スティーヴン・ウィルソン meets ジェスロ・タル

December 29 [Sat], 2018, 10:00
2018年の最後のブログはジェスロ・タルのスティーヴン・ウィルソン・マスタリング(以下「S.W.M.」)DVDにする。

デジタルリマスターはどれがどれだかわからないくらい出ていて、中には知らない間に出ていて売り切れですっかり入手困難化しているものもある。またリマスター後のメディアもDVD-Audioだったりブルーレイだったり、ハイレゾダウンロードもあったりで実に悩ましい。

だが昨今は、既に聴いたことのある作品のリマスターを悩みながら買うくらいなら、徐々にCDとの音質差が顕著になってきたアナログの初版を買った方がずっといいと考えている。
デジタルリマスターで音質向上が向上すると言っている人もいるようだが、これまで聴いた限りではリマスターがアナログ初版に音質的に勝ることはめったにない。
アナログ初版の音質がイマイチなレコード(例えばクィーンの「オペラ座の夜」)ならリマスターも気にならなくはないが、なんとなくCD音質で聴いているとストレスを感じるようになってしまった今、DVD-AudioやSACDのような上位フォーマットでないと、まず買うことは無くなってしまった。

といったわけで今やデジタルリマスターで買うとすれば、必ずマザーテープを元に5.1chとステレオバージョンとハイレゾのステレオバージョンを出してくるS.W.M.くらいものになってきた。
S.W.M.はいたずらにコンプをかけてゲインを上げるリマスターをしないので、再生環境によってはゲイン不足になりそうだが、音質、バランスともに非常に好ましいものばかりで、クリムゾンのリマスターなどは元々オリジナルの音質は悪くないにも拘わらず、一通り揃えてしまった。
イエスの「危機」などはオリジナルの初版に大いに不満を持っていたので、S.W.M.が出た時はその音質に快哉を叫んだものだ。
ジェントル・ジャイアントはメディアがBlu-rayなのでデジタルの再生環境が貧弱な私には不向きでパスせざるを得なかったのが残念だ。

さて、ジェスロ・タルのS.W.M.に話を戻そう。
タルのS.W.M.は、私はすっかり情報が抜け落ちていて気がついたらもう殆どの作品が過去のリリースとなっていて、しかも入手困難状態となっていた。中古市場に出てもお安くはなく、ついついレコード購入の方に少ない資金を回すようになり、興味はあったもののなかなか聴けないでいた。

そんなところに「ジェラルドの汚れなき世界」のS.W.M.バージョンが新品価格に近い値段で出ていたので試しに買ってみた。
CD+DVDのセットで分厚いカラーブックレット&ハードカバー装丁も豪華。

Jethro Tull『Thick As A Brick〜40th Anniversary Set』 US CHRYSALIS 5099970461923

だが私の場合、レコードと違いS.W.M.の音源は良い音質で聴くまでに手間がかかる。

我が家のデジタル再生環境は貧弱だ。
DVD-AudioやBlu-rayは録画用に使っているBlu-rayレコーダーを持つのみ。
当然5.1chは再生できない。
5.1chの再生環境の整備は部屋のスペースの関係でもずっと二の足を踏んでいる。
S.W.M.の利点を半分も享受していない。
ステレオバージョン再生の音もBlu-rayレコーダーに時代遅れのDACを繋いでの再生なので音質的によろしくない。
いつかの日かOPPOのプレーヤーを買って再生する日を夢見ながら、メディアを大切にキープしている状態である。

今は主にPCオーディオとDACの組み合わせでの再生が我が家のデジタル再生環境の中では最も音質が良く、購入したDVD-Audioをfoobar2000というソフトを使って一度Flacフォーマットにリッピングして聴いている状態。

クリムゾンやイエスのDVD-Audioはfoobar2000を使うとわりとあっさりFlac化できるのだが、このタルはそうはいかなかった。
確かに音声は24bit96kHzなのだろうが、DVD-Audioのフォーマットではないらしくfoobar2000では認識しない。
仕方なくDVD DecrypterでVOBファイル化した後、XMediaRecodeで音声を抽出するしかない。
「ジェラルドの汚れなき世界」はアナログだとA/B両面あわせて一曲約44分という長さなのだが、リッピングしてみるとVOBファイルが約17分のデータが二つある。
「あれ?」と思って音声を抽出してみると、どうやらひとつめのファイルは本当に17分くらいでアナログのA面の途中で切れている。すかさずもうひとつのファイルが切れた部分から始まっている。
2ファイル足しても35分くらい。
「あれ〜?操作間違ったかな?」と思って何度かやり直しているうち、3つめのVOBファイルがDVD内にあることに気付いた。
リッピングして音声を抽出してみると、ああ、あったあった。残り 10分弱のトラック。
普通にBlu-rayレコーダーで再生するとパート1とパート2で一度切れるようにオーサリングされているので、てっきりファイルはふたつだと思い込んでいたのだ。
アナログ人間の悪いクセだ。
VOBファイルは17分くらいで分割されるようにできてるのかな?

とにかくこの3のトラックをつなげるとオリジナルの約44分になる。
PCオーディオで再生するとソフトによっては3つのファイルをまたいで再生する時に音切れしてしまうので、得意のAudacityで3ファイルを連結し、ひとつのFlacファイルのまとめて書き出した。

ようやく再生。

「ジェラルドの汚れなき世界」の英初版は変則新聞紙ジャケットに包まれた「i」アイランドマーク入りのクリサリスレーベル。

マトリクスはA面3U PORKY刻印 / B面2U PECKO刻印。
手持ちのマザー/スタンパーはA面 1R/B面 1Aなのでそんなに悪くないハズ。

最初に聴いたのは国内盤。内容は疑いなくプログレッシヴ・ロック史上に残る名作なのだが、いかんせん音が「眠い」。
まずイントロのアコースティックギターの音量が小さい。
追って出てくるイアン・アンダーソンのヴォーカルも小さめ。
バンド演奏になって少しボリュームが上がってくるが、ゲイン不足感がいなめず迫力に乏しい。
しかも高域が落ち気味で靄がかったような印象だ。

やがて英国初版を入手したが、音質は向上したものの全体の心象は変わらなかった。
90年代に出たリマスター紙ジャケはその装丁に惹かれて買ってしまったが、音質はひどかった。

そう言えばタルは最も好きなバンドのうちのひとつだけど、どうにも目の醒めるような音質のレコードは少ないような気がする。

内容的には文句なく最高傑作の「ジェラルドの汚れなき世界」をいつかいい音質で聴きたいと思っていたのだが、イエスの「危機」に続きS.W.M.がまたやってくれたという感想だ。

S.W.M.にはめずらしくゲインが高め。
もしかしてスティーヴン・ウィルソンは私と同じようなストレスをかかえて聴いてたのだろうか?

各楽器の輪郭が明らかになり、楽器間の隙間がよく見えるようになったが、ヴォーカル、メイン楽器とバックとの差もきちんをついている。
特にアナログでは不満だったドラムの音が非常にクリアになりつつ、コンプレッサーの掛け方が絶妙なところで控えられている。
少しシンバルを上げすぎな印象を受けるが、これまでの靄のかかったドラムに比べればかなりマシ。
中間部ではシンバルにわざとフェイザーを掛けているように聞こえるが、そこもオーディオ的な空間演出を感じる。

これまであまり気にしていなかったブラスセクションの音もバックには徹しているがキレイに聞こえるようになった。
付属のCDの音源も新規リマスターと同じミックスを使用しているが、うまく16bit化してる印象。ヘッドフォンステレオで外で聴く分にはこれで十分だろう。だがやはり高域、低域の伸びが24bit/96kHzに比べかなり劣る。

DVD-Audioフォーマットの24bit/96kHzのバージョンはオーディオ的愉悦に満ちている。
サンプリング周波数が高く、スピーカー離れの良い音で、空間性が優れいている。
両スピーカーのさら外側からも音が聞こえるように感じられ、靄のとれたドラムと輪郭がハッキリとし、地を這うように出てくるベースラインも演奏のダイナミズムを伝える。
タルのリズムセクションといえば、初期のクライヴ・バンカー&グレン・コーニックが圧倒的だと思っていたが、いやいやバリーモア・バーロウ&ジェフリー・ハモンド・ハモンドのコンビも勝るとも劣らない。
レコードに比べ心地よく音圧がありながら、ハイレゾ感も高いので聴いていて気持ちいい。

一度S.W.M.を聴いてからアナログ初版を聴くと、これまで抱えていた「もやもや」への答えがインプットされたおかげで、微妙に脳内で補正しながら聴いている自分に気付く。
初版ならではの「音の鮮度」とS.W.M.の持つ楽器の輪郭がうまく補正されて「こうなんじゃなかったかな〜?」的な音像が頭のできあがる。
さすがに、レコード最内周の音質は少し力なさが目立つ。片面の収録時間も長めなので致し方ないところ。
でも。。やはり両方持ってないとダメだね(笑)
いささか音質の話に偏ってしまったが、DVD-Audioを映像付きで再生するとふだん余り見ない新聞紙ジャケットを、曲の進行につれて自動的にめくってくれるのも悪くない。

ジェスロ・タルの中期はどれも内容はいいのにレコードの音は今ひとつのものが多いので、この出来なら他のS.W.M.のジェスロ・タル作品も買わなくちゃね。

さて、このアルバムを聴く度にいつも気になるところがある。
歌詞で言えば「The poet and the painter casting shadows on the water」のすぐ前をはじめ、ベースの弾いているある音程がどうにも心落ち着かず、不安定な気分になるフレーズが何度か出てくる。
これ、こういうものなのだろうか?
S.W.M.でもそこは同じだった。当たり前か。。
昔話になるが、カンタベリー音楽を得意とする音楽ライターの坂本理さんが若いころお気に入りの作品のひとつとしてこのアルバムを挙げておられたのを思い出す。ぼんやり覚えているのは「展開の激しいアルバムだが、次にこうなるんじゃなないかという自分の予想がズバズバ当たる」と評されていた。それだけ展開や起伏が自然ということなのだろう。
楽曲といい、歌詞といい、トータルアルバムのコンセプトメイキングといい、衣装といい、ライブの演出といい、この時期のイアン・アンダーソンは神がかり的な才能を感じる。
よく5大プログレバンド(クリムゾン、イエス、EL&P、フロイド、ジェネシス)というが、アメリカでの売れ方やトータルの活動歴ではタルは前出の5バンドに勝るとも劣らないと思うのだが、まあプログレの枠に留めてしまうのも惜しいという気もする。

さて、ジェスロ・タルは、そうでないような名義(2013年のジェスロ・タルズ・イアン・アンダーソン来日)も含めてかなり日本に来ていてさすがに最近はパスしてしまっている。

最初に見たジェスロ・タル1993年の来日は今でも忘れられないベスト・ライブ・パフォーマンスのひとつだ。
渋谷のON AIR EASTで1回きりライブだったけど、始まるまえに変な婆さんがステージの上でモップがけをしてたかと思うと、バンドが出てきて演奏を始め、最後にステージ袖からストレッチャーが疾走してきて、載せられていたイアン・アンダーソンが飛び起きて「日曜日の印象」を歌い出すというものだった。

2015年のイタリア旅行でヴェローナでジェスロ・タルのトリビュートバンドを見た時は、ドラムでクライヴ・バンカーが叩いていたが、その圧倒的な音量にぶっ飛んだことの記憶に新しい。

こうして過去の名作を素晴らしい音質で聴き直すと、次来たら行こうかなという気になってくる。
できればクライヴ・バンカーを一緒に来ないかな。
無理だろうけど。。
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