悲しみのヨーロッパ

March 21 [Thu], 2019, 20:20
思いがけなくも自分にとって至高の一枚が手に入った。

Slapp Happy / Henry Cow「Desperate Straights」UK Virgin V2024
英国ヴァージン初版のテストプレス白ラベル。


言うなれば「現在の私を形成した作品」である。

英国初版はかなり前から所有していた。
テストプレスやプロモ盤があることは頭ではわかっていたが、英国初版は十分に良い音だし、このレコードのテストプレスを追い求めなんて思い浮かばなかった。

だが、カンの「モンスター・ムービー」初版(https://yaplog.jp/geppamen/archive/1479)を購入した時もそうだったが、時としてこうした「私的究極アイテム」に目の前で出会い、手にする僥倖に恵まれることがあるのだと改めて悟った。

運命と言ってしまおう。

英国初版は所謂「カラードラゴン」ラベルで、曲名は手書き風(手書きかもしれない)の書体で印刷されている。


このアルバム、英国ヴァージンからだけでも何度かプレスされていて、レーベルも知っているだけでオリジナル、レイトプレス含め3種ある。


(写真出典:Discogs)

そのいずれにもテストプレスが存在するとすれば、レイトプレスのテストである可能性もあるわけで、白レーベルだと写真を見ただけではさっぱり判別がつかない。手元に届くまでドキドキワクワクしながら待った。

本品はテストプレスなので白レーベル。白レーベルには手書きで作品名を書き込んだものが多いが、本品には何も書かれていない。

じっくり検分した結果、初版テストプレスに認定した。

ポイントは
@マトリクス
A面: V 2024 A-2U(マシンタイピング)PN/A(手書き)
B面: V 2024 B-1U(マシンタイピング)PN/B(手書き)

Aマザー/スタンパー
両面ともに1G

Bスタンパー形状


コンディションも素晴らしい。

白レーベルなのでスピンドルマークが目立つはずだが、両面ともわずがに1本すつあるのみ。盤面もピカピカでまさにニアミント。

そして音質。

これまで英国初版の音に不満はなかったが、さらにそこから薄い被膜を一枚剥がしたような鮮明さだ。

英国初版では右チャンネル側にごくわずかにあった「チリつき」も完璧に消え失せる。

聴き慣れた作品だが、改めてテストプレスの音を聞きなおすともうドーパミン出まくり。
至福の時間。
今人生が終わっても何の悔いも無いとさえ感じる。

プログレッシヴ・ロック・ムーヴメントに退潮の兆しが現れ始めた1975年、スラップ・ハッピーとヘンリー・カウのメンバーたちはこの音を聴いていただろうか?
もしかしたら、このレコードをかけていたのだろうか?
そんな想像をしながら聴いている。

このレコードのテストプレスって世界中に何枚くらいあるのだろう?
私はその限られた枚数の所有者になったわけだ。

思い起こせば高校時代。
日本ビクターの廉価国内盤シリーズで出た時、少ない小遣いをやりくりした購入した。
邦題は「悲しみのヨーロッパ」。
はじめてこのアルバムを聴いた時は「失敗した」と思った。

1曲目の「サム・クエスチョンズ・アバウト・ハッツ」の不安げな和音に続いて出てくるダグマー・クラウゼの強烈なドイツ語訛りの聴きづらい一種異様で独特なヴォーカルは、それまで聴きゃすい音楽ばかり聴いてきた私に強烈な拒否反応をもたらした。
2曲目のジ・アウルの合唱も独特すぎて何がいいたのかわからない。
5曲目の「エウロペ」も1曲目に負けず劣らず強烈だ。なんでロックにバスーン、木琴、金管が入っているのか?ダグマーのヴォーカルも聴いていて怖くなってきた。

アルバム全体が金管を使った室内楽とロックが合わさったような音響で、なんとなく教育番組のバックで流れているような雰囲気に感じた。

ファウストのファーストアルバムを聴いたのも同じ頃だったが、この二枚はなんだか「うっかり入ってはいけない部屋に入って、見てはいけない儀式を見た」ような気分になった。

それが、聴いているとだんだん馴染んでくる。
高校生の自分の血肉になっていくのを感じた。

2〜3ヶ月もすると、すっかり他の音楽が退屈に聞こえるようになってしまった。

その後次々とヘンリー・カウ、アート・ベアーズの諸作品を聴くようになり、今から思えばお金を払って「聴いてつらい思いをするレコード」ばかり聴くようになった。

立派な屈折青年の出来上がりだった。

スラップ・ハッピーの音楽を聴いたのはこのアルバムが最初で、かの奇跡的傑作「スラップ・ハッピー」(ヴァージンから出た方)を聴いたのは少し後だった。
もしあの時廉価盤シリーズで一緒に出ていた単独作品「スラップ・ハッピー」を先に聴いていたらその後の音楽観はかなり変わっていたかもしれない。

今でも時々「悲しみのヨーロッパ」を聴くことがあるが、そのたびにあの頃の自分を思い出す。今のねじ曲がった自分の原点であり、ターニングポイントとなったレコードであることは間違いない。自分の人生の中では、クリスチャン・ヴァンデの「トリスタンとイゾルテ」の国内廉価盤と並び、高校生時代に受けたファーストコンタクトでの衝撃は最大級だったと思う。

例えばノイズ系のレコードなども衝撃度はあったのだが、「悪意」が見えるぶん衝撃度は薄い。
今にして思えば、当時の自分はこのレコードから全く「悪意」が感じられなかったのだと思う。「悪意」が無いから、「異界」を覗いたような衝撃を受けたのではなかろうか。

今となっては、愛らしい楽曲ばかりだ。
今聴いても本当に素晴らしい作品だと思う。

間違いなく聴く人を選ぶけど。。。

だがしかし!

このレコードの究極にはまだ到達していない。
このレコードはごく初期にはプロモーション用として16ページのブックレットが添えられたものがあったそうだ。いまだ実物を目にしたことがない。10年以上オークションでも見ていない。
1度オークションで争ったが、敗れ去った。
下記の写真はTwitter「ランブリンボーイズ」さん(https://twitter.com/ramblinboys)からいただいたカラーコピーを使って手作りしたもの。
ああ、いつの日か欲しいなあ。


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40代は第2の思春期なのだそうです。思春期に惹かれたものをもう一度ひっぱりだしてきて後生大事に整理を始める今日この頃。プログレを中心としたアナログレコード集めに人生の貴重な時間を費やすささやかな記録です。
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