」は、三津田信三氏の小説『刀城言耶〔とうじょうげんや〕シリーズ』の講談社文庫版のカバー・デザインに使用されている。このシリーズは、2014年7月現在で7作が講談社文庫版として刊行されている。カバー装画は村田修氏、そしてカバー・デザインは坂野公一氏によるものである。
 小説家の刀城言耶が訪れた先で起こる民俗学的な怪奇事件に挑むシリーズで、ミステリランキング等で注目を集めており、とくに 『水魑の如き沈むもの』は第10回本格ミステリ大賞を受賞している。



厭魅(まじもの)の如き憑くもの (三津田信三著、講談社文庫、2009年03月)
首無(くびなし)の如き祟るもの (三津田信三著、講談社文庫、2010年05月)
山魔(やまんま)の如き嗤うもの (三津田信三著、講談社文庫、2011年05月)
密室(ひめむろ)の如き籠るもの (三津田信三著、講談社文庫、2012年05月)
凶鳥(まがとり)の如き忌むもの (三津田信三著、講談社文庫、2012年10月)
水魑(みづち)の如き沈むもの (三津田信三著、講談社文庫、2013年05月)
生霊(いきだま)の如き重(だぶ)るもの (三津田信三著、講談社文庫、2014年07月)
幽女(ゆうじょ)の如き怨むもの (三津田信三著、文庫版未刊)

このカバー・デザインにおける「さがの」にはふたつのミステリーが隠されている。「る」と「む」に違和感を覚えたのだ。
●「る」のミステリー
『首無の如き祟るもの』の「る」は「さがの」だが、『密室の如き籠るもの』の「る」は「なにわ」が、『生霊の如き重るもの』の「る」は「さきがけ」が使用されている。つまり、それぞれ異なった書体の「る」が使われていたのだ。
●「む」のミステリー
『密室(ひめむろ)の如き籠るもの』の「む」(ふりがな)は「さがの」だが、『凶鳥の如き忌むもの』と『水魑の如き沈むもの』の「む」は「なにわ」が使用されている。文庫版未刊の『幽女の如き怨むもの』の「む」は「さがの」のままなのか、「なにわ」に変えるのか、はたまた別の書体の「む」になるのだろうか。
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欣喜堂は活字書体設計をおこなっている会社です。日本・中国・欧米の書写と印刷の歴史にはぐくまれた活字書体の開発をめざしています。
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