それでも「志安」をつくる理由

November 15 [Fri], 2013, 8:14
「志安」という元朝体を制作している。「この手の書体は使い道がないなあ……」という周囲の声に耳をかたむけず、ことさら難しいのにもかかわらず。まあ、大手のメーカーではおそらく制作しないだろう。宋朝体でさえ、それほど多くは制作されていないのだから、元朝体などなおさらだ。
 明朝体や宋朝体は知られているが、元朝体はあまりなじみがない。楷書体系統の漢字書体は中国のそれぞれの王朝の時代をあらわす名称で呼ばれてきた。元朝体は刊本字様としては存在するのに、活字書体としての元朝体を私はみたことがない。だから作っておきたいのだ。
 もうひとつの動機は、宋朝体と元朝体の関係が、なんとなく欧字書体におけるローマン体とイタリック体に当てはまるんじゃないかと思うからだ。なんとなく……である。もちろんまったく無関係なのだが、私にはそのように感じられたから。なにか新しい使い方ができるのではないかと密かに期待している。


●『分類補註李太白詩』(勤有書堂、1310年)

 元朝体として私が取り上げた刊本は、『分類補註李太白詩』(勤有書堂、1310年)である。余志安の勤有書堂の刊本字様に、元時代の福建刊本の特徴がよくあらわれていると感じたからだ。
 元代は、モンゴル族による征服王朝であったために、漢民族圧迫政策がとられた。書物の出版にはきびしい制限が加えられたが、それでも福建地方の民間出版社では多くの書物を刊行していた。福建省北部の建陽と建安(現在の建甌)が中心地で、余氏の勤有書堂も建安にあった。
『分類補註李太白詩』は、李白の作品集の現存する最も古い注釈書だそうだ。その刊本字様は脈絡を残した行書風の書体で、これを元体、わが国の活字書体での言い方では元朝体となる。『分類補註李太白詩』をベースにして制作しているのが漢字書体「志安」である。書体名は勤有書堂の余志安から採った。




●『分類補註李太白詩』と「志安」の比較

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