15.スキなんて

December 20 [Wed], 2006, 13:22
「お、はよう」
「おはようございます」
「おはよ!智、伊藤君!」

同じ年頃の男女が、3人。
揃って朝食の席に着く。

外は快晴だし、小鳥のさえずりが聞こえる、さわやかな秋の朝だというのに。

「智。冷蔵庫の中のもの、勝手に使ったよ」
「う、うん」
加奈子は手際よく準備した3人分の朝食を、食卓テーブルの上に並べた。
その様子は、から元気にしか見えない。



あの後。

再び触れるかと思うほど近寄った伊藤の顔を見上げている智の耳に、玄関のチャイムが聞こえた。
しかも、その押し方が尋常じゃない。

「……」
「……」
顔を見合わせた2人は、何度か瞬きを繰り返した。
――たぶん、同じことを考えてる。

いつかのあの男の人――?
静かに立ち上がった伊藤の後ろについて、智も玄関に向かう。
ドアののぞき穴を見た伊藤は、小さくため息をもらした。

「誰?」
小声で囁くと、伊藤は何も言わないうちにチェーンとロックを解除した。
それと同時に、伊藤は智の後ろに1歩下がる。

「大原さんです」
「とも〜!!」
伊藤が言い終わらないうちに。
開いたドアから飛び込んできたのは、顔をぐしゃぐしゃにした加奈子だった。

「加奈子!?どうしたの??」
智を羽交い絞めするように抱きついた加奈子は、普段の加奈子では考えられないほど混乱している。
加奈子からは、アルコールの匂いがする。
だいぶ飲んできたみたいだった。

「……緊急事態ですね」
「い、伊藤君」
同じことを思ったのか、伊藤がぽつりと呟いた。
ここにいるはずのない声に顔を挙げた加奈子は、ようやく伊藤に気がついたようだ。

「あたし思いっきり、邪魔したっ!?ごめん、気にせずドウゾ!!」
加奈子は慌てて智から離れると、再びドアに手をかける。
「ちょっ、加奈子っ」
慌てて加奈子の腕を掴んで引き止めると、智はどうにか落ち着かせようと試みる。

「何かあったの?」
「…………」
加奈子は1度口を開いたが、ためらうようにして口を閉ざす。
それを見ていた伊藤が智に声をかけた。

「先輩、俺帰りますね」
「え、」
「その方が話やすいはずですし、そ…」
「ダメ!伊藤君を帰すわけにはいかない!!」

伊藤の申し出を断ったのは、加奈子の方だった。
「この埋め合わせはするから…」
智と伊藤の腕を取ると、加奈子は再びドアの外に向かう。

「ちょっ、加奈子?」
「お願い、今夜は付き合って!!」
「……せめて財布と上着を取らせてください」



と、いうわけで。
閉店まで飲み、見事終電を逃し、当然伊藤は車を運転して帰るわけにも行かず。
3人で智の家でお泊まりすることになったのだ。

――今日が休日でよかったよ。

スクランブルエッグをほお張る加奈子を見て、智はちょっとだけ眉をひそめる。
昨日ほどの悲壮さはないにしても、やっぱり浩太さんとのことが後を引いているようだ。

智はちらりと向かいに座る伊藤に目をやった。
智に気づいた伊藤は視線だけで何か、と尋ねてる。

途端、体温が上がった気がしたが、伊藤は慌てて視線をそらす智を気にすることなく食事に戻る。
伊藤に、普段と変わった様子は見られない。
昨日の今日で、余裕の表情をしている伊藤に智は何故だか負けたような気がしてきた。

その顔をちらちらと見ながら、フォークを動かしていた智だっだが、何だか段々癪になってきた。
――意識してるのはあたしだけ?

昨日のことは、このまま曖昧になってしまいそうな予感がする。

「ねえ、結局どっちが先に折れたの?」
そんなことを考えて、ぼんやりとしていた智には、加奈子の言葉が唐突に聞こえた。
「は?何の話?」

「だから。どっちが『スキはあと』、なんて言ったの?」
加奈子は2人を交互に見る。

智は一瞬息を詰まらせた。
伊藤から呆れたようなため息が漏れる。

声を上げたのは、ほぼ同時。


「俺からは言いませんよ?」
「あたしから言うわけないじゃんっ!!!!!」

15.スキなんて
お題提供:誰でもトライ20のお題
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