不思議な音楽観と高い技術の融合

August 21 [Sun], 2011, 15:20

Circus "Movin’on" Switzerland ZYT 211

「サーカス」。この名を冠するバンドは世界中にどれくらいあるだろう。
メル・コリンズを擁したトランスアトランティックレーベルのサーカス、RCBレーベルのレア盤として名高い「K」のサーカス、そういえば日本にもサーカスというコーラスグループが70年代にヒットを出していた。

このサーカスはスイスのグループだ。
本作は1977年に発表されたセカンドアルバム。
名盤らしく何度か再発されているが、オリジナルの特徴はジャケットの青地に白い馬の模様の青が比較的薄く、見開きジャケットがユニパックタイプになっているもの。
オリジナルはそこそこレア。

しかるに何故か今一歩人気がないような気がする。ちょうどスイスに同時期に現れたアイランドというグループの唯一作「ピクチャーズ」は、かのH.R.ギーガーがジャケットを描いていることもあって、マニアの間ではそこそこの人気と評判を得ているのとは対照的だ。

何故だろう?

かく言う私も昔、再発盤を再発と知らずに買って聴いたとき、パッとしない印象を受け手放してしまったくちだ。
久々に格安価格でオリジナル盤を再入手したので、その理由を考えてみよう。
(本人たちが聞いたら「大きなお世話だ」と怒りそうだがww)

サーカスはまずその編成が異様だ。

どうやらドラマーのFritz Hauserがリーダーのようだが、普通メロディラインをとるエレキギターとキーボード奏者がいない(アコースティックギターはいるが)。代わりに兼任ながらサックス奏者が二人もいる。
そのわりには2本のサックスがブカブカ吹きまくりアンサンブルを引っ張るかというと、そういうわけでもない。
ベースもベースペダルも使うし、アンサンブルを支えるというよりは、表に出て目立つベースラインを弾いている。メンバーは各々かなりテクニックがあるようで、特にドラマーのテクニックと手数は特筆に値する。

ここまで書くと、昔聞いたときに受けた「ワケのわからない音楽」という印象を裏付けるに十分だ。

ところが、今になって改めてオリジナル盤を聴いてみたら印象が変わった。

というのは、オリジナル盤の録音・音質がすばらしく良いのだ。
いい音で聴くと、この音楽のやりたいことがなんとなくわかったような気がする。

楽曲は全体的にジャズのフィーリングが濃厚だ。ドラマーがプレイするビブラフォンのようなパーカッションがフローティング感のあるハーモニーを作り出している。サックスのトーンも非常にまろやかで攻撃性はなく、アコースティックギターもサックスと同じく全体のコンセプトに阿るようなプレイだ。
だが、ビブラフォン、アコースティックギター、サックス、フルートはそれぞれソロらしきものをとるのだが、他の楽器もごちゃごちゃと鳴っていて、プレイを聴かせるというよりも上物楽器の鳴っているシークエンスをバックにドラムやベースのプレイを聴かせる感じ。
ある意味、斬新で、面白い。
所謂典型的なジャズロックの形態とはかけ離れている。
コウマスのようなアコースティックロック、MJQのようなジャズ、現代音楽、そしてクラウトロックをキング・クリムゾン的プログレ形態を借りて組み合わせたとでもいうべきか?

A面はそれでもロック的ポピュラーミュージック形態の断片が伺えるが、B面に至ってはクリムゾンなどのプログレの先人たちも用いないような、少々無理があるくらい脈絡があまり感じられない異様な楽曲だ。
楽器の構成のせいか、ジャズフィーリングのせいか、複雑なことをしてているわりには明るく透明感があるのも特徴だ。
おそらくFritz Hauserはロック畑の人ではないのではないか?
さきほどクラウトロックを引き合いに出したが、クラスターしかり、カンしかり、グル・グルしかり、元々ロックのフィールド外の人がロックの形態をとりながらも、ポピュラーミュージックのイディオムを無視して独自の畸形ロックを作り上げたのがクラウトロックという言い方もできるわけで、このサーカスも少し遅れてきた畸形ロックの一種ではないかという気がする。
今になって改めて聴いてみると、この少々強引で無理のある楽曲構成も現在の音楽から見るとさほど抵抗がなく受け入れることさえできる。

これらの印象もすべてこのオリジナル盤が持つ高音質故であることは非常に重要だ。

こうした音響系ジャズロックとも言うべき異端ロックは、録音がよくないとその良さは伝わらないだろう。
現代音楽のレコードやジャズの多くのレコードがそうであるように、やはり音楽における録音の良さはその音楽の全貌を伝えるの非常に大切で、聴く人の音楽観を多様化させてくれる重要な手助けになるということだ。
私ももしかしたら本作をオリジナル盤で聴かなかったら、本作を好きにならなかっただろう。

最後に思い出話をひとつ。
私がこのレコードのことを初めて知ったのは高校生の時、フールズメイト誌Vol.11のディスクレビューを見た時のこと。私がフールズメイト誌を初めて手にしたのはこのvol.11からで、今でも大切にとっている。この頃のフールズメイトは、今から考えると情報はおそろしく少なく間違いだらけで、著作権無視のイラスト流用がやりたい邦題の内容だが、気概と熱気が伝わってる。
そんなフールズメイトの隅っこのレビューに載っているレコードのオリジナル盤を何十年も経って聴き直してみたわけだ。
当時とは比べものにならない機材で再生し、当時に遠く及ばない熱気と思い込みを以て聴き、そして少しだけ当時の想いを馳せてみたのだった。


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オオヒラヒロモト様 そうです!! その通りです!!
先ほど ○ィスク○ニ○ンさんにお尋ねしたところ
「確かに存在します 激レアなので もし日本に入れば 相当高いです」との事
しかし その後 西新宿のお店に尋ねたら
「再発にも付いていたのを見た事がありますので 一概にオリジナルにのみ
ブックレットとカードが付いているとは 言い切れない 」との事で
UKのバンドではないので どこに聞いても 確かな事を 自信を持って
言い切れないというのが実状の様です
辺境の地のオリジナル盤収集は険しい道のりですが
実に征服しがいのある趣味だと思いますよ 

by イプシロン・エッセ February 14 [Tue], 2012, 18:14

なんと!!ご指摘のページはこちらですか?
確かにブックレットとカードが付属しますね!
初めて知りました!

たとえプロモ資料のようなもので初回すべてついているとは言えないとは言っても、こうして目の当たりにするとがぜん欲しくなってきてしまいますね!
とくに気に入っているレコードではなおさらです!
このCIRCUS「MOVIN' ON」のブックレット付きも私にとってのそんな征服すべき難物コレクションにリストに加わってしまいました(笑)

プロモ資料ブックレットと言えば、私が長らく探しているのがSlapp Happy「Desperate Straights」のUKヴァージン盤のごく初期にあったと言われるブックレット付きのものです。
もう何年も前にオークションで競り負けて以来、とにかく欲しくてしかたありません。

そんなこんなのミッシングピースを埋める作業自体がレコード蒐集の愉しさであり、その道のりが険しいほど、面白みが増していくように思われます。

by オオヒラヒロモト February 14 [Tue], 2012, 16:31

初めまして いつも参考にさせて頂いております
この CIRCUSのmovin'on を購入する際にもお世話になりました

最近 「このアルバムは海外の方が高い」という話を聞きましたので
早速 某オークションサイトを見たら 確かに 日本の市場価格より1.5〜2倍位
高いようです そのまま眺めていたら 衝撃の画像を発見

私の購入価格の3倍以上の値段で落札されたもので
何とジャケットと同じデザインのブックレットと バンドのロゴマークが入った
名刺大サイズのカードが付属した いわゆる完品が存在するではありませんか!

毎回ですが 完品と思って買ったオリジナルに 実は付属品が色々付いていると
分かった瞬間の落胆は 結構厳しいです 安い買い物ではないので・・・
しかし このCIRCUSの movin'on の完品 国内の専門店でも
存在は確認しているが 「入った事も 見た事もない」
「本当に自主製作のファーストプレスに そこまで付属するか謎・・・」と
色々な意見があり 一概に「間違いなく 完品」とは言えないようです
この意見で 少しは救われましたが・・・

by イプシロン・エッセ February 14 [Tue], 2012, 12:15
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