「くみうた」クランのゆくえ(1)

September 04 [Wed], 2013, 22:23
 一目惚れの場合と、じんわりと好きになっていく場合がある。明治時代の木版教科書、『中等国文 二の巻上』(1896年、東京・吉川半七藏版)の場合は後者であった。
 だから、はじめて出会ったときのことをあまり覚えていない。たぶんサンシャインシティ大古本まつりだったろう。そのとき明治時代の教科書は、使い古した段ボール箱に無造作に入れられ、1冊200円で売られていた。何かの資料になればというぐらいの気持ちで、数冊買った記憶がある。そのうちの1冊にちがいない。



 しばらくはそのまま置いていた。ある日のこと、なにげなく手に取ってぱらぱらと眺めていて、面白いことに気がついた。本文は楷書体だが、手紙文は行書体なのだ。欧字書体のローマン体とセットになったイタリック体を思い出した。楷書体と行書体をセットにした書体を作れないものかと考えはじめた。
 よく見ると、彫刻の味わいが残るいい書体だ。毛筆で書かれた文字が、彫刻刀でなぞられることによって力強さが加味されたようだ。まさに、じんわりと好きになってきた。楷書体と行書体、それぞれに組み合わされることを想定した和字書体を制作することにした。





 楷書体、行書体に、隷書体も加えようと思ったが、教科書に隷書体を使ったものはみつからなかった。ならば地図はどうだ。少し無理はあったが、昭和初期の地図『東京』(1934年、大日本帝国陸地測量部)の等線の手書き文字を参考にして、隷書体と組み合わせることを想定した和字書体を加えた。



 漢字書体の楷書体・行書体・隷書体をむすぶ書体の一族が誕生したのである。楷書体と組み合わせる和字書体を「ゆきぐみ」、隷書体と組み合わせる和字書体を「つきぐみ」、行書体と組み合わせる和字書体を「はなぐみ」とした。
 これにくわえて、もうひとつの大きな構想がふくらんできた。それは、「ゆきぐみ」を明朝体に、「つきぐみ」をゴシック体に組み合わせる和字書体を同じコンセプトで制作するということだった。大きさを工夫して、それぞれを「ゆきぐみラージ」、「つきぐみラージ」とした。漢字書体の楷書体・行書体・隷書体にくわえて、明朝体・ゴシック体をふくみ、それぞれがファミリーを形成するという今までにない壮大な構想ができあがった。
 これらの総称を「くみうた」クランとした。「くみうた」(組唄)とは、三味線や琴で既成の歌詞をいくつか組み合わせて1曲に作曲したものである。
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