日陰者ジュード   183

September 05 [Mon], 2011, 15:17


1895年に出版された『日陰者ジュード』は発表当初からタイヘンな悪評にさらされ、攻撃を受けたトマス・ハーディはこれ以後33年間、詩作以外の一編の小説も作っていない

いきなり横道にそれるが、「アラビアのロレンス」や「ドクトルジバコ」のデヴィッド・リーンが、「ライアンの娘」(1970)への酷評に耐えかねて、その後「インドへの道」までの14年間映画を作らなかったことと思い合わせる。

イギリスのインテリ、かなり繊細で傷つきやすい人たちかなぁ、と。

訳者の川本静子さんも言われる「宗教・学問・法律の領域についてヴィクトリア朝社会を支える三本柱の体制を批判する」『日陰者ジュード』は、確かに社会への脅威だったかもしれない。

貧しい生まれのジュード・フォーレイは故郷から霞のように遠くに見えるクライストミンスター(オックスフォード)に憧れ、独学でラテン語を学び、古典を読み込み、その場所で学ぶことを夢見ていた
貧しい生活に追われ、結局生涯それは叶わず、その周りで石工などをして暮らしたのだったが。
(その後1899年に労働者階級の高等教育のための「ラスキン・コレッジ」がオックスフォードに設立されたという)

愛してやまなかったクライストミンスターの建物とその中身(学問)に疑問を持つようになったのは、従妹のスー・ブライトヘッドの影響だった。
ジュードもスーも早くに親を亡くし、お互いに知り合ったのは、育ての親大伯母の危篤の場面だった。
ふたりとも繊細で純粋、お互いに感性が同じであることを実感する。
スーは教養豊かで自活し、「精神的なるもの」そのものの人だった。
学問や宗教を理解しながらも、その権威について批判的な考えを持っている。
やがて愛し合うようになる。
しかし、ジュードには若気の過ちで結婚したアラベラがいる。・・・奔放なアラべラとはすぐにすでに別居だったが。(一旗あげたいAはオーストラリアへ)
スーは、教職課程でお世話になった年上のフィロットソンと社会通念上の義務感から結婚する。
けれどもどうしてもフィロットソンを好きになれずに苦しむ
悩んだ末に家を出てジュードと暮らすようになり、やがて両方とも離婚が成立する。

しかし、ジュードとスーの結婚は・・・。
教会での結婚でも、役所での結婚でも、外側で認めてもらうことが却って二人の結びつきを弱めるのではないか?
とスーは思索し、悩みつつ、三回も間際(日本風に言えば「ハンコを押す」寸前)で撤回。
中身の充実を選んだのだった。(今風に言えば、「事実婚」)
ただし、社会的に不完全な結婚ゆえに職場を追われ、地域社会を追われるのだった
アラべラとの子供を引き取って、また彼らの3人目の子どもが生まれる頃は貧しさも極地だった
ジュードは病気だった。

「ぼくたちはおおすぎるのでやりました」
と上の子が下の二人を道連れに死んだとき、
スーはもう一度社会通念の中に自己を押し込める。
子供らが死んだのは自分の行いのせいだと。
つまり、・・・愛してはいないけれどそこにいれば相手の社会的地位も保たれるフィロットソンのもとへ帰ろうと。
性的な関係を排除、「友人」の関係を保ちながら。

アラべラの攻撃もあったが、ジュードが心身ともに打ちのめされたのは、このスーが「慣習のくびき」に引き戻されたことだった。
「たてまえ」に生きることを選んだスーは、まだ30前のジュードの今わの際にも訪れなかった。


この小説がドイツで連載された時、スーを「最近あらわれたフェミニストの女性」であり「これが女性の手で書かれなかったことが遺憾」と評されたと、ハーディ自身が16年後の「序文・追記」で書いている
確かに1880〜90年代、イギリスでもフェミニズム運動が盛り上がり、女の役割や地位や本質の見直しが促され、「新しい女」の理想像が希求されたという。
ハーディも大いに関心を持ち、『テス』や短編集でもそういう記述に事欠かない。

『いつか晴れた日に』は、ジェーン・オースティン(1775〜1817)の『分別と多感』が原作だが、主演でもあり脚本も書いたエマ・トンプソンがコメントで、「このコスチューム、ギュッと縛られて身動きが不自由な衣装で撮影するとき、あの時代の女性のがんじがらめの不自由さを実感するワ!」と言っていた。(あのコスチュームはいつまで? 1930?)
それから80数年で『ジュード』。
日本の『青鞜』は1911年だった。
私のところに届いたのは、今世紀になってからだった


この小説の3本柱の一つ、宗教(キリスト教)批判のことはよく理解できなかった。
私自信が宗教のことを真面目に考えたことがないからだと思う。スンマヘン

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