カタカナの美学

November 09 [Sat], 2013, 19:29
和字書体「さよひめ」のカタカナは、『さよひめ』ではない。奈良絵本『さよひめ』にカタカナは存在していない。
 それまで制作していた「あけぼの」にも、「やぶさめ」にも、「たかさご」にもカタカナはなかった。ひらがなだけの書体とする手もあったが、やはりカタカナがあったほうがよい。そこで、これらの書体については、組み合わされていた漢字の部分の形象を参考にして新しく制作した。この方法はかつて「艶」という和字書体を制作したときに編み出したものだった。

 ある日のこと、池袋の大型書店で、鎌倉時代の写本を影印出版した『御所本十訓抄』(笠間書院、1993年)を何気なく手に取った。漢字カタカナ交じりで書写されたものだった。カタカナの書写資料のひとつとして、とりあえず買っておこうかと」いう程度のことだった。


●『御所本十訓抄』

『十訓抄』は教訓説話集である。1252年(建長4年)に成立しているが、編者には諸説あり未詳だ。少年たちに善悪賢愚の処世の道を示すために編まれたものである。『十訓抄』という書名の由来は、十ヶ条の徳目を掲げて、例話としての説話を集めていることによる。儒教的な思想をベースにしており、その後の教訓書の先駆となったとされる。

「さよひめ」のカタカナをどうしようかと悩んでいたとき、私の書棚にひっそりと置かれていた『御所本十訓抄』を思い出した。もちろん『さよひめ』と『十訓抄』とは関係がない。『御所本十訓抄』は鎌倉時代に、『さよひめ』は室町時代後期に書写されたものである。時代もずいぶん離れている。それでも、このような組み合わせにしてもいいのではないかと考えた。
 むしろ、別の資料であっても、あらたに書き起こすよりいいのではないかとさえ考えるようになった。私がどんなに考えたところで、『御所本十訓抄』にみられるような書風はでてこなかっただろう。所詮、自分の筆跡の中で右往左往するだけなのだ。カタカナはやはりカタカナの書写資料から学ぶべきものなのだ。


●『リアル・シンデレラ』

 『リアル・シンデレラ』(姫野カオルコ著、光文社、2010年)のタイトルは、太めてはいるが和字書体「さよひめ」で組まれている。『御所本十訓抄』をベースにして制作してよかったと、実際の使用例を目にして、つくづく思っている。
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欣喜堂は活字書体設計をおこなっている会社です。日本・中国・欧米の書写と印刷の歴史にはぐくまれた活字書体の開発をめざしています。
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