東京五輪 1964 の頃  「めじろ」と「めぐろ」のこと

July 04 [Fri], 2014, 12:49
1964年の秋、テレビが我が家にやってきた。東京オリンピックを見るためだ。田舎でもだんだんと買い求める家庭も多くなってきていて、さすがに我が家でも東京オリンピックは見たかったのだろう。町の電器屋さんにすすめられて、富士電機製のテレビを買ったのだった。
 1964年10月10日、東京オリンピック開会式。テレビの音声を、オープンリールのテープ・レコーダーで録音した。直接接続はできずテレビの前に置いて録音したので、話し声も録音されてしまった。小学校4年生で、声変わり前の僕の声も入っていた。
 そのテープを何度も繰り返し聞いた。アナウンサーの実況をそらんじた。音だけで情景が浮かんでくるのだ。そのテープも今はもうなくなってしまった。それでも古関裕而作曲のオリンピック・ファンファーレと、オリンピック・マーチは、今でも覚えている。

ある日のこと、なにげなく父の蔵書を眺めていて、薄っぺらな一冊の書物を見つけた。ちょうど東京オリンピックが終わった頃に出た本だ。その本は『センサスの経済学』(児島俊弘・関英二著、財団法人農林統計協会、1964年11月25日)という。「1965年中間農業センサス副読本」とある。



 そのころ父は町役場の地方公務員で、農業指導員のようなことをしていた。くわしいことはよく知らないが、おそらく農業に関する統計調査も担当していたのではないか。そのためにこの本も読んでいたのだろう。
 読むというわけではなく、思い出にふけるというのでもなく、ただパラパラとページをめくってみた。そこに現れた本文の書体は、まさに昭和30年代、高度成長期をイメージさせるふくよかな和字書体ではないか。



 そうなのだ。たしかに僕が「ひのもとのゆたか」というカテゴリー名で分類しようとしていた代表的な和字書体がそこにあった。これがどういう書体かは調べないとわからないが、直感で「これは復刻しなければ!」という衝動に駆られた。

東京オリンピックに象徴される高度成長期に出版された書物の、豊満なスタイルの和字書体に出会ったことにより、「ひのもとのゆたか」というカテゴリーに中心軸ができたように感じた。同カテゴリーは「うぐいす」「ひばり」という鳥の名前から命名しているので、「めじろ」ということにした。



 もうひとつ。『センサスの経済学』には、ゴシック体で組まれたページもあった。どうやら本文の近代明朝体と対になるような、カテゴリー名「くまそ」に分類される和字書体である。ゴシック体でまとまった文章が組まれた例は多くないので、これも復刻の対象とした。財団法人農林統計協会の所在地にちなんで「めぐろ」と名付けた。

2020年に、2度目の東京オリンピックを迎えることになった。50年の時間をこえて、高度成長期を象徴する和字書体、「めじろ」と「めぐろ」も今、再生されようとしている。
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