00 / 2010年09月29日(水)
「お前か、新入り」

唐突に後ろから声を掛けられて、一瞬身がすくんだ。
いや、いくらここが地獄だとはいえ、声を掛けられて驚くようなことはない。
この無作法者はいきなり後ろから声をかけただけでなく、あまつさえ肩まで叩いたのだ。

こういう手合いとは口を利くのも煩わしい。肩越しのひと睨みで退散させようと視線を流したところ、思いがけないその容姿におもわず体ごと振り向いてしまった。

褐色の肌に、黄金の瞳。
肩口で切り揃えられた漆黒の髪と華奢な身体はそれだけ見れば少女のようだが、何故か半裸の姿にやはり少年のそれと判る。

幾分かあっけに取られたせいでまじまじと見ているように映ってしまったのだろう、際の紅い眦をきつく上げた少年が権高に言った。

「そうじろじろと人を見るな。無礼な奴だな」

「な・・・っ」

無礼、と言われたのは初めてだった。
どっちが、と言いたいところをぐっとこらえ、遠慮なく不機嫌を剥き出した顔をあからさまに背けた。
ところが人を無礼呼ばわりしたこの無礼者は相手の不機嫌さを汲み取ることなく、今度は顔を至近距離まで近づけて目前の人物を値踏みするかのように観察し出す。

「ふうん、怒ると綺麗な顔になるな。その髪も美しい」

一体それで大の男を褒めているつもりだろうか、ちっとも嬉しくない言葉を右から左へ流しつつ、さっき人をじろじろ見るなと言ったくせに今は自分が無礼だとは考えないのだろうかと、ちらと思う。
いい加減うんざりしますます口を利くのが嫌になったところで、一歩下がった少年がそれが癖なのだろうか、少し顎を上向け、

「ファラオ、という。お前がそう呼びたいのならば《様》をつけても良いが」

少しも悪びれずに自己紹介をやってのけた。

これは追い討ちだ。
どっと疲れたがまさか無視をするわけにも行かない。無礼者に無礼呼ばわりされるのはもう真平御免だ。

「ルネだ。よろしく」

短く言って踵を返そうとした時、少年――ファラオがにやりと笑った。

「ようやく口を開いたか。しかしもう少し喋らないと、声も及第かわからぬではないか」

「・・・なんのことだ」

それでは先程の失礼極まりない自己紹介は、口を開かせるための冗談だったとでも言うのだろうか。
しかしこの態度にあの科白しかもその名ときては素でも全くありえる事なので、どちらなのかは検討もつかない。いや、付けたくもない。
頭まで痛くなってきたルネに、ファラオはあっさりと驚愕の事実を告げた。

「裁きの館へ行くには、このファラオの統べる第二獄を通らねばならぬ。いくら冥闘士と云えども、ファラオの好かぬ者がファラオの視界に入る事は許されぬ」

つまり…

第一獄オーナー代理のルネは、第二獄オーナー・ファラオの持ちビルの中を通って出勤しなければならないということか。
ということは、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日………この要注意人物と顔を合わせなければならないと…

「何と云うことだ…」

自身の閻魔帳にすでに書き込み済みの人物と毎日接するなどと云う事は、沈着なルネにとってさえ苦痛でしかない。
いっその事裁きの館に居を移せば、との考えも一瞬よぎったが、ひと目で畏敬する人物となった上司に弱音を吐く等、自分自身が決して許さなかった。

「まあ、良い。お前は合格としよう。ファラオの第二獄を渡る事を許してやろう、ルネ」

咄嗟に「拝謝する」と言いかけた自分を、ルネは軽く呪った。




ルネとファラオの出会い。みたいな。

冥闘士の出会い始めって、仲悪そうだし馴れ合わなさそう。
アク強すぎる人ばっかで。笑
特にルネは潔癖そうだし、ファラオは直感だけで好き嫌い決めそうだから、水と油っぽい。
ファラオ、嫌いが圧倒的に多いんだろうなー

けっこう前に書いたのをサルベージ
 
   
Posted at 13:28 / ルネとファラオ / この記事のURL
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